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81 :『赤いシャツの女』1/10:2009/08/30(日) 13:08:14 ID:1eeJwsLKO
二年前の今頃。
その日、来週に迎える彼女の誕生日のプレゼントを買いに都内のある繁華街に居た。
俺はその日バイトが休みだったので昼過ぎからうろうろとプレゼントを物色していた。
交差点の向こうに彼女が気に入りそうなアクセのショップがあったなぁ…なんて考えながら、そのスクランブル交差点で信号待ちをしていた。
ふと、反対側の歩道の同じく信号待ちをしている人々の一番右端に居る赤いシャツの若い女性が視界に入った。
瞬間、背筋がぞわっとする感じがした。
視界の一番端に入っただけで直視した訳ではない。と言うか、直視出来ない何かを感じた。
霊感とか全くなかったけど、本能的に「あれ、ヤバい」って感じて、信号が青に替わったと同時に俺は斜め左前側に進路を進めた。
気のせいかな?とか自問自答しながら、薄気味悪かったので早くこの場所から離れようと思って早足で歩いてた。
それでも怖いもの見たさと言うか、どんな容姿なんだろ?とスケベ根性が頭を過り、一瞬だけ目線の先を右側に送った。
ちらっとだけしか見れなかったが、その女性らしき姿は其処にはなく、同時に、今度は全身の血が逆流するような身の毛のよだつ感覚と、鳥肌がぶわぁと立って、ガバッと反射的に前に向き直った。
赤シャツの女性は目の前に居た。
82 :『赤いシャツの女』2/10:2009/08/30(日) 13:09:00 ID:1eeJwsLKO
セミロングの髪にチェックのミニスカにルーズソックス。
顔立ちや服装から女子高生に間違いないだろうが、生気が全く無い表情からこの世の者では無いと一目で本能的に理解した。
何より、赤いと思っていたシャツは彼女の首筋に真一文字に入った切り口から流れ出た大量の血が染めていた色だったからだ。
思わず「うっ」と呻く俺の傍らをその娘が通り過ぎる時、頭の中に直接、無数の虫の羽音に似た耳鳴りと共に、低いくぐもった女の声が響いて来た。
声ははっきりとした言葉としては認識出来なかったが、苦しみとか、怨みとか、怒りとか、色々な感情が渦巻いている様な、思念みたいな感情が脳にダイレクトに響いて来る感じだった。
気が付くと交差点の途中で硬直して立ち止まっていたらしく、車のクラクションで我に返った。
「・・・何だ・・・・・今の?」
周りを振り返っても赤シャツのJKは確認出来ず、白昼夢か幻を見たような・・・しかし全身は汗でびっしょりだった。
もうなんだかプレゼントを探す気力も失せて今日は帰る事にした。と言うか、あの一瞬の出来事でどっと疲労感が身体を重くしていた。
帰る道すがら、あの娘は一体何だったのか?色々考えていた。
自殺でもしてさ迷っているのか?とか、首筋の傷から誰かに殺害された娘なのか?とか、若いのに無念だったろうなぁとか…。
何だか無性に悲しくなり、柄にもなくちょっとだけ心の中で手を合わせてみた。
もしかしたらそれがいけなかったのかも知れない。
83 :『赤いシャツの女』3/10:2009/08/30(日) 13:10:03 ID:1eeJwsLKO
夕方4時頃、へとへとになりながらアパートのドアを開けた瞬間、誰かに思いっきり背中を蹴られて、つまずきながら両手を付いて玄関に倒れ込んだ。
振り返るとそこには誰も居なかった。直ぐさま外の共用廊下を見たが誰も居ない。
「・・・連れて帰って来ちゃった?」
元々霊感が無いので交差点ですれ違って以降、何かを感じる気配は無かった。
単純につまずいただけか?とか無理矢理自分に言い聞かせるように部屋に入った。
入ったと同時に部屋の一角に目が行った。
机の上に飾っていた彼女との2ショットの写真が、びりびりに破かれて机の上に散乱していた。
「連れて来たんじゃなくて・・・今、出ていった?」
虫の知らせか、何か嫌な予感がして俺は彼女の携帯に電話した。
・・・・・出ない。
多分これからバイトだろうから今電車の中か何かで出られないんだ、とか、また自分で自分に言い聞かせている。
心臓がバクバク鳴っている。俺はもう一度彼女に電話を掛ける。出ない。
いてもたってもいられなくて、取り敢えず彼女の安否を確認したくなって彼女のバイト先に行ってみようと思った矢先、携帯が鳴った。
良かったぁと思って着信画面を確認すると、非通知の表示だった。
84 :『赤いシャツの女』4/10:2009/08/30(日) 13:10:57 ID:1eeJwsLKO
「・・・もしもし」
声はない。代わりに電波が悪いのか、スピーカーの向こうからは雑音みたいなノイズしか聴こえて来ない。
「もしもし?・・・・・もしもし!」
何か向こうで話してるような気もするのだが、雑音が酷すぎて聞き取れない。
埒が明かないので携帯を切った。切った瞬間、違和感に気付いた。
「何で着信音鳴ってんだ?」
通常俺は非通知着信は受信拒否に設定している。ただ拒否に設定していてもピリリと一瞬だけ音が鳴ってしまう。
だが着信音は非通知だったにも関わらず俺が出るまでの数秒鳴り続けていた。
背中を冷や汗が滴るのを感じ、頭の中で何かヤバい、何かヤバいと思ってたらまた携帯が鳴った。
非通知だった。
暫く出ようかどうか画面を凝視したまま固まっていたが、意を決して出ることにした。
「・・・・・・・誰?」
相変わらずノイズが酷かったが、向こうの声を聞き取ろうと受話器に当てた耳に神経を集中した。
「・・・・・・・・・・・・ワ・・・・・・・タ・・・・シ・・」
怖くて携帯を放り投げた。女の声だった。
86 :『赤いシャツの女』5/10:2009/08/30(日) 13:15:24 ID:1eeJwsLKO
何をどう整理して考えればいいのか分からず、頭の芯がカーッと熱くなり目眩がして倒れそうになった。
それでも、彼女の身にも何か善からぬ事が起こりそうな不安が拭えず、もう一度携帯を拾い上げ、アパートを飛び出した。
駅に着くと構内アナウンスで、〇〇駅で人身事故の為運転を見合せているとの案内が流されていた。
彼女がバイト先に行く為に乗り換える駅だった。
駅に向かう途中も何度も彼女の携帯に電話をしたが応答がない。
人身事故の相手が彼女と決まった訳ではなかったが、半分泣きそうになりながら無事でいてくれ、人違いであってくれ、と心の底から念じていた。
携帯が鳴った。
非通知だった。
息を飲んで電話に出る。
受話口の雑音も、周りの雑踏の音も耳に届かず、その声だけが頭に響いた。
「・・・・・・・・・・・・ワ・・・・・・・タ・・・・シ・・・・・・・・・ジャ・・・・・ダ・・・メ?」
頭の中が真っ白になった。