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怪談夜行列車

【新作洒落怖】カン、カン

投稿日:2020年6月23日 更新日:

本文

270 :カン、カン:02/08/21 23:11
幼い頃に体験した、とても恐ろしい出来事について話します。

その当時私は小学生で、妹、姉、母親と一緒に、どこにでもあるような小さい
アパートに住んでいました。夜になったらいつも畳の部屋で、家族揃って枕を並べて
寝ていました。ある夜、母親が体調を崩し、母に頼まれて私が消灯をすることになったのです。
洗面所と居間の電気を消し、テレビ等も消して、それから畳の部屋に行き、母に家中の電気を
全て消した事を伝えてから、自分も布団に潜りました。横では既に妹が寝ています。
普段よりずっと早い就寝だったので、その時私はなかなか眠れず、
しばらくの間ぼーっと天井を眺めていました。
すると突然、静まり返った部屋で、「カン、カン」という変な音が響いだのです。
私は布団からガバッと起き、暗い部屋を見回しました。しかし、そこには何もない。
「カン、カン」
少しして、さっきと同じ音がまた聞こえました。どうやら居間の方から鳴ったようです。
隣にいた姉が「今の聞こえた?」と訊いてきました。空耳などではなかったようです。
もう一度部屋の中を見渡してみましたが、妹と母が寝ているだけで、部屋には何もありません。

271 :カン、カン:02/08/21 23:14
おかしい・・・確かに金属のような音で、それもかなり近くで聞こえた。
姉もさっきの音が気になったらしく、「居間を見てみる」と言いました。私も姉と一緒に寝室から出て、
真っ暗な居間の中に入りました。そしてキッチンの近くからそっと居間を見ました。
そこで私達は見てしまったのです。
居間の中央にあるテーブル。いつも私達が食事を取ったり団欒したりするところ。
そのテーブルの上に人が座っているのです。こちらに背を向けているので
顔までは判りません。でも、腰の辺りまで伸びている長い髪の毛、ほっそりとした体格、
身につけている白い浴衣のような着物から、女であるということは判りました。
私はぞっとして姉の方を見ました。姉は私の視線には少しも気付かず、その女に見入っていました。
その女は真っ暗な居間の中で、背筋をまっすぐに伸ばしたままテーブルの上で正座をしているようで、
ぴくりとも動きません。私は恐ろしさのあまり、足をガクガク震わせていました。
声を出してはいけない、もし出せば恐ろしい事になる。その女はこちらには全く振り向く気配もなく、
ただ正座をしながら私達にその白い背中を向けているだけだった。
私はとうとう耐え切れず、「わぁーーーーーっ!!」と大声で何か叫びながら寝室に飛び込んだ。
母を叩き起こし、「居間に人がいる!」と泣き喚いた。
「どうしたの、こんな夜中に」そういう母を引っ張って、居間に連れていった。居間の明りを付けると、
姉がテーブルの側に立っていた。さっきの女はどこにも居ません。テーブルの上もきちんと
片付けられていて何もありません。しかしそこにいた姉の目は虚ろでした。今でもはっきりと
その時の姉の表情を覚えています。私と違って、彼女は何かに怯えている様子は微塵もなく、
テーブルの上だけをじっと見ていたのです。

275 :カン、カン:02/08/21 23:16
母が姉に何があったのか尋ねてみたところ、「あそこに女の人がいた」とだけ言いました。
母は不思議そうな顔をしてテーブルを見ていましたが、「早く寝なさい」と言って3人で寝室に
戻りました。私は布団の中で考えました。アレを見て叫び、寝室に行って母を起こして居間に
連れてきたちょっとの間、姉は居間でずっとアレを見ていたんだろうか?
姉の様子は普通じゃなかった。何か恐ろしいものを見たのでは?そう思っていました。
そして次の日、姉に尋ねてみたのです。「お姉ちゃん、昨日のことなんだけど・・・」
そう訊いても姉は何も答えません。下を向いて、沈黙するばかり。私はしつこく質問しました。
すると姉は小さな声でぼそっとつぶやきました。
「あんたが大きな声を出したから・・・」

それ以来、姉は私に対して冷たくなりました。話し掛ければいつも明るく反応してくれていたのに、
無視される事が多くなりました。そして、あの時の事を再び口にすることはありませんでした。
あの時私の発した大声で、あの女はたぶん、姉の方を振り向いたのです。
姉は女と目が合ってしまったんだ。きっと、想像出来ない程恐ろしいものを見てしまったのだ。
そう確信していましたが、時が経つにつれて次第にそのことも忘れていきました。

276 :カン、カン:02/08/21 23:17
中学校に上がって受験生になった私は、毎日決まって自分の部屋で勉強するようになりました。
姉は県外の高校に進学し、寮で生活して、家に帰ってくることは滅多にありませんでした。
ある夜、遅くまで机に向かっていると、扉の方からノックとは違う、何かの音が聞こえました。
「カン、カン」
かなり微かな音です。金属っぽい音。それが何なのか思い出した私は、全身にどっと冷や汗が
吹き出ました。これはアレだ。小さい頃、母が風邪をひいて、私が代わって消灯をした時の・・・
「カン、カン」
また鳴りました。扉の向こうから、さっきと全く同じ金属音。
私はいよいよ怖くなり、妹の部屋の壁を叩いて、「ちょっと、起きて!」と叫びました。
しかし妹はもう寝てしまっているのか、何の反応もありません。母は最近ずっと早寝している。
とすれば、家の中でこの音に気付いているのは私だけ・・・。独りだけ取り残されたような
気分になりました。そしてもう1度あの音が。「カン、カン」
私はついにその音がどこで鳴っているのか分かってしまいました。
そっと部屋の扉を開けました。真っ暗な短い廊下の向こう側にある居間。そこはカーテンから漏れる
青白い外の光でぼんやりと照らし出されていた。

279 :カン、カン:02/08/21 23:19
キッチンの側から居間を覗くと、テーブルの上にあの女がいた。幼い頃、姉と共に見た記憶が
急速に蘇ってきました。あの時と同じ姿で、女は白い着物を着て、すらっとした背筋をピンと立て、
テーブルの上できちんと正座し、その後姿だけを私に見せていました。
「カン、カン」
今度は、はっきりとその女から聞こえました。
その時私は声を出してしまいました。何と言ったかは覚えていませんが、またも声を出して
しまったのです。すると、女は私を振り返りました。女の顔と向き合った瞬間、私はもう
気がおかしくなりそうでした。
その女の両目には、ちょうど目の中にぴったり収まる大きさの鉄釘が刺さっていた。
よく見ると、両手には鈍器のようなものが握られている。そして口だけで笑いながらこう言った。
「あなたも・・・あなた達家族もお終いね。ふふふ」

次の日、気がつくと私は自分の部屋のベッドで寝ていました。私は少しして昨日何があったのか
思い出し、母に居間で寝ていた私を部屋まで運んでくれたのか、と聞いてみましたが、
何のことだと言うのです。妹に聞いても同じで、「どーせ寝ぼけてたんでしょーが」とけらけら笑われた。
しかも私が部屋の壁を叩いた時には妹は既に熟睡してたとのことでした。そんなはずない。
私は確かに居間でアレを見て、そこで意識を失ったはずです。誰かが居間で倒れてる私を見つけて、
ベッドに運んだとしか考えられない。でも改めて思い出そうとしても頭がモヤモヤしていました。
ただ、最後のあのおぞましい表情と、ニヤリと笑った口から出た言葉ははっきり覚えていた。
私と、家族がお終いだと。

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