0380本当にあった怖い名無し2022/04/25(月) 23:00:47.66ID:1EMC2nlh0
「そこのマンションって、管理人さんが常駐してないんですね。で、週2くらいで管理人の関係者のおばあさんが、掃除に来るんです」
数日後の朝、そのおばあさんに行き会った。
この間のあれについて尋ねてみたい、とGさんは思った。しかし、「部屋に女の幽霊が出て歌を歌った」などと言って信じてもらえるはずもない。
おはようございます、と挨拶してから、おもむろにこう言ってみた。
「あのぅ、この辺で、夜なんですけどね」
「はいはい」おばあさんは愛想よく返事をする。
「なんだろうなぁ、オルゴール? の音がしてくるんですよね」
「あぁー、それねぇ。オルゴールの曲ね。あなたも聞いたのね?」
「あっ、以前からそうなんですか?」
「そうそう、いつからなのかはわかんないんだけど」
おばあさんはいつものほのぼのした口調で答える。
0381本当にあった怖い名無し2022/04/25(月) 23:01:27.07ID:1EMC2nlh0
「あれねぇ、季節とか時期によって曲が変わるんだよねぇ」
「えっ? ……あぁ、そうなんですね…………」
曲が変化すると聞いて少し驚いたが、どうにかごまかした。
「いや、真夜中に聞こえてきたもんで、あれって何なのかな、って思いまして」
「あー気にしなくてもいいから。『なんかオルゴール鳴ってるなー』って思ってればすぐ止むから。すぐ止んだでしょう?」
「そうですね、1番っていうか、一回鳴ったら終わりましたね」
「うんうん、うるさくないでしょ全然。ちょっと聞こえるだけね」
「えぇ。えぇ。かすかに聞こえるだけなので、耳障りではないんですけど」
「あれ、どこからかなって思わなきゃいいから」
「…………どこから?」
「これ、どこからかなー、って思うと、よくないからね」
「…………あのつまり、どこから聞こえてくるのか、って考えると…………」
「あーもうダメダメ、それ考えちゃうとダメ。場所、気にしちゃダメ」
「……………………」
「あとは大丈夫だから。なんともないやつだから。ね!」
そういうことは早く言ってほしかった、とGさんは哀しく思ったそうである。
「…………それからねぇ」
これで終わりかと思いきや、彼はまだ話を続けた。
「後で気づいて、いちばん怖かったことがあるんですよ」
彼の部屋のクローゼットは、真ん中に上下を分ける仕切り板が一枚入っている。
0382本当にあった怖い名無し2022/04/25(月) 23:01:46.64ID:1EMC2nlh0
上にはスーツや私服を掛けて、下段には衣装ケースや雑貨を詰め込んでいるというのだが。
「歌ってた女はね、最初俺、『クローゼットの中に立ってた』って思ったんですよ。
でも無理なんですよね。下段には荷物があるし、仕切り板があるんですもん。
だから……あの時は瞬間的に『女が立ってる』って判断したんですけど、
もしかしたらあの女って、仕切り板から上の、上半身しかなかったんじゃないか、って…………」
暗いクローゼットの中にいた女の特徴のない顔は思い出せるのに、体がどうなっていたのかは思い出せない。
Gさんは、それがとても怖いんです、と語るのだった。
彼はまだ、そこに住んでいる。
夏や冬はもちろん、春でも秋でも、夜になったら窓をピッタリ閉めるようにしている。
オルゴールの音色が、できるだけ聞こえないようにしているのだそうである。