907 :本当にあった怖い名無し:2012/01/23(月) 22:03:28.98 ID:SHL8GCgj0
すると、私がなかなか泣き止まないことを不審におもったのか、
遊びに来ていたらしいおばあちゃんがひょこっと顔をだしたので私はしがみ付いていた
母から離れて、おばあちゃんに泣きつきました。
「おばあちゃんごめんなさい、こんちゃん死んじゃった」
「あれ、何をいうンだいね、この子」
おばあちゃんは私の頭をぽんぽんとたたいてあやしながら「かしてみい」と私につぶやきました。
私は素直に死んでしまったぬいぐるみをおばあちゃんにあずけました。
するとおばあちゃんはしげしげとその裂け口を見てから、ほんわり笑いました。
「Mちゃん、死んでないよ。怪我しただけさね。ばあちゃんがつくろったるから、ちょっとまってな」
おばあちゃんはそういって、母から裁縫セットを借り受け、ぬいぐるみのおなかを元通りに縫い合わせてくれました。
数年後、私が小学校4年生のときにおばあちゃんは亡くなりました。末期癌でした。
不思議と涙が出ないまま、私は何とはなしに昔話のつもりで一連の事件のことを母にいうと、
母はとても奇妙な顔になりました。
908 :本当にあった怖い名無し:2012/01/23(月) 22:05:45.32 ID:SHL8GCgj0
「確かにMはターザンしてて落っこちだけど、あんた別に気なんて失ってなかったでしょ。
びっくりするぐらいケロリとしてたじゃない」
確かにその後、ぬいぐるみのおなかが急に縦に裂けたとかで、
あんたが大泣きして、おばあちゃんにつくろってもらったことはあったけど。
母はいぶかしむようにして私を見ました。
そんなばかな。
確実にあの時私は落ちて、目の前が真っ暗になって、気を失ったはずなのに。
全然ケロリとしてた記憶なんてないのに。
あんなに鮮明に覚えているのに。確かに落ちてから病院にいった記憶なんてないけれど。
でも、じゃああれは全部夢だったとでもいうのでしょうか。
それともただ単に夢と記憶がごっちゃになっただけなのでしょうか。
そんな疑問を感じたまま私は大人になり、その記憶もきっと気のせいだと大人らしいダメな理由をつけて
納得し始めたころに、私はあの若くて綺麗な女の人が着ていた、金と銀の刺繍の入った白い着物と出会いました。
909 :本当にあった怖い名無し:2012/01/23(月) 22:07:22.75 ID:SHL8GCgj0
成人式用にと私の前に現れたそれは、やはり白無垢をお直しした、振袖でした。
その着物はどうやら母方の(つまりおばあちゃんの)家で代々引き継がれてきたものらしいのですが。
あの着物のお姉さんはだれだったのか、あの男の子はなんだったのか、私の記憶と母の記憶の誤差は一体なんなのか。
結局今でもわからずじまいですが、そこはかとなく感じる縁は、別に悪いものじゃないなんておもうわけです。
というなんとも奇妙で曖昧な記憶のお話。