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怪談夜行列車

【新作洒落怖】学校のトイレにまつわる怖い話

投稿日:2023年3月29日 更新日:

本文

776 :細田:2012/07/22(日) 02:03:39.08 ID:fI6M7EBc0

こんばんは。
僕はある高校の2年生の、細田といいます。
突然だけど君達は学校のトイレってどう思う?
最近は時代が変わって綺麗なトイレも増えてきたかもしれないけど、
基本的には学校のトイレは暗くて、臭くて、怖くって……

777 :細田:2012/07/22(日) 02:04:41.99 ID:fI6M7EBc0

休み時間にみんながワイワイと使っている時ならいいんだけど、
うっかり放課後に一人で入ってしまったりなんかすると、誰もいないとわかっているのについ後ろを振り返ってしまったり……
ひんやりとした空気が足元から背筋まで駆け上って、自分の鼓動が妙に速く聞こえたり……
ぴちゃんと水道の水が滴る音一つでも飛び上がってしまったりする。
……そんな経験、君達にはないかな?
僕が今日話したいのは、そんな静かなトイレの話さ。

778 :細田:2012/07/22(日) 02:05:53.81 ID:fI6M7EBc0

夏休みに入ってすぐの事だ。
僕の学校の図書室は夏休みでも無料開放していてね。
休みに入る前に続きものの本を借りていた僕は続きを求めて学校に行ったんだ。
グラウンドでは野球部が活動する活発な声や景気の良いバッティングの音が聞こえていた。
夏の空には、どうしてあんなに映えるんだろうね?
あのカキィン、っていう音はさ。
気分の良い時は爽やかに感じられるんだけど、僕は人より少し暑がりでね。
体そのものがとけているんじゃないかと錯覚するような暑い日差しの中、あの甲高い音は妙に鼓膜の奥にまで響いてさ。
まるでその音を敬遠するように校内へと逃げ込んだよ。

779 :細田:2012/07/22(日) 02:06:55.56 ID:fI6M7EBc0

入った瞬間のヒヤリとした空気がとても気持ち良かった。
クーラーの無い時代の人たちは一体どうやって夏を生き延びていたんだろう。
大げさだけどそんな気分さ。
止まらない額や首筋の汗を手のひらで拭いながら、僕はまっすぐに図書室を目指した。
折角無料開放されているんだ、そこそこ賑わっているんじゃないかと思っていたんだけど、案外図書室は静かでね。
数人が勉強をしたり本を読んでいる程度だった。
だからかな、図書室はより一層涼しく感じられた。

781 :細田:2012/07/22(日) 02:07:50.68 ID:fI6M7EBc0

目当ての本はすぐに見つかったけど、貸し出しで家に持って帰る事にしたらまたすぐにあの灼熱地獄に逆戻り……。
汗の止まらない僕は、どうしてもその気になれなくてね。
とくに用事もなかったし、その場で本の続きを読んでいってしまう事にしたんだ。
最初は他人がノートにカリカリとシャープペンを走らせる音や、ペラペラと本を捲る音も耳に入っていたんだけど、すぐに本に夢中になっていった。
君達は知っているかな?全国の学校や駅、観光スポットのトイレの詳細条件が写真つきで紹介されているシリーズものでさ。
中には億単位の金がかけられて建設されたトイレもあるんだよ。
人間は、トイレとは切っても切れない縁があるのさ。
それだけは昔からずっと変わらない。
読んだ事がないなら、僕の学校の図書室に行ってみる事をオススメするよ。

……少し話がそれたけど、とにかく僕は真剣に読書をしていた。
汗はクーラーの冷たい風に冷やされて、下手に濡れているだけに体の体温が一気に下がってね。
僕は、トイレに行きたくなってしまったんだ。
一人で来ていただけだし、誰に遠慮をする必要もない。
すぐに立ち上がって、トイレに行く事にしたよ。
いつの間にか図書室に数人見えていた人影はいなくなって、僕一人だけになっていた。
勿論まだまだ明るい時刻だし、廊下の窓からは爽やかな風が吹き込んでいた。
野球部が活動する物音もまだ聞こえていたよ。
さっきと違って苛々する事もなく、始まったばかりの夏休みを実感して心が弾んだな。
僕は何も考えず、トイレの扉を開けたよ。
図書室だけではなく、校内の人間自体が少なかったみたいでね。トイレは静まりかえっていた。

782 :細田:2012/07/22(日) 02:08:59.62 ID:fI6M7EBc0

……君達にもわかると思うけど、トイレって独特の空気に包まれているよね。
扉を開けた瞬間、ムッ、と異臭が鼻をついて生暖かさが肌を包む。
僕の学校のトイレは換気扇で臭いを外に逃がしているから、クーラーはないんだ。
タイルは所々黒ずんでいて、空気がどんよりジメジメしている。
さっきまでの爽やかさが嘘のように、僕は暗い気持ちになったよ。
それでも生理的な欲求には逆らえない。
僕は目を伏せるようにして俯きながら、一番奥の個室に入った。
壁に囲まれた狭い空間に入ると、更にまた違った独特さが襲う。
叫びだしたくなるような落ち着くような、複雑な気分さ。
家のトイレは狭いほど落ち着くんだけど、学校のトイレは狭さが気味の悪さも兼ね備えているからね。
自分の立てる物音だけが響いて、鼓動がやけにうるさい。
普段の騒がしいトイレとは全く違う。
ほんの少しの我慢だっていうのに、一瞬が永遠のように感じられたよ。
そんな時、僕にとっての救世主が現れた。
ギィ、と物音がして、誰かの足音が近づいてきたんだ。
いくら人気がないとは言っても、校内に誰もいなかった訳じゃない。
誰かがトイレに入ってきたのさ。

783 :細田:2012/07/22(日) 02:10:06.34 ID:fI6M7EBc0

名前も学年もわからない彼に、それでも僕はホッとして全身の力が抜けた。
彼は、僕の隣の個室に入ったようだった。
一人じゃないってだけで、急に安心感が襲うんだから、人間なんて単純なもんさ。
ようやく安心した心地で用を済ませていた時、僕は妙な事に気が付いた。
足だ。
サンダルを履いた足が見えているんだよ。
トイレの個室って上と下が空いているだろう?
下の隙間はほんの数センチなんだけど、そこに確かにサンダルを履いた足が覗いているんだよ。
ピンク色で、小さな花の飾りがついていてね……小さな女の子だとわかった。
まだ隣の個室からは物音がしていたから、さっき入ってきた生徒とは別の人物のようだ。
誰かの付添いで学校に来て、迷いこんでしまったのかな?
すっかり恐怖心が薄れていた僕は、ぼんやりとそんな事を思っただけだった。
だけど、よく見たらおかしいんだよ。
普通立っていると両方の親指が内側にきて小指が外側にくるだろう?
なのにその小さな足は親指が外側にあって小指が内側に揃っていたんだ。
それに何故か足も、その下の床もびしょびしょに濡れているんだよ。
もしかしたら足をクロスさせているだけかもしれない。体の柔らかい子なのかもしれない。
……それでも得体の知れないその足に、僕はゾーッとしたよ。

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