『怖い』を楽しむオカルト総合ブログ

怪談夜行列車

第三部 二話 大霊障・後編

投稿日:2024年11月7日 更新日:

天道宗の集大成、大霊障と思われる同時多発の心霊テロ。
東京や大阪の人が多く行き交う場所に置かれた箱。
その周囲で人がバタバタと倒れていき、ネットで拡散した映像や画像にはどう見ても心霊としか思えないナニかが映り込んでいる。
そして人々の面前で行われたヨミによる集団入水自殺のパフォーマンス。
結局横浜で海に飛び込んだ人間で助かったのは2人しかいなかった。
その2人も病院に搬送されたということ以外の情報はない。

篠宮さんとの電話を終えた俺は阿部ちゃんと共に民明放送から最も近い現場に急行した。
駅構内は現場付近こそ封鎖されているものの、押し寄せる通勤客や俺達のような野次馬を完全に制御できずに混沌としていた。

いつのまにか置かれていた黒い箱。
警察あるいは何者かが持ち去ったのか、その箱の行方はネットには上がっていなかったが、開封された箱にこれ以上の脅威があるとも思えないので気にしないことにした。
開封された箱の周りで人々がバタバタと倒れていく現象はどこの現場でも10分ほどで収束し、中に入っていたと思しき霊はどこかへと消えたのか新たな場所で同じような現象が起きることはなかった。

民明放送に篠宮さんを含む霊能者組が集まる時刻は19時、今から2時間後だ。
それまで現場で出来る限りの取材をしておこうとカメラを持ってきたのだが、すでに集まっていた報道陣や素人カメラマンの人垣に阻まれて現場には近づくことも難しかった。
とりあえずドキュメンタリーに使うための現場映像だけ撮影して民明放送に戻ることにした。
阿部ちゃんが運転するクルマの助手席に座りネットで情報を集めているとOH!カルトのツイートが拡散されていた。

『天道宗による同時多発テロを糾弾するゲリラデモを実施します』
という宣言と共に、明日の10時に横浜駅に集合、目的地は天道宗関連施設という旨の告知がなされている。
篠宮さんと話し合って決めたことだが、幸いなことに急遽であるにも関わらず霊能者組は全員が参加可能ということだった。
事態の重さを鑑みて翌日の仕事を延期あるいはキャンセルした人もいるようだ。
天道宗関連施設と書いたことで天道宗側はミルキーウェイに乗り込まれるのを警戒するだろう。
実際にミルキーウェイが入っているビルを取り囲む形でデモをしつつ、阿部ちゃんを残して俺達はデモ隊の半数を引き連れて道厳寺へと向かう。
高齢の小木老人をデモから守るために連中はおそらく道厳寺に避難しているはずだ。
そこへ乗り込んで2度目のインタビューを申し込む。
応じないようなら俺が俺の責任において道厳寺の鍵を破壊してデモ隊と共に中に乗り込む。
俺は逮捕されるだろうが『次なる同時多発テロを防ぐためにやった』と堂々と主張すれば警察による調査が天道宗にも入ることになるだろう。
こちらも覚悟することで、そこまで踏み込んだ手段を取ることができる。
『乗り込みましょう。すぐにでも』
篠宮さんの言葉を聞いた瞬間から覚悟は決まっていた。

19時を待たず霊能者組は続々と集まってきていた。
俺と阿部ちゃんが18時半ごろに民明放送に到着すると受付ロビーに篠宮さん、笠根氏、伊賀野氏、平野氏が待っていた。
待たせたことをお詫びして会議室に案内する。
阿部ちゃんが受付にことづけをして、阿部ちゃんを訪ねてきた人がいたら会議室に通すように手配していた。

「えー、お電話でもお伝えしましたが、明日決着をつけようと思います」
19時すぎに全員が集まったタイミングで篠宮さんが切り出した。
一番最後に到着した嘉納氏が席につくのとほとんど同じタイミングだった。
俺と篠宮さんで考えた明日の段取りを説明し、実力行使をする役割は俺が受け持つと伝えるとそこそこ驚かれたが特に反対されることはなかった。

「今さらかもしれんが」
神宮寺氏が挙手をしつつ声を出した。
「大丈夫なのかい。近藤さんはラジオとかあるんだろ?」
その言葉で俺に注目が集まる。
「大丈夫です」
俺もはっきりと答える。
「番組に穴を開けることになるとは思いますが阿部ちゃんがなんとかしてくれますんで」
今度は阿部ちゃんに視線が向く。
「はい。ジローさんが逮捕されている間はMC代理として誰かを呼ぼうと思います。誰も出てくれなかったら僕が出て謝罪します笑。できれば篠宮さんに解説役として出てもらおうと思ってます」
なるほど、と神宮寺氏が頷いたことで再び篠宮さんに戻る。

「私も逮捕されないとも限らないですけど無事だったら何でもやります。とにかく今は一刻も早く乗り込むのを優先したいと思ってます」
その言葉に全員が頷いた。
「天道宗が本気を出してきた以上、次の手その次の手を打たせるわけにはいかない。例え逮捕されるとしても、できるだけ箱を奪取あるいは壊さないといけない。特に連中が一番大事にしているであろう天道が封印された箱をなんとかできれば明日は私達の勝利かなと思います」
篠宮さんの強い言葉に沈黙が訪れる。
「何人か亡くなったようですな」
発言のタイミングを得て言葉を発したのは嘉納氏だ。
「警察の友人に確認したんですが、駅で倒れた方の何人かは明らかに亡くなっている状態で搬送されたようですぞ」
再び沈黙。
「今回は自殺じゃないですからな。警察としても犯人を捕まえないわけにはいかなくなりました。近藤さんが逮捕されたとしてもそれなりの聞く耳を持ってくれると思いますぞ」
突入に否定的な立場だった嘉納氏のその言葉を聞いて俺の中から恐れる気持ちが完全になくなった。
「それを聞いて安心しました。もし逮捕されたとしたら堂々と警察相手に天道宗の悪事をプレゼンしてやりますよ」
俺の言葉に神宮寺氏がクックッと笑い、篠宮さんが強い瞳で俺を見て頷いた。

翌日、横浜駅前に集まったデモ隊は150人弱という結果となった。
無許可のデモなのでゾロゾロと連れ歩くわけにはいかない。
なので駅前でざっくりと二班に分ける。
道厳寺に乗り込むメンバーは逮捕される可能性があるが、大変申し訳ないけれどもそれは黙っている。
みんな俺に騙されて着いてきただけの参加者あるいはファンという方が良いだろうと判断した。

「えー、とりあえず集合場所の横浜駅に到着しました。これから主催者の指示にしたがって現地に向かいたいと思います」
スマホに向かって喋っている奴が何人かいて、どいつも微妙に見覚えがある。
何だっけなと少し考えて思い出した、動画配信者だ。
俺が知ってるくらいだからそこそこ有名な奴なんだろう。
すぐにポケットに仕舞っているあたり録画しておいて面白いことが起きれば後から編集して使うつもりのようだ。
今日のデモにそれだけ注目度があるということでありがたいが、迷惑系の奴が目立とうとして邪魔されるのは困るな。
少し警戒しておくべきと判断して、笠根氏や伊賀野氏にも伝えることにした。

「こちらの方々はA班でーす!」
篠宮さんが参加者に呼びかける。
篠宮さんから見て右側にいる人達をA班としてミルキーウェイに向かってもらう。
左側の人達がB班で俺達とともに道厳寺へ向かう。
伊賀野氏を目当てにデモに参加する奴らには申し訳ないが、A班は完全に陽動なので引率するのは阿部ちゃんだけだ。
自殺パフォーマーが潜んでいた場合は何も対策が取れないが今回ばかりは仕方ない。
ちなみに人物の特定を避けるために俺と嘉納氏以外は帽子とマスク着用である。
俺は声出しもするから変装する意味ないが、嘉納氏には変装の提案をしたところ「ふむ。私は結構です」と断られてしまった。
和装にこだわりがあるようだ。

「こちらの方々はB班でーす!」
篠宮さんの声にしたがって参加者が二つのグループに分けられた。
70人ちょっとを10人ほどの小グループに分けて、俺、篠宮さん、伊賀野氏、笠根氏、嘉納氏、神宮寺氏、平野氏を引率役としてそれぞれバラバラに道厳寺へ向かう。
参加者には行く先は伝えず引率役に着いてきてくれと説明した。
バラバラに向かうのは目をつけられて職質などされないためと、できるだけ天道宗側に俺達の向かう先を悟らせないようにするためだ。
デモ隊には当然だが天道宗の人間が混じっているだろう。
自殺パフォーマーだけじゃなく、俺達の動向を監視して報告する奴らがいるはずだ。
いつかは目的地が道厳寺であるとバレるだろうが、天道宗側に避難や対策をする隙を与えないためにもなるべくそのタイミングを遅らせたかった。

「では出発しまーす!」
阿部ちゃんの号令にしたがってA班が移動を始める。
こちらは陽動なのでミルキーウェイの住所を伝えてそれぞれがスマホのナビで現地に向かってもらう。
先行する阿部ちゃんが振り向いて顔の高さで拳を握って見せたので、俺もグッと拳を握って頷いて見せる。
阿部ちゃんがニカっと笑って頷いて前を向いた。

「こちらも出発しますのでー!それぞれリーダー役の人と一緒に行動してくださーい!」
篠宮さんの声にしたがって俺達も移動を開始する。
用意していた車に分譲してバラバラのルートで道厳寺へ向かう。
興信所のおかげで複数台が駐車可能な場所も把握できていたのはありがたかった。
多少のもたつきはあったものの、概ね予定通りの時刻に道厳寺前に集結することができた。

『天台宗 道厳寺』
と大書きされた看板を見上げる。
何が天台宗だ。
こんな看板があったら真面目にこの寺に詣でる仏教信徒もいるだろうに、どうせなら看板など掲げて偽装せず隠れてコソコソ活動するべきだろう。
伝統宗教をバカにするような天道宗の独特の軽薄さを感じて不快感が増す。
寺の山門は開いており中に広い境内が見える。
山門をくぐり境内に入ると周囲の山とは隔絶された白い砂地の大きな空間が広がっていた。

「…………」
見たところ誰もいない。
警戒されているのだろうか。
本堂の戸は開いており本堂の中にも人影はない。
広い境内は俺達70人ちょっとが入ってもまだ余裕があるが、あちらからは変な集団として見えているはずだ。
人影すら見えないことにデモ隊のみんなもザワついている。

「余裕かましてるんですかね」
声をかけられ目を向けると篠宮さんが隣に立っていた。
帽子もマスクも取ったいつも通りのスタイルだ。
「かもね。もうちょっとだけ待って何も起きなければ突入しようか。通報されて警察が来ても困る」
「ですね」
などと話していたら、境内の端から二人組の男が出てきた。
白装束の修験者。
「あいつら、この前の奴ら」
連雀氏が寄ってきてそう言った。
連雀氏と興信所の職員を追い回したという修験者風の二人組か。

「ここは天道宗総本山道厳寺である!何用で参られたのか!」
片方の男が野太い声で怒鳴った。
演技がかったというか、古めかしい言葉使いだが、修験者の格好でやられると様になっていて迫力がある。
「月刊OH!カルトの篠宮と申します。こちらは支援者の皆さんです。昨日の同時多発テロの抗議にきました。小木本部長にインタビューしたいと伝えてくたさい。逃げるなよと」
「失礼だろうが!喧嘩を売りにきたなら帰れ!」
にべもない男性の様子に篠宮さんがスマホを取り出して耳に当てた。
コール音がかすかに聞こえて、やがて消えた。
「あ、どうもお世話になっております。月刊OH!カルトの篠宮です。はい、どうも。見てると思いますけど今私たち道厳寺さんに来てまして、ええ、昨日の抗議です。あとせっかく来たんでインタビュー受けてくださいよ。はい。はい。突然ですみませんが。ええ。私も昨日のことは直接文句言いたいのでぜひ。はい。ありがとうございます。はい。お待ちしております。失礼します」
篠宮さんが小木信一と思われる相手に硬い声でほぼ一方的に要求を伝え、どうやら相手はそれを飲んだらしい。
「出てきてくれるみたいです」
「さすがです」
あっさりと言う篠宮さんに賞賛を伝える。
「いえいえ。最初からそのつもりだったみたいですよ。それよりデモ隊にユーチューバー混じってるじゃないですか」
「うん、いるね」
「生配信やってるっぽいんですけど注意しますか?」
「……マジか」
生配信やるとどうなる?
俺達と天道宗の言い合いをネットで多くの人に見てもらえる。
仮に俺達が言い負かされたら恥ずかしいが、それでも奴らの異常性は充分に伝わるだろう。
俺だってカメラを持ってきているわけで、先日のインタビュー動画を超えるインパクトを出せるなら複数チャンネルでの生配信もやぶさかではない。
「俺は放っておいても良いと思うよ。目撃者は多い方がいい」
「私もそう思います。では放置ということで」
「うん、よろしく」
「あと他にも都市伝説トシちゃんねるのトシさんが来てますね」
「有名な人なの?」
「結構チャンネル登録者多いですね。私は好きで結構見てます」
「よかったじゃん。サイン貰えるね」
「サインとかは別にいらないです」

そんなことを話していたら本堂脇の路地から大柄な男性が出てきた。
続いて車椅子を押す若い男性と、その車椅子に座った老人。
あの時と同じ3人が揃っている。
おお、とデモ隊がざわめき、みんなの視線が3人に集まっていく。
小木本部長が手を振って合図すると修験者風の二人組は建物の中へと戻っていった。
バッグからカメラを取り出して録画を開始し、
篠宮さんの上半身アップを撮影してから背後に移動して、篠宮さんの肩越しに天道宗を見るような構図でカメラを構える。

「どうしたんですか突然。こんなに大勢で」
篠宮さんの目の前5メートルほどの距離で立ち止まり、小木本部長が口を開く。
挨拶の言葉ではなく、若干非難の色が混じっている。
顔こそ以前のように余裕綽々という感じだが、恨み言というか不満の気持ちを漂わせている。
「ですから、抗議ですよ」
篠宮さんも固い声で応じる。
「実際に死亡した方が何人もいると聞いています。昨日のアレは間違いなくあなた達による殺人ですよ」
最初から本題をぶつけに行く。
これは事前に決めていた通りだ。
篠宮さんは静かにブチ切れているが、冷静に打ち合わせ通り振る舞ってくれている。
「前にも言いましたが憶測でものを言われても反応のしようがありません。何を根拠に我々が関与したと言っておられるのか知りませんが…」
「丸山理恵さんが全部教えてくれましたよ」
「…………」
いきなりぶっちゃけた篠宮さんの言葉に小木本部長の言葉が止まる。
「言ってませんでしたけど丸山理恵さんの霊は私達のもとでしっかりと保護しています。あなた達に関してはミルキーウェイのことから招霊箱の数までバッチリ把握してたんですよ実は」
「…………」
小木本部長の顔から薄ら笑いがきえている。
冷静な、値踏みするような視線で篠宮さんを見ている。
丸山理恵に起きたことを俺達が知っているとした上で、彼らが語ってきたことや見せてきたことの意味を考えているのだろう。
だがそんなにすぐには頭の中も整理できまい。
篠宮さんがなおも続ける。
「証拠証拠とおっしゃいますけど、あなた達がやってることは呪術なんですから警察に提供できる証拠なんてあるわけがないじゃないですか。都合の良い時だけ証拠だ警察だと言って誤魔化されるのはもうウンザリなんですよ」
「…………私は根拠と言ったわけで証拠と言ったことはないんですが」
小木本部長が苛立っている。
自分より遥かに若い女性に悪し様に言われて相当カチンときたのだろう。
「同じですよ。あなた達は丸山理恵さんを殺し、ヨミを演じて自殺パフォーマンスで国民を脅し、平将門ゆかりの神社を放火し、そして昨日とうとう虐殺行為に踏み出した。それを証拠だ根拠だと言って逃げ続けても私は確信を持ってあなた達だと決めつけますよ。文句があるならそっちこそ反論でもなんでもしてください」
「…………」
篠宮さんの断言に小木本部長は即座に反論することができない。
頬がピクピクして、怒鳴りたいのを堪えているような印象だ。
これは大成功だ。
篠宮さんの暴言のような主張は映像を意識した印象操作のためだろう。
天道宗の悪事を列挙して小木本部長が反論できないというシーンを作り上げた。
この映像を良い感じに編集して流すことで一連の悪事を天道宗が認めたような印象を視聴者に与えることができる。
マスコミや政治団体が政治家相手によくやるような手口を使って小木本部長をやり込めた。
これには小木本部長も怒り心頭で逆に言葉が出ないようだ。

「…………」
しかしめちゃくちゃ言うね篠宮さん。
小木本部長は完全に頭に血が昇っているようで、篠宮さんを睨みつける瞳にはもはやいつもの余裕は無い。
気がついたらスマホカメラを構えた配信者が俺達の周囲に展開し、篠宮さんと天道宗を撮影している。
おそらくはライブ配信しているのだろう。
今のやり取りを俺達が編集して流すよりも早くライブで拡散されたのは少し悔しいが、それよりも多くの人間がネットの向こうでこのやり取りを見ているのが嬉しい。
この環境で見事に小木本部長を黙らせた篠宮さんの口達者ぶりに感心してしまう。

シン、と沈黙が降りた。
気がつけば沈黙していたのではない。
小木老人が挙手をした、それだけで小木本部長の顔から怒りが消え、篠宮さんも俺達デモ隊も小木老人に注目した。
ゆっくりと手を下ろした小木老人が首を回して小木本部長を見上げフガフガと何かを言った。
身を屈めた小木本部長が耳を寄せると小木老人はその耳に向かって「予定通り!」といきなり大声を出した。
びっくりした小木本部長が顔をのけぞらせると小木老人はフェッフェッフェと笑った。
面食らいつつも立ち上がった小木本部長が、車椅子を押す位置で控えていたタツヤに指示するとタツヤが小木老人の横に屈んでその襟元に何かを取り付ける。
あれはピンマイクか。

『あー、あー』

小木老人の声が境内のスピーカーから聞こえる。
『すみませんが私はなかなか大きな声で喋れませんで、マイクを使わせていただきますよ』
小木老人が俺達を見てクシャリと笑った。

『まずはお嬢さん』
小木老人の声がスピーカーから流れる。
フガフガと気の抜けた声だが、スピーカーの大音量により明確に聞き取れる。
『丸山理恵さんでしたか。その女性とは警官に撃ち殺された女性のことですね?』
老人特有の丸く柔らかな言葉に気勢が削がれそうになるのをグッと堪える。
「そうです。あなた達が『供身』の呪法で悪霊を取り憑かせて警官に射殺させた女性ですよ」
篠宮さんの声色にも小木本部長に対してのような棘はない。
『そうですか』
ウンウンと頷く老人の様子は実に和やかなものだ。
『いや参りました。まさかその女性が霊となってあなた達に保護されているとは。『供身』にかけられた側の魂は弾き出されて消えるものと思ってましたが、我々もまだ未熟なものですね。いざとなって初めて術の新たな効果を発見するとは』
言って小木老人が横に立つ2人を見回すと、小木本部長はウンウンと頷きタツヤは神妙な顔をして頭を下げた。
やはりこの老人の意見こそが天道宗でもっとも重いのだろうとわかる。
『我々は術を学び、実践してきました。天道先生の教えを直接受けた者はもはや私しか生き残っておりませんが、このように次代を託せる者が育ってくれたことはこの老骨の身にわずがながら誇りを与えてくれます』

「何が誇りですか」
小木老人の、ともすればしんみりしそうな言葉にも篠宮さんは食ってかかる。
「あなた達の術とは国家を呪い、丸山理恵さんのような個人を犠牲にして、破壊と混乱をもたらすためのものでしょう。そんなものに誇りを感じてもらっちゃ困るんですよ。こちとら健全に生きてるもんで」
当たり前だが俺達は天道宗そのものを全否定する立場だ。
あちら側で勝手にしんみりしているのを黙ってみている義理はない。
『そうですねお嬢さん。あなた達は私達に怒りを持って立ち上がり、ここへ来た。その勇気と正義をこれからも固く持って生きてくださいね』
「いや、ですから」
篠宮さんの声に苛立ちが混じる。
やばいかもしれないな。
小木本部長とは逆にペースを握られかねない。
「良い話風にまとめられてもこっちは引きませんよ。先日もあなた達のやっていることを半ば認めるようなことをおっしゃいましたので、今日の映像と合わせて今後もガンガン糾弾させてもらいますから」
フェッフェッフェと小木老人が笑う。
『良いですとも。どんどん我々の悪事を報道してください。それすなわち我々の望むところであり、天道先生の教えを広めることに他なりません』
「……どういうことですか?」
何かが来る。
小木老人の口から何かが出てくる気がする。

『健全。健全に生きているとおっしゃいましたね』
小木老人が静かに続ける。
「ええ」
篠宮さんが短く答える。
『私はあなた達が健全に生きているかと考えると疑問に思うのです』
小木勘助。
齢100に届こうかという邪教の長が、ついにカメラの前でその思想を語り始めた。
『かつてこの国は神霊とともに歩んでいました』
かつてというのがいつの話か知らないが、昔話から始まるようだ。
『神を敬い、神に育まれて原初の日本人はその体と精神を育ててきました。自然の中に神を見いだし、その清さ正しさを学ぶ。時に厳しい自然の様相から神々もまた厳しい存在として敬いました』
古代宗教の話か。
縄文時代とかその辺りから続く自然崇拝。
『そんな神の国とも言える日本にある時、優しい仏様がやってきた』
なるほどこれは宗教史だな。
古代日本の自然崇拝と、大化の改新前後に渡来してきた仏教。
『紆余曲折を経て我々日本人は神仏を習合して共に敬う生き方を学びました』
随分と飛ばしたな。
歴史好きには物足りないだろうが、今ここでそんな講義を聞いている暇はないから仕方ないか。
『黒船に脅威を見て政治体制が変わり、神話の時代から敬ってきた神仏を新政府の箔付けに利用した時から、この国の精神が綻び始めたように私は思うのです』
いかにも宗教者らしい台詞だな。
天道宗とは廃仏毀釈による仏教文化の大破壊を根に持っている宗派なのだろうか。
「もしかして明治政府を恨んでます?それでこんなことをやってるんですか?」
篠宮さんも同じ疑問を持ったようだ。
『そのようなことはありません。その時はまだ民衆の中に神仏を敬う心は残っていました』
小木老人はゆっくりと頭を振って否定する。
なるほど、だとするなら。
『戦争に勝って鼻を伸ばし、戦争に負けて鼻を折られました。そして戦後の復興を経て我が国は強大な経済力を持つに至りました』
明治維新からの第二次大戦。
敗戦からの経済大国への歩み。
そこに邪教徒は何を思ったのか。

『その過程で置き去りにしてきたのが心です』
心ときたか。
曖昧でセンチメンタルかつ正義っぽい、実に便利な言葉だ。
『神仏を敬う心。同胞を気使い思いやる心。それらを蔑ろにして得た富に何の意味がありましょうや』
倫理を傘に着て大上段から社会の批判をする。
実に宗教者らしい傲慢な言葉だ。
「そんなの世界中で起きてることじゃないですか。グローバリズムに逆行したって幸せになれるとは思えないですよ」
篠宮さんも老人の言葉に噛みつく。
『両立できるだろう、と私は考えているのです。世界の方々はどうか分かりませんが、私達日本人にはそれができると』
老人は自分の言葉に納得するかのように頷く。
「それとは?」
篠宮さんは曖昧な言葉を許さない。
カメラの前で全部喋らせるつもりなのだろう。
『経済と同様に心も育てる社会であれば良いのです。同胞を憐み神仏を敬うことと経済は矛盾しないでしょう』
絵に描いたような綺麗事だ。
「ごもっともな意見ですけどそれがどうして人殺しにつながるんですか?」
篠宮さんの声にあからさまな苛立ちが混じる。
老人の言葉を詭弁だと断じるつもりなのだろう。
その映像が流れれば我々の勝ちは揺るがない。
「ご立派な価値観を掲げてもそれを実現する方法が人殺しなんて、絵に描いたようなテロリストじゃないですか」
鼻で笑う篠宮さんが完全に正しいようにカメラに映っている。
正直、ここまで都合の良い展開になるとは思っていなかった。

『ですから私は申し上げました。我が国の大魔縁になると』
老人の雰囲気が変わった。
『今さら倫理を解いても、もはや経済優先の機運は変わらないでしょう』
篠宮さんは黙って老人の変化が何をもたらすか見ている。
『人殺し、とおっしゃいましたね』
老人の顔がクシャリと歪む。
『その通りです。それこそが鬼たる私の役目なのですから』
両手を左右に広げて続ける。
自分を見ろとでも言うように堂々と。
『もとよりこの時代の魂は多くが救われませぬ。であれば早々に退場して輪廻の輪に戻るのも立派な役目。転生を待つ数多の魂の中にこそ次の時代を紡ぐ心が宿ると私は確信しています』
ハッと篠宮さんが笑い飛ばした。
「なんであなた達に私達の価値を決められないといけないんです?迷惑にも程がありますよ」
やばいな反論が弱い。
テロリストに有効な言葉じゃない。
老人の覚悟に押されているのか。
『ですからそのようなことは関係ないのです』
ニィ…と老人の口の端が広がる。
『正しきこと、倫理を説いても聞く耳を持たない。それならば』
再び大きく両手を広げる。
『霊を恐れよ。呪いを恐れよ。恐れをもって神仏に泣きつけば良いのです』
「暴力を正当化するのではなく、暴力こそが目的であるということですね」
篠宮さんの言葉に力が戻る。
「ありがとうございます。あなた達がテロリストであるとの言質を頂けて、これまでの苦労が報われました」
老人はウンウンと頷いて同意する。
『人は痛みを感じねば医者にかかることをしません。我々こそが痛みをもたらすバイ菌、すなわち大魔縁ですよ』
フェッフェッフェと笑う老人。
篠宮さんは黙っている。
次の展開を考えているのだろう。

と、老人に違和感を感じてカメラのモニターを見る。
「…………!」
目があった気がしてゾクリとした。
こっちを見ている。
これは俺じゃなくて、カメラを見ているのか。
ニィ…と口を広げて老人が手招きをする。
おいでおいでと子供にするように。
「…………」
俺に近寄れと言っているのだろう。
行っても良いのか?
篠宮さんも俺と同様に困惑しているのか動かない。
行くか。
危険かもしれないが俺も興奮しているのか恐怖心はない。
ソロリと足を踏み出して、カメラが極力揺れないように老人に近寄る。
数歩の距離で立ち止まると老人が手を叩いた。

『おーにごっこしーましょ。にーげねーばくーうぞ。そーれそーれそれ!』

手を叩きながら歌いフェッフェッフェと笑う老人。
その姿におぞましいものを見た気がして背中が粟立つのを感じる。
『私どもは鬼。あなた達を神仏の元へ追い立てる鬼ですよ』
小木老人が笑う。
カメラの向こうの視聴者に向かって邪悪な顔で笑いかける。
『さあさ。逃げましょうね。隠れましょうね。そうしないと、ヨミがあなた達を連れて行きますよ』
フェッフェッフェと笑う老人の何とおぞましいことか。
隠しもしない剥き出しの悪意を見た視聴者はどう思うのだろうか。
「…………」
このカメラはまだいい。
カットすることもできる。
だが……

『あーかおーにたーべた。こーどもーやおーんな』
楽しそうに手を叩いて歌う老人。
これをリアルタイムで見ている配信の視聴者にはこの映像がダイレクトに届いている。
『あーおおーにたーべた。ちーちおーやむーすこ』
滑稽にも聞こえる手拍子とわらべ歌に乗せられた悪意が耳から入って頭にこびりつくようだ。
「…………」
怖い。
俺ですらそう感じるのだ。
面白半分で見ている視聴者の中にはこの歌が呪いのように作用する奴もいるかもしれない。
たまらずカメラを老人から外して振り返り篠宮さんを撮影する。
何かを期待したわけじゃない。
ただただ老人から目を背けたかった。

「……上等だよ、このヤロー」
ボソリと呟いた篠宮さんの声はカメラに撮れていないかもしれない。
しかし俺の耳には確かに聞こえた。
「あなた達が鬼だと言うなら私達は堂々と正義の味方を名乗らせてもらいますよ」
篠宮さんが老人を睨みつけながら歩み寄る。
つまりこちらに向かって歩いてくる。
カメラを篠宮さんに向けたまま回り込んで先ほどのように篠宮さんの肩越しに老人を撮影する。
さっきと同じ画角だが老人との距離は数歩にまで近寄っているため対峙している感が増している。
俺達が老人に近寄ったことで周りの配信者も包囲を狭めてきた。
さながら老人を取り囲むような位置どりだ。

『タツヤ』
老人が呼びかける。
近寄った俺達に脅威を感じたのだろうか。
そんなヤワな老人ではないと思うが。
タツヤが駆け寄ってきて老人の車椅子を後ろに引いて俺達と距離を取ると、老人は片手を上げてそれを制した。
顔を近づけたタツヤに老人が耳打ちをする。

『アレを持ってきておくれ。あと3番も』
耳打ちをしたもののピンマイクがしっかり音を拾っている。
「わかりました」
と言ってタツヤが建物の方に駆けていく。
すぐに戻ってきたタツヤの手には小さな小包みが2つ。
それを老人の膝に乗せて風呂敷を解くと、弁当箱のような黒い箱と棒のようなものが現れた。
間違いない。
アレは、あの雰囲気は招霊箱だ。
いつのまにか小木本部長も老人のそばに立っている。
タツヤと2人で老人を俺達から守るような立ち位置だ。

『後は頼むよ』
老人の声がスピーカーから聞こえる。
その声にタツヤと小木本部長が頭を下げた。
老人が着物の襟元をはだけて胸を露出させる。
アバラの浮いた枯れ木のような体に大きくのたうつような模様が描かれていて、俺はその模様に見覚えがあった。
中央に大きく『供身』と書かれたその模様は、篠宮さん達が撮影した丸山理恵の遺体に刻まれていたものと同じだった。
「待ってください!」
篠宮さんが切羽詰まった声を出した瞬間には、老人は棒のようなものを握って2つに分けていた。
左手には棒のように見えたもの、そして右手には抜き身の真剣が握られている。
あの棒は短刀だったのか、と思った瞬間、全身に鳥肌が立った。
ヤバい、と思う間もなく老人は短刀を首に押し当て頸動脈を掻き切った。
ビュッビュッと血が吹き出して斜め前方の地面を赤黒く汚していく光景をスローモーションのように眺めながら、俺は呆然としていた。
「…………」
何が起こっているのかわからない。
篠宮さんが何かを叫んで老人に突進するのを小木本部長が阻んでいるのを撮影している。
頭が真っ白でも撮影だけはするのかと可笑しく思ったところで意識が戻った。
「…………嘘だろ」
小木老人は自ら首を掻き切って自害した。
ガックリと頭を項垂れた格好で、首からはダラダラと血が吹き出し、膝の上の黒い箱は老人の血に塗れて刻まれた呪語が判別つかなくなっている。

『ヒュー…ヒュー…』
老人の今際の呼吸がスピーカーで拡声され境内に響き渡る。
生きている。
まだ小木老人は生きているんだ。
『ヒュー……ヒュ………』
そう思ったところで、老人の呼吸が止まった。

うわあああああ!とデモ隊の中から叫び声が上がり、すぐさま伝播してデモ隊が一斉に騒ぎ始めた。
「ヤバいです…ヤバいです…自殺…これ自殺だよ…」
配信者の1人が呟きながらカメラを構えて老人に近寄る。
同調するように他の配信者もジリジリと老人に近寄っていく。
そして全てのカメラは捉えていた。
俺も見ていた。
老人の膝に乗せられた箱から、黒い煙が立ち上って老人の口に吸い込まれていく。
その光景に誰もが言葉を失い、老人に駆け寄ろうと暴れていた篠宮さんですら呆然と立ち尽くした。
老人の呼吸は聞こえない。
だが目の前で黒い煙がまるで老人に吸い込まれるように口に入っていく。
あり得ない光景はしかし、確かな現実味を持って俺達の目とカメラに記録された。

「おえっ…」
篠宮さんがえずいて口を押さえながら小木本部長の手から抜け出す。
そしてフラフラと俺の元へと戻ってきた。
「大丈夫!?」
いつのまにか伊賀野氏が近寄ってきていて篠宮さんに声をかける。
「ヤバいです。間近で喰らっちゃったかも」
篠宮さんがゲホゲホと咳き込みオエッとえずく。
「やられたな。まさかここで憑依させるとは」
神宮寺氏もいつのまにか側に来ている。
気がつけば霊能者組が篠宮さんを取り囲んで老人の遺体を見ていた。
「ふん。好都合です。配信で流されてしまったのは痛いですが、我々の責任ではないという証拠にはなりますからな」
嘉納氏が言いながら首を回す。
まるでこれから運動でもするかのようだ。
「いずれにせよ祓ってしまいましょう。このまま放置するわけにもいかんでしょうからな」

祓う?何を?
と思ったところでデモ隊から再びざわめきが起こった。
何が起きたのかと確認すると、老人が体を起こしていた。
「…………」
死んでなかったのか?
そう思って老人をよく観察すると、口をダラリと開けて目も虚ろに開いている。
まるで正気のないその顔に、ああこれは死体だと直感する。
そしてその死体が体を起こしたんだということに気がついて再び全身に鳥肌が立った。
「動いた…!…死んだと思ったけど動きましたね!」
配信者の1人が興奮した様子で実況を始める。
「いやあ騙されましたよ!爺さんだと思って油断してたんですがまさか手品とは」
さっきの首切り自殺をトリックか何かと勘違いしているようだ。
いや、思い込もうとしているのか。
配信者はわざとノリノリ感を出しつつ老人に近づいていく。
「お爺さん凄いっすね!俺めっちゃ騙されましたもん!」
声が裏返っているあたり彼もまだ怖いのだろう。
だが現実を認めたくなくて無理やりそういう設定にしようとしている。
「近寄らないでください」
配信者の前にタツヤが立ちはだかり両手を前に出す。
「いやもう勘弁してくださいよぉ!めちゃめちゃ怖かったじゃないですかぁ!」
配信者は滑稽なほどのテンションでタツヤにカメラを向ける。
「君がどう思っていようとこれは現実ね」
タツヤは半歩ほど体をずらして配信者が老人を見られるようにした。
「よく見てほら。死んでるでしょ」
いつもの軽薄さがなりを顰め、冷淡な言葉と表情で説明している。
「またまたぁ〜」
配信者はタツヤの態度に半笑いで答えつつ老人にまたカメラを向ける。
「う…そ…でしょ」
そのまま遠目からでもわかるほどに震え始めた。
「ねえ!嘘でしょ…これ死んでるよ!」
カメラを持つ手もブルブル震えているが、配信を見ている視聴者は大丈夫だろうか。
と役体もないことを考えてしまったが、彼の混乱はよくわかる。
彼が真っ先に混乱してくれたおかげでこっちはだいぶ冷静になれた気がする。
目の前で人が死んだというショックとそれを上回る恐怖を、彼が俺達の分まで過剰に騒いで表現してくれたという感じだ。

恐らくだが配信はすぐに通報され中断するだろう。
もしかしたらアカウントごと凍結されるかもしれない。
ここにもすぐに警察が来ることだろう。
だがそんな状況にもかかわらず配信者達は撮影を続けている。
俺も撮影しているのだから彼らを悪く言うことはできない。
それよりもこの状況をしっかりと記録して警察や社会に伝えるのが、ここで記録媒体を所持している者の役目だろう。
混乱する配信者に危険を感じたのか、建物から修験者の格好をした男が4人出てきてタツヤと小木本部長の後ろに控えるように並んだ。
見ると老人の世話役だろう中年の女性も建物の外に出てきて泣いている。
天道宗の連中にも絆があるのが不思議というか、どこか異様な光景に見えた。

「…………」
配信者の混乱がひと段落したら、やはり老人の遺体に注目してしまう。
死んだはずの老人は体を起こしたまま動かない。

「オン〜アミリタ〜テイセイ〜カラウン~」
ふいに小木本部長が手を合わせて呪文のような言葉を唱え始めた。
「オン〜アミリタ〜テイセイ〜カラウン~オン〜アミリタ〜テイセイ〜カラウン~」
小木本部長にあわせて後ろの修験者達も呪文の詠唱を始める。
手を合わせて目を瞑り詠唱する彼らの中で、タツヤだけが警戒するように俺達を見ている。
呪文が始まって間もなく、俺達の目の前でソレが起こった。

『あ…あぁ………ぁ……』

境内のスピーカーから不気味な音が流れた。
『…ぁあ……ぇ……あぁあああ……』
すぐにそれが老人の呻き声だと気づいてまた全身に鳥肌が立った。
老人にカメラを向ける。
口がかすかにわななくのと同時にスピーカーから掠れたような呻き声が発せられる。
つまりこの死体が呻き声をあげている。
「…………」
ゾッとする、なんてものではない。
ハッキリと目の前で異常な事態が起こっているのを認識して、胃の中が重く沈む感覚と共に体が震え始めるのがわかった。
『…ぉ……ぇ…あ……』
怖い。
目の前で死んだはずの老人の死体が今まさに呻き声をあげ、それはスピーカーで拡声されて嫌が応にも耳に入ってくる。
静かな境内に響く読経の声と巨大な呻き声。
これまでに経験した除霊中の怪奇現象など比較にならないほどの迫力をもった恐怖が一気に押し寄せてきた。

うわあああああ!とデモ隊の何人かが狂乱の声をあげる。
ヤバいぞこれはパニックになる。
「静まれぃ!」
と思ったらデモ隊の声を凌駕する大声で嘉納氏が怒鳴った。
カメラと共に視線を嘉納氏に向けると、嘉納氏はデモ隊に体を向けてふんぞり返っていた。
「ここに私がいる以上あやつらには何もすることはできません。皆さんは今少し静かにしていて頂きたい」
ふん、と鼻を鳴らして続ける。
「狼狽して逃げ出した先に霊が待ち構えていないとも限りませんのでな。我々のそばにいることが今はもっとも安全だと心得ておきなさい」
「…………」
ものすごい説得力で言い切られてデモ隊は静まった。
篠宮さんに目を向けると顰めっ面をしていたが、俺が見ているのに気がついてウンウンと頷いて見せた。
嘉納氏が気に入らないのは間違いないが、嘉納氏の言うようにパニックを起こさないのが大事なのは同意ということだろう。

「えー」
嘉納氏の言葉を引き継ぐように篠宮さんがデモ隊に声をかける。
「これからお祓いをしますので皆さんは少しだけ下がってお待ちください。天道宗が暴力で邪魔をしてきたらすみませんがヘルプお願いします」
団体行動を指示するいつも通りの自然な声に、俺からもデモ隊からも恐怖心が薄れていくのがわかった。
「お祓いの準備はバッチリしてきてますんで、あんまり怖がらないで大丈夫ですからね!」
重ねて安心させるようにそう言って、何か冊子のようなものを誇示するように手で振っている。
篠宮さんの自然体な様子にフッと安心したような空気になったと思ったら、次の瞬間またヒッと息を飲む声がデモ隊から聞こえた。
何か起きたと思って天道宗に向き直ると、老人の遺体が立ち上がっていた。
「…………マジかよ」
カメラで撮影中なのを忘れて思わず口から声が漏れた。
嘉納氏と篠宮さんの激励で薄まったはずの恐怖心がまた蘇ってくる。
怖い怖い怖い怖い。
あり得ない光景に恐怖するしかできない。
この場に凄腕の霊能者が揃っているということを強く意識して気を張らないとまた震え出しそうだ。
そう思ったところで体の震えがおさまっていたことに気がついた。
嘉納氏に一喝され篠宮さんに励まされて、どうやら震えるほどの恐怖は過ぎ去っていたようだった。
「篠宮さん、きっちり撮ってますんで、よろしくお願いします!」
カメラを向けてそう言うと、篠宮さんはニッと笑って親指を立てて見せた。

「よっしゃ。いっちょ気合い入れてやったるかねえ」
神宮寺氏が言いつつ前に出て、両手を胸の前で組んで印を結んだ。
そして小声で何事かを呟いてから、印を解いて右手の人差し指と中指を立てて空中に何かを書きつけるような動作をした。
そして「シッ!」と息を吐きながら空中を切りつけるように動かした。
『あぁぁあああ……』
老人の呻き声が大きくスピーカーから流れる。
神宮寺氏が何かをして、それが効いたのだろう。
老人の体に取り憑いた霊が嫌がっているようだった。
そして老人の死体がザッと足を踏み出した。
ザッザッザッと砂利を踏み締めて二歩三歩と踏み出す。
いきなり近づかれた神宮寺氏が慌てて距離を取り、デモ隊からまた恐れのざわめきが聞こえる。
「ノウマクサンマンダバザラダンカン」
伊賀野氏が手を合わせて呪文のような言葉を唱えている。
「天に獄獄 地に獄獄 御柱降り来て守護賜んと畏み畏み申す」
嘉納氏が冊子と剣のような物を取り出して構える。
平野氏も連雀氏もそれぞれ何かを準備している様子で、篠宮さんは冊子のページを捲りながら大きな声で祝詞を音読しているようだった。
笠根氏だけはデモ隊のみんなを守るためか後方に待機しているようで姿が見えない。

天道宗の連中は声を揃えて読経を続け、篠宮さん達はそれぞれのやり方でお祓いや除霊をしている。
そんな中でタツヤは老人の死体に何かを囁き続け、その声に反応するように老人はフラフラと歩いている。
はだけた着物から覗く血まみれの体に『供身』の文字がやけにハッキリと見える。
常に車椅子に座っていた老人の体は、今や元気に歩き回り神宮寺氏を追いかけている。
霊能者組のおかげで恐怖心こそ薄れたものの、異様な怪奇現象は目の前で起き続けており、配信者達によってそれはネットにリアルタイムで中継されている。
配信が止まらないということは、老人の死体が歩き回っていることで運営側にフェイク映像だと思われているのかもしれなかった。

「ちょっ…なんで俺ばっかり…!」
老人の歩く速度はどんどん上がり、手を伸ばして神宮寺氏を捕まえようとしている。
『あぁぁ……あぁああああ……』
不気味な呻き声を上げながら追い回す血まみれの老人。
老人が身体を振るたびに流れ出る血が周囲に飛び散る。
さながらゾンビ映画のようだが、虚な目とだらしなく開いた口から垂れた舌が異様で、まるで悪夢を見ているような光景だった。
ひらりひらりと身をかわす神宮寺氏だが、追いかける老人の方が早くなりつつあるようで、かなり辛そうだ。
と、とうとう神宮寺氏の腕を老人が捕まえた。
「いてててて!!……この!」
神宮寺氏がクルリと身体を回して1本背負いで老人を投げ飛ばした。
バサリと音がして老人が地面に叩きつけられる。
神宮寺氏をつかんだままだった老人の腕が歪な方向に折れ曲がっている。
「痛えよ。怖えよ。なんだこのジジイは」
素早く身を起こした神宮寺氏がバックステップで老人から距離を取る。
その体は老人の血で真っ赤に染まっていた。
老人は折れた腕を地面について立ち上がる。
まるで痛みを感じていない様子に空恐ろしくなるが、危なかったものの健在な神宮寺氏の様子に安堵して恐怖心が和らいだ気がした。

「おおっ!」
嘉納氏が気合いの声と共に老人に剣のような物を突きつける。
老人は様子を窺っているのか動かない。
「青龍!白虎!朱雀!玄武!勾陳!帝台!……」
剣で縦横に空間を切りつけながら呪文のような言葉を唱える。
そして、
「おおっ!」
と気合いと共に老人の胸に剣を突き立てた。
刃は老人の胸を貫くことなく『供身』の文字の中央で止まっている。
『…ぁあああぁあ』
苦しいのか怒りなのか、老人の声がスピーカーから流れる。
『あああああああああああ』
明らかにボリュームの増した声が続き、その声を聞いた途端、体が重くなる感覚がした。

『あああああああああああ』
頭の奥がズキンと痛む。
わずかな違和感だった痛みはどんどん強くなり、すぐにズキンズキンと脈打つような頭痛に変わった。
うううとデモ隊から声が上がる。
どうやら痛みは境内にいる全員に及んでいるようだった。
シャン…と音がした方を見ると、連雀氏が大きな鈴がいくつも付いたモノを振って音を鳴らしていた。
あれは神主がお祓いの時に鳴らす鈴だろうか。
シャン…シャン…シャン…
連雀氏が鈴を振るたびに老人の声が聞こえなくなってゆく。
いや、聞こえているのだが、気にならなくなっていくように頭痛が引いているんだと気がついた。
「さすが連雀さん。そんなのまで持ってるんだね」
篠宮さんの楽しそうな声が聞こえる。
「私よりも篠宮さんの方が効くかも。ちょっと使ってみて」
連雀氏が篠宮さんに駆け寄って大きな鈴を手渡す。
「うへ。神楽習ったのめちゃくちゃ昔なんだけど」
言いつつ篠宮さんがシャン…と鈴を鳴らすと、連雀氏の時よりも澄んだ音に聞こえた。

シャン…シャン…シャン…シャン…
鈴を振りながら舞うようにクルクルと回る篠宮さんに、おお…とデモ隊から声が上がる。
少なくとも素人ではないその動きに一瞬見惚れるが、いつのまにか老人の呻き声が聞こえなくなっているのに気がついて老人に目を向けた。
老人を遠巻きに囲んで平野氏と伊賀野氏と神宮寺氏がお経を唱えている。
天道宗と数メートルの距離で呪文とお経を唱えている為なかなかのカオスだが、老人はまるで動きを封じられたように動かない。
老人に寄り添っていたタツヤは剣を構えた嘉納氏と睨み合っている。

老人が立ち上がってからここまでほんの数分。
そのままさらに数分が経ち、事態は拮抗しているかのように見えていたが、やがて天道宗の修験者の1人が鼻血をダラダラと垂らし始めた。
気がつけば他の修験者達も脂汗をかいており、かなり辛そうなのが見て取れる。
小木本部長もタツヤも額に汗をかいていて、なるほど彼ら自身も悪霊の近くにいるせいで何かしらの影響を受けているのだとわかった。
対して霊能者組はそれぞれに武装?して攻勢に出ていることから、体調不良などの影響はないようだった。

「どうやらこちらの勝ちみたいですね」
いつのまにか寄ってきていた篠宮さんが声をかけてくる。
「私達のお祓いが効いているから悪霊は先代本部長の身体を放棄して逃げ出したい。天道宗の人達はそれを宥めて留めて私達に攻撃してもらいたい。彼らが思っていたよりもこちらの実力がしっかりしてるのか、悪霊が大したことなかったのか分かりませんが、彼ら自身が苛立った悪霊に攻撃されてるっぽいので、このまま待ってればジリ貧なのは彼らのほうです」
「なるほど」
「とはいえ死体に悪霊が憑依する様子を配信で拡散されちゃったのは完全にしてやられました。先代本部長の思惑どおり彼らの呪いや呪術が実行力を持っていることを信じちゃう人はかなりいるんだろうなと」
「あー……そんなにヤバい?」
「わかりません。ネットの人達がどんな反応してるのかわからないんで、まずは調べるしかないです」
篠宮さんが珍しく苦々しい顔をしている。
「なんというか、試合に勝って勝負に負けた感じですね」
小木老人の言葉が蘇ってくる。
「霊を恐れよ、ね。大霊障で霊の存在を実証して見せて、ヨミや呪いの魔法陣の信憑性を強めて、国民にかかっている呪詛の効果を高めると」
「はい。ぶっちゃけもう言い逃れができる段階じゃなくなってますからね。昨日の大規模テロで警察も捜査に来るでしょうし、天道宗自体はかなり深刻なダメージを受けることになるとは思いますけど」
篠宮さんが言葉を切って少し考える。
「大霊障としては成功したんじゃないかと思いますよ」

「唵(オーン)!」
嘉納氏の怒号が聞こえてそちらに目を向けると、小木本部長とタツヤ以外は全員が鼻血を吹き出して倒れており、残った2人もかなり辛そうに地面に膝をついていた。
老人は突っ立ったままの姿勢で呆けていたが、やがて口から黒い煙を吐き出したかと思ったらそのまま崩れ落ちた。
「出ていきましたね」
篠宮さんの言葉にようやく終わったのだと息をついた。

「これであなた達も終わりじゃないですかね」
篠宮さんの言葉が境内に響く。
小木本部長とタツヤをデモ隊のみんなで取り囲み、警察が来るまで逃げられないように圧力をかけつつ、敗戦の弁を聞く。
ちなみに倒れた修験者風の男達は中年の女性に面倒を見させている。
「我々の役目が終わったと言ってもらえますか。結局は何から何まで我々の計画通りなのですから」
小木本部長は疲れた顔だが不敵に笑って言う。
「とはいえあなた達は一連のテロをほぼ自白してますし、先代本部長の自殺幇助までやってるわけですから、しばらくは収監されるでしょうし天道宗さん自体は終わりでしょう」
「終わりで結構。我々にできる全てを成し遂げた今、晴れやかな顔で警察に協力させて頂きますよ」
なおも不適に笑う本部長は周りの配信者達を見まわした。
「中継をご覧のみなさん、今日ここで起きたことは全てが現実です。あなた達が目を背けても次のヨミ、その次のヨミがあなた達を死に誘う。これから霊の時代が来るのです。ゆめゆめお忘れなきよう」
チッと舌打ちが聞こえて目を向けると、伊賀野氏がもの凄い顔で本部長とタツヤを睨んでいた。
「あなた達が殺した人達やご家族に何か言うことはないの?」
丸山理恵のことを言っているのだろう。
「何もありません」
小木本部長は顔色を変えずに即答する。
「…………アンタは?」
伊賀野氏がタツヤに目を向ける。
「……何も」
タツヤも軽薄な笑顔で答える。
その言葉にまた伊賀野氏が舌打ちをする。
いつもの泰然とした様子とかけ離れた伊賀野氏の表情に、デモ隊のみんなが伊賀野氏を見る目が困惑している。

「篠宮さーん!」
デモ隊の輪の外から笠根氏の声がした。
「ちょっとすみませんね。通してくださいね。はいどうも」
デモ隊の輪を掻き分けて笠根氏と神宮寺氏の弟子の宗方君が中心に出てきた。
「天道が封印されているって箱なんですが、どうやらここには無いようなんですよ」
「…………」
笠根氏の言葉に篠宮さんが固まる。
「僕らが来る前に運び出されていたみたいです」
続いた宗方君の言葉に頷いて笠根氏が小木本部長を見た。
どうやら俺達が小木老人とやり合っている間に、笠根氏と宗方君は本堂に侵入して箱を盗み出そうとしていたらしい。
それでどうにか鍵を壊して本堂に入ったところもぬけの空だったと。

「当たり前でしょう。あなた達の目的地がこことわかった時点で真っ先に運び出していますよ。今は本部の方で開封の準備をしているところでしょう」
しまった。
俺達が陽動を準備したように、天道宗側も囮を用意していたわけか。
まさかトップ3人が囮とは夢にも思わなかったが。
「開封?」
篠宮さんがオウム返しに訊ねる。
「ええ」
「天道を開封してどうするんですか?あなた達の目的は達成したんじゃないんですか?」
囮であると同時に大霊障を完成させるための最後のパフォーマンスだったわけで、いずれにせよこうなっていたのかもしれないが。
「もちろん私達はこれでお役御免です。あとは天道先生が然るべき判断をして指示を出してくださることになっています」
「大霊障までがアンタらの仕事で、それ以降は天道の思うがままにってか。ほんと厄介な奴らだな」
神宮寺氏が吐き捨てるように言う。
「天道の依代となるのは誰ですか?」
篠宮さんの声が硬い。
「供身で誰かに憑依するわけですよね。誰がその器になるんですか?」
核心部分を訊かれて一瞬考えた小木本部長だっだが、篠宮さんの目を見て腹を決めたように答え始めた。
「本来であればタツヤが天道先生の器となるはずでしたが、不測の事態が起きた場合にはキタムラという男が代わるように育てられています。タツヤ同様に一流の術師ですから我々としても安心して任せられる」
「僕としては死ぬ覚悟してたわけですから、キタムラに譲って申し訳ないなとは思うんですけどね笑」
小木本部長の言葉にタツヤが続く。
そのどこまでも軽薄な態度に伊賀野氏だけでなく全員がイラついたのがわかる。
「ちなみにOH!カルトさん達が乗り込んで来る時に、僕が依頼した配信者を紛れ込ませて生配信するというのも計画通りです」
吹っ切れたのか挑発したいのか、タツヤのニヤケ顔がさらに調子づく。
「誰とは言いませんが僕らからギャラをもらった人がこの中にいるはずですよ」
そう言って配信者を見まわして笑う。
「あーまいったまいった。本当に厄介でムカつく奴だよお前さんは。できることなら警察に引き渡さずに俺が呪ってやりてえくらいだ」
そう言って神宮寺氏がタツヤの前に屈み込んで睨みつける。
「お前さんは使命とか割とどうでもいいだろう。人の命で遊ぶのが楽しかったんじゃないのか?あん?」
その言葉にブフッとタツヤが吹き出した。
「そんなわけないじゃないですか。僕は小木先生に」
タツヤが言い切る前に神宮寺氏がタツヤの横っ面を殴りつけた。
「わかってんだよ。おめえがクズだってのは」
言いながら立ち上がり今度は小木本部長を見下ろす。
「そんなクズを頼らにゃいけねえお前さんも先代も情けねえもんだよな。やってることは厄介だが、ご大層な使命とやらはお前さんらにゃ荷が重かったかもな」
「…………」
小木本部長は答えず神宮寺氏を睨む。
その目が図星であると語っているようで、その場の流れが俺達の側に戻った。
「正直言って先代さんは俺から見ても狂ってたよ。そういう凄みみたいなもんはあった。でもお前さんやこのクズにはそれがねえ。先代さんに全部押し付けて自分らはお役御免とか情けねえにも程があるだろ」
なおも言葉で嬲る神宮寺氏に答えられないのか小木本部長は不愉快そうに顔を背けた。

「そういうことなんで、ちょっとみなさんこの2人を取り押さえてもらえますか」
神宮寺氏の怒りで落ち込んだ空気を裂くように笠根氏が気楽な声を出した。
「はいそこのあなたとあなた。あとそちらのお2人も、こっち来て、いいからほら」
デモ隊の中でもガタイの良い奴を指名して手招きする。
神宮寺氏に殴られた顔を抑えて悶絶していたタツヤと小木本部長が立たせられてデモ隊に両腕を抑えられる。
「ちょっと失礼しますね」
笠根氏は軽い調子で小木本部長の上着のポケットを探り、中にあるものを取り出していく。
「おっこれかな?」
そう言って篠宮さんに何か社員証のようなものを見せた。
『横浜YMビル』と印刷されたカードが首から下げるタイプのカードケースに入っている。
「これおたくの関連施設が入ってるビルのカードキーですよね。ちょっとお借りしますんで悪く思わないでくださいよ」
そう言ってタツヤの体をまさぐり、尻のポケットに入っていた財布から同様のカードを抜き出した。
「不法侵入するつもりですか」
小木本部長が悪態をつくが主張が弱い。
神宮寺氏に図星を突かれて完全に勢いがなくなっているようだ。
「当たり前じゃないですかねえ。次なるテロを防ぐためには一刻も早くミルキーなんとかさんに乗り込む必要があるんですから」
小木本部長にそう言ってから、「ね?」と篠宮さんに顔を向ける笠根氏に篠宮さんがずいっと近寄る。
「そうですそうです!すぐに行きましょう!笠根さんさすが!」
何がさすがなのかわからないがナイス判断なのは間違いない。
「ではこの場は私に任せていただいて、不法侵入はみなさんで行ってきてください」
嘉納氏がそう言って居残る提案をする。
この場でデモ隊を指揮して天道宗の奴らを警察に引き渡すのも大事な役目だ。
全てを撮影した配信者がいるわけだから証拠の提供もバッチリだろう。
編集前提の俺よりも一足先に配信した連中の動画が警察に回収されるのはいい気味かもしれない。
ミルキーウェイに乗り込むのに配信者を引き連れていく必要はない。
俺達だけで再度ミルキーウェイに突入するということで、嘉納氏を除く霊能者組と俺と宗方君で車に乗り込んだ。

続きます。

  • B!

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