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83 :部室の鏡1:01/09/07 18:00
大学時代の話。サークルの誰かがゴミ捨て場から鏡を拾ってきた。
幾分大きすぎたので、欠けて歪な形になっていた端の部分を押し割って、
部室の二つの窓の間に吊るすことになった。
翌日、部室に入ると同期の男が鏡の前で首を傾げている。
「こんなヒビ、あったっけ?」見ると、赤く錆びたようなヒビが一筋、
右下の隅から中央に向かって引かれていた。「割ったときにできたんじゃない?」
初めて鏡を見た私が言うと、裏側には何の傷もなかったにもかかわらず、それで皆、
納得してしまった。それが一日目。
85 :部室の鏡2:01/09/07 18:04
翌日は雨。昼下がりの部室にしては珍しく無人。ドアを開けてすぐに、
真っ黒い四角が目に飛び込んできた。それはジジ、ジジ・・・と
音を立て、ザワザワと形を変えていた。締め切った窓と窓の間に
密集して蠢いているものは、小さな羽虫の固まりだった。
私は思わず叫んだらしい。有り難いことに、隣のドアから顔を出した
数人の知人と一緒に部室に入り、窓を開けて、虫を追い払った。
「うわ!」虫の波を見ても笑っていた一人が声を上げた。「鏡か。
びっくりした。人がいるのかと思った」虫が集っていたのは
これだったのかと改めて鏡を見ると、赤錆びの線が二本引かれていた。
昨日よりも、一本増えていた。それが二日目。
87 :部室の鏡3:01/09/07 18:07
三日目になると、霊感少女の新入生が、鏡の中を横切る女を見たと
言い出した。他に目撃者もいなかったので、「自分じゃねえの。
思い込みすぎだよ、それ」で終わったのだが、さすがに「ちょっと
気味悪いね」ということにはなって、鏡を誰かが裏返しにした。
部員は多かったので、誰かがその後で元に戻したのかもしれない。
とにかく、次の日には鏡は正面を向いていた。赤い線は三本に増えて、
爪を立てて中から傷つけたようにも見えた。
結局その日、鏡を処分する事に決まった。それが最終日。
90 :部室の鏡4:01/09/07 18:11
誰が捨てに行くかで、くじ引きをして、最悪な事に私と霊感少女が
当たってしまった。そもそも拾ってきた人間が捨てるのが筋だと
猛抗議したら、誰が拾ってきたのか誰も知らないということが判明して、
ますます鬱になった。結局、女2人に任せるのは気が引けたのか、
同期の男が3人加勢してくれて、5人で学校の廃品置場に向かった。
廃品置場は運動場横の並木道の奥にあって、部室からは距離があった。
男3人は2人ずつ交代で鏡を運び、辿り着いた時には夏の日も
暮れかけていた。雑多なゴミ置き場の端に鏡をそっと置いて、
その場を離れようとしたときに「ああああ」と、霊感少女が
情けない声を出した。また脅かそうとしてる。「おまえ、いい加減に」
言いながら振り向いた同期が、私の足元に尻餅をついた。
驚いて振り返ると、霊感少女が両手を前に突き出して泣いている。
その腰に、白い手が絡みついていた。目にしたのは一瞬だったと思う。
でも、腰を締め上げるように絡みついたその両方の腕に血が流れていた
こと、両の手首がパックリ開いていたこと、今でもはっきりと
目に浮かぶのだ。私達は必死になって、霊感少女を引っ張って
鏡から出ているらしい腕を引き離し、腰を抜かした同期を引きずって、
その場から逃げ延びた。部室に帰り着いて、全員で泣いた。
今からもう十二年前のことです。