本文
240本当にあった怖い名無し2018/10/05(金) 14:22:09.86ID:YXGSsKnr0
1/4
忘れられない記憶がある。
小学生の時の話だ。
我が家は毎年二回、田舎にある祖父母の家に帰省していた。
別に誰かが特別行きたがっていた訳では無いが、一応孫の顔を見せに行っていたのだ。
俺には兄弟がいなかったので、特に遊びようの無いその田舎があまり好きではなかった。
あれは、小学一年生の時だと思う。
庭で1人で遊んでいると、女の子が現れたのだ。
とても綺麗な服を着ていて、にっこりと笑っている。
おそらく同年代くらいの子で、庭にある腰くらいの高さの柵の向こうに立って、遊んでいる俺を見ていた。
1人で遊ぶのにも飽きていたので、俺は迷わず声をかけた。
「一緒に、遊ぶ?」
返事は無かった。
俺はまた1人で遊び始め、気がつくと彼女はいなくなっていた。
241本当にあった怖い名無し2018/10/05(金) 14:22:49.87ID:YXGSsKnr0
2/4
翌日、その日はあいにくの雨が降っており、俺は使われていない和室で図鑑を眺めていた。
祖父母の家には何やら小難しい本がいっぱいあったのだが、その中で唯一子供でも楽しめそうな物は図鑑しかなかった。
それにも飽きて縁側に腰掛けたままぼーっとしていると、また女の子が現れた。
昨日と同じ様に柵の向こう側に立っていた。
その次の日も、そのまた次の日も、その子は俺の前に現れた。
今思えば、あれが俺の初恋なんだと思う。
隣近所に家は無かったが、俺が遊んでいると必ず彼女は現れた。
庭に入ってくる事も無く、俺に声をかける事も、俺の声に反応する事もなく、ただにっこりと笑ってそこに立っていた。
「遊ぼうよ」
「名前はなんていうの?」
「僕東京から来てるんだ」
「今はお母さん達お買い物に行ってるから、入っても大丈夫だよ」
いくら声をかけてもピクリともせず、ニコニコと笑ってそこに立っていた。
243本当にあった怖い名無し2018/10/05(金) 14:23:24.23ID:YXGSsKnr0
3/4
祖父母の家を離れる日が近づいてきたある日、理由は忘れたが俺は母親にこっぴどく叱られていた。
1人泣きながら庭に駆け込み、辺り構わず八つ当たりをしまくっていた。
そこら辺にあった石を地面に投げつけたり、枝を折ったりしながら大声を上げていると、例のごとく柵の向こうに立っている女の子が目に入った。
今までと変わらない素敵な笑顔で、俺を眺めている。
この時、初めてこの子を怖いと思った。
こんなに泣いている、こんなに大声を上げている人を目の前にして、眉毛1つ動かさないその子に、一切の感情を感じなかったのである。
気がつくと涙は止まり、じわじわと別の感情が湧き出していた。
一歩、二歩と彼女に近づいていく。
柵越しに彼女の目の前に立ち、俺は声をかけた。
「君は、誰?」
244本当にあった怖い名無し2018/10/05(金) 14:23:45.49ID:YXGSsKnr0
4/4
…
返事はない。
「誰なの?」
少し震えた声で聞いた。
やはり返事はない。
「誰なんだよお」
ほとんど半ベソだった気がする。
彼女は初めて見た時と全く変わらない、驚くほど綺麗な笑顔で、俺の目の前にいる。
「ねえ」
俺は耐えられなくなり、彼女の肩を掴んだ。
「……!」
掴んだ肩のあまりの冷たさに、俺は思わず後ずさった。
「君は…人間なの…?」
自分でも思わなかった言葉が口をついて出てきた。
しかしそれは、目の前の存在に対して俺が持っている、最も大きな疑問だったのかもしれない。
その時、いつもと変わらない、とても綺麗な、一点の曇りすらない笑顔を浮かべたまま、彼女は初めて口を開いた。
「お前に決めた」
驚くほど美しい顔に似つかわしくない、老人のような声だった。
その後、どのようにして部屋に戻ったのか、どのようにして母親に許しを請うたのか、よく思い出せないでいる。
ただ、彼女はそれ以来、二度と俺の前には現れなかった。