『怖い』を楽しむオカルト総合ブログ

怪談夜行列車

【新作洒落怖】ヒギョウさま

投稿日:2021年6月23日 更新日:

508 :8/13:2011/08/14(日) 17:45:41.63 ID:zBvOhT5L0

それは、玩具ではありませんでした。ペンキのようなもので鏡面を朱色に塗られた手鏡。
粘土で作られた小さな牛の像。プラスチックの安そうな造花。
昨夜はそのカラフルな色合いから、玩具のように見えたのでしょう。
しかし、それらはなんに使うものかまったく見当も付きませんでした。
私はお爺ちゃんが昨夜玉子を捨てていたゴミ箱に気が付きました。
昨夜は暗くてよく分かりませんでしたが、明るいところで見るとそのゴミ箱の蓋には、昔風の線を崩した読めない字で何か書いてある古そうな紙が一杯貼ってありました。

509 :9/13:2011/08/14(日) 17:47:24.49 ID:zBvOhT5L0

「あっ!生まれとるで!・・・え、・・・何・・アレ・・・」孵化器を覗いた弟が、玉子が孵っているを見つけたようです。
私は、生まれたての雛を見たくて孵化器の扉を開けました。

すると

雛?がいました。
しかし、その雛?は他の雛とは何かが違いました。
良く見ると、他の雛達と違い、全く震えていませんでした。
全くさえずっていませんでした。

そして眼が、眼だけが、人のそれでした。

ソレは孵化器の棚からドサッと土間へ落ちると、首を振らず、スタスタと歩いていきました。
私はその異様さに、動くことができませんでした。
ソレが孵化室を出て西のほうへ歩いていき、見えなくなると、金縛りが解けたようにやっと動けるようになりました。

524 :10/13:2011/08/14(日) 19:43:51.77 ID:zBvOhT5L0

そして弟の方を見ると、弟は

よだれをダラダラと流し、眼はどこも見ておらず、呼びかけても呼びかけても反応がありませんでした。
私が大声で弟の名を何度も呼んでいると、お爺ちゃんとお婆ちゃんが息を切らして飛び込んできました。
「おいっ!!見たんか!!」
私はお爺ちゃんの形相が恐ろしくて「見てない」と答えました。
お爺ちゃんは私の眼を見ながら「見とるじゃろ。どっち行ったんなら?」と怖い眼で聞きました。
「あっち」と私は西のほうを指差しました。
するとお爺ちゃんは出入り口のドアの横においてあった粘土の牛の像と造花を持って、私の指差した方へ走っていきました。
お婆ちゃんは弟の名を何度も呼んでいましたが弟はよだれを流すばかりでなんの反応もしませんでした。
「ヒギョウさまと眼が合うたんか・・・」
お婆ちゃんは悲しそうに言いました。
「もう直らんの?」私は、弟とそれを見るお婆ちゃんに、幼いながらもただならぬ様子を感じ、そう尋ねました。
「いや・・・坊、そこの赤うに塗っとる鏡を取ってくれ。」

525 :11/13:2011/08/14(日) 19:46:04.08 ID:zBvOhT5L0

私が鏡面を朱色に縫られた手鏡を手渡すとお婆ちゃんは、「見ちゃあいけん、母ちゃんのところへ行っとき。」と、私を孵化室の外へ出しました。
私は母と姉のところへ行きましたが、母に何と話していいものか、何も言えずに母に抱きついていると、弟とお婆ちゃんが戻ってきました。
私は歩いてくる弟を見て、(ああなんでもなかったんだ。良かった)とホッとしましたが、何か、弟に違和感を感じました。

話してみると、確かに弟です。
一緒に孵化室に行ったことや、昨日のこと、一昨日のことも覚えています
しかし、どこか、何かが違うのです。
母も、弟に何かを感じたのでしょう、お婆ちゃんに「お母ちゃん、まさか・・・」と聞きました。
お婆ちゃんは悲しそうに頷くだけでした。
母が、弟を抱きしめてワンワンと泣いたのを覚えています。
弟はキョトンとしていました。
姉は弟を薄気味悪そうに見ていましたが、母が泣くのを見て、一緒に泣き出しました。

526 :12/13:2011/08/14(日) 19:49:37.11 ID:zBvOhT5L0

しばらくするとお爺ちゃんが帰ってきました。
「ダメじゃ、間に合わなんだ」そう言って悲しそうに首を振りました。
「婆さん、誰かは分からんが遅うても2、3日の内じゃろう、喪服を出して風に当てといてくれ」
そういうとお爺ちゃんは弟を抱きしめ、「すまんのう、お爺ちゃんが寝とったけえ、こがあなことに・・・ほんまにすまんのう」
お爺ちゃんはボロボロと涙を流して謝りました。弟は「何?お爺ちゃん痛いよ」等言っていました。
その声、そのしぐさ、確かに弟なのですが、やはりソレは弟ではありませんでした。
後からお爺ちゃんは言いました、
「お天道さんの一番高い刻と夜の一番深い刻に生まれた雛は、御役目を持っとるんじゃ。じゃけえ、殺さにゃあいけんのよ。」
「夜に生まれた雛も『ヒギョウさま』になるの?」と、私は聞きました。
「誰に・・・ほうか、婆さんが言うたんか。
いや、違う。夜に生まれたんはもっともっと恐ろしいもんになるんじゃ。」そういってお爺さんは薄気味わるそうに孵化室のほうを見ました。

527 :13/13:2011/08/14(日) 19:52:20.94 ID:zBvOhT5L0

このときの話はこれで終わりです。

後に、私が高校の時に、実家が養鶏場を営んでいる同級生がいました。
そいつに『ヒギョウさま』について聞いてみると、最初は何のことか分からない様子でしたが、あの夏の出来事を話すと、「ああ、『言わし鶏』のことだな。」と言っていました。
何でも、今ではオートメーション化が進み、センサーとタイマーにより、自動的に12時と24時に孵りそうな玉子は排除されるのだそうです。

あれからも毎年島根へ帰省しています。弟は元気に小学校で教師をしています。
もう、以前の弟がどうだったか、覚えていません。だからもういいのです。
アレから二十年も家族として暮らしてきたのですから、もう完全に家族なんです。

出典http://toki.2ch.net/test/read.cgi/occult/1313007259/

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