87 :『赤いシャツの女』6/10:2009/08/30(日) 13:16:58 ID:1eeJwsLKO
得体の知れないモノに逆ナンされてるのか俺は!?
咄嗟に「彼女をどうした!?彼女をどうした!!!」と叫んでいた。
しかし電話はもう切れていた。
気が動転していたのか、着信履歴からそいつに電話をしてもう一度文句を言ってやろうかと履歴画面を出した。
非通知の着信履歴は一件も無かった。
冷静に考えれば非通知相手にこちらから電話は出来ないのだが、着信履歴は残るはず。
だが俺の携帯は昨日の夜から誰からも着信していないのだ。
白昼夢???
一瞬、今日一日の出来事は全て俺が勝手に妄想した絵空事だったのか?と無理矢理納得し掛けた時、再び携帯が鳴った。
着信画面に彼女の名前。
「うわ~俺やっちまったぁー」とか「そりゃそうだよなぁ~」とか、あまりに現実離れした今日の出来事を、この彼女の電話一つで打ち消してくれる気がして、一気に安堵して電話に出た。
しかし、電話口からは、聞き覚えのない、男性の声が出た。
88 :『赤いシャツの女』7/10:2009/08/30(日) 13:17:54 ID:1eeJwsLKO
「〇〇警察です。E美(彼女の名前)さんのお知り合いの方ですか?」
「・・・そうですが?」
「E美さんなんですが、実は先ほど〇〇駅で事故に遇われまして、現在病院に搬送しているところなんですが・・・」
警察の方の話だと駅のホームから転落し、命に別状はないものの、頭に怪我をして意識が朦朧としているらしく、万が一のため身内の方に連絡をしようと携帯を拝借し、
俺からのたび重なる着信履歴に気付き連絡をしてくれたらしい。
彼女とは同じ大学だったので、そこに電話をして実家の連絡先を調べてくれと伝え、彼女の搬送先の病院を聞いて電話を切った。
怒りが込み上げて来る。絶対あいつがやったのだ。
陳腐な三文小説地味ているが、嫉妬心から俺の彼女を殺して俺を奪おうとしているのだと、その時は本気で思った。
彼女の容体もすごく気になったが、それよりも先ずもう一度あいつに会ってはっきりケリを付けなければと思い、何故だか俺はもう一度昼間の交差点に向かった。
90 :『赤いシャツの女』8/10:2009/08/30(日) 13:19:21 ID:1eeJwsLKO
辺りが少し暗くなりかけていたが昼間よりも信号待ちをしている人達は更に増え、それでも例の場所に同じように赤シャツのそいつは居た。
恐さとか不可解さとかを超越して俺はその時怒りに満ちていたので、こっちから詰め寄ってそいつに向かって大声で怒鳴っていた。
途中、そいつの隣に居た三人組のホストだか客引きだかが、自分達に絡んで来たと思い込まれ胸ぐらを掴まれたりしたが、
そいつらにも赤シャツの異様な姿が見えたのか、誰も居ない空間に構わず怒鳴っている俺を気味悪がったのか(多分、後者)、気が付くと居なくなっていた。
その間も赤シャツのそいつは無表情でただ前だけを向いていただけだったが、俺が少し正気を取り戻し、そう言えば昼間手を合わせた時の事を
頭の中で思い返してちょっと心苦しく感じた瞬間、目の前からそいつはスーゥと消えた。
そして、また、非通知から着信が入った。
91 :『赤いシャツの女』9/10:2009/08/30(日) 13:20:23 ID:1eeJwsLKO
「・・・・・・・・」
無言だった。
言いたい事は全て出尽くした感があり、俺も何を言えば分からず無言でいた。
うまく説明出来ないが、なんと言うか別れ話を電話でしているような気まずい雰囲気と言うか、お互いがお互いの次の言葉を待ってると言うか…。
相手から嫌な雰囲気が感じられなかったからそう思ったのかも知れないが…。
俺は一人で勝手に分かってくれたんだな、って解釈して思わず「ごめんな」って口に出してしまった。
そのまま電話は切れた。
後日、彼女の病院にお見舞いに行った。
思っていたよりも彼女は元気で、後頭部を十数針縫ったものの、後は軽い打撲程度で済んだ。
ホーム下に転落こそしたが電車の到着まではまだ時間があり、駅員が緊急連絡をして最悪の難は免れた。
その後、ホームに居合わせた人達に引き上げられ、病院に運ばれたらしい。
複数の目撃者の証言から、彼女が一人でふらふらとホームから落ちる姿が目撃されており、彼女も模試の追い込みで連日徹夜続きで詳しくは憶えてないそうだ。
それよりも、ホームから心配そうに声を掛けている人達の狼狽した姿を、下から見上げて見ているアングルが新鮮だったとか、
彼女は嬉々としながら記憶の断片を思い返すように俺に熱く語っていた。
92 :『赤いシャツの女』ラスト/10:2009/08/30(日) 13:21:35 ID:1eeJwsLKO
「なんにしろ無事で良かったよ。」
「てゆーか、あたし自殺とか勘違いされちゃってんじゃないかと思うと超~ハズいんだけど(笑)」
「…ところでさ、あと他に何か気付いたとか、変なところとかなかった?」
「ん~特にない(笑)」
俺は彼女に特に心配を掛けたくなかったから、あの出来事については一切話さなかった。
出来れば、俺一人の思い過ごしか妄想で処理したかった…いや、あくまでそう自分に言い聞かせたかったからだ。
「あ!そう言えばあの時、変な感じの娘がいた…
「え!?」
「ホームの上からサラリーマンとか男の人達がわたしを助けようとしてた時なんだけど、その娘だけ一人わたしのこと気にもしないで超~シカトっぽかった。」「そ…その娘……どんな格好してた?」
突然、ピリリっと携帯が鳴った。
彼女に病院では携帯の電源は切っておけ、と突っ込まれ、ゴメンゴメンと謝りながら携帯を取り出し、確認した。
非通知からだったので呼び出し音はすぐ止み、履歴にも着信が残っていた。
そう……もう終わった事なんだな………。
「で、その娘の格好だっけ?」
そう言われて顔を上げた。
携帯を耳にあて、首から流した血でシャツを真っ赤に染めた彼女がニヤリと笑って俺を見ていた。
「コ ン ナ カ ン ジ」
俺はその場で気絶した。
「マ タ ア エ タ ネ」