744 :本当にあった怖い名無し:2016/07/10(日) 23:57:12.59 ID:D6FQL7c30
正面入り口はやはり鍵がかかっており、
俺たちは1階の窓も手当たり次第に開けようとしたが、全て鍵がかかっていた。
しかし、1階の裏手に3階まで続く外階段があった。この外階段の登り口には有刺鉄線と立入禁止の札があったが、
有刺鉄線はボロボロに錆びており、
くたっと下にたゆたっていて難なく跨げそうだった。
A男はこれだ!と言い、意気揚々と跨いで非常階段に足をかけた。
俺はなんだかこの中には行きたくないという言葉には言い表せない嫌な気持ちでいっぱいだったが、A男を1人で行かせるわけにも行かず、嫌々ながらも後を追った。
外階段はボロボロに錆びて、
あちこちが抜けそうだった。
2階の踊り場までたどり着き、
2階の非常口のドアを開こうとしたがやはり鍵がかかっている。
俺たちは3階に向かった。
3階の踊り場にある非常口は、
非常口にはめこまれたガラスが割られていた。
その割れ目から手を入れるとちょうど内鍵が外せる。
A男「ほら見ろ、こうやって忍び込んだんだぜ」
A男はにやりと笑って、非常口のドアを開けた。鍵は元々外れていたし、A男の言っている事は間違いなさそうだ。
A男「それかカップルの青姦の名所かもしれねーぞ」
どこまでもおめでたい奴だが、
俺はなんだか違和感を感じていた。
このガラスはつい最近割られた様な感じがしない。周りに飛び散った破片は粉々になっているものばかりだし、
ガラスが割れた部分の内側はひどく汚れている。雨や枯葉なんかが吹き込んだ感じだ。
745 :本当にあった怖い名無し:2016/07/11(月) 00:00:26.40 ID:Rl0SwcMv0
A男「おい、見ろよ」
A男の声の方向に目を向けると、
真っ直ぐ伸びる通路の左手には5つの木の扉がついている部屋があった。
右手は5つの窓。正面突き当たりには下に下がる内階段が見えた。
A男「とりあえず、一部屋づつ行っとく?」
俺「まじかよ…」
A男の笑顔もこの薄気味悪さの前には若干ひきつっていた。
建物の中は、腐った木と、カビの臭いで満たされ、水を打ったようにしんとしている。
俺たちは一部屋づつ扉を開けていった。
扉の中は、やはり社員?の部屋だった。
部屋の中の間取りは、
正面にベランダに出れる大きな窓、
右に作り付けの木のベッド、
左手前に作り付けのやたらデカい洋服ダンスがあるだけの簡素な部屋だった。
廃墟と言えど荷物などは何もなく、ガランとしており、虫一匹もいない。
3階の部屋はどこも同じ様な感じだった。
洋服ダンスの中に鏡が打ち付けられていたり、
作り付けのベッドの上に朽ちたマットレスのある部屋もあったが、とくに気になる所は見つからなかった。
746 :本当にあった怖い名無し:2016/07/11(月) 00:05:18.32 ID:Rl0SwcMv0
A男と俺は2階に向かった。
先ほどA男が人影を見たと言っただけに、
俺達は一言も喋らず、言いようのない緊張感が走っていた。
3階と2階の踊り場に、簡易的な便所があった。踊り場には鏡がはめこまれていて、俺はなんだか学校みたいだなと感じた。
2階の通路も、3階とほとんど同じ作りだ。
人影も、人がいた気配もない。
俺たちは、また一部屋づつ扉を開けて回った。
手前から4部屋目に差し掛かった時、
妙な違和感を感じた。
ノブの形が違う。
他の部屋はよくある、円柱形の、がっつり掴むタイプのものだが、
この部屋は昔のノブにある様な、
なんというか、小さめの楕円の、飾り彫りがあるようなレトロなノブだった。
右にかちりと回してそっと開いた。
キイ…と渇いた音がして空いた中には、
人間のいた痕跡があった。
ベッドの上にはマットレスもあり、薄汚れたシーツがかかっていて、タオルケットらしきものが丸まっている。
開け放たれた洋服ダンスには、
針金ハンガーがぱらっとかかっており、
汚いTシャツや、くたびれたカーディガンが2.3着かかっていた。
俺たちは顔を見合わせ、ごくりと喉を鳴らした。
A男「誰か住んでんのかな?」
A男が俺にささやいた。
俺「ホームレスじゃね?」
俺も声を潜める。
ホームレスというセンは大いにあり得る。
この田舎町でホームレスは見かけた事はないけど、見かけた事がないというのはこういう所に住んでいるのかもしれない。
ベッドの奥に、何かの本が積まれているのをA男が見つけ、
入り口の扉を少し開けたままにして奥に進んだ。
俺はなんとなく、エロ本だろうなと思っていたが違った。
747 :本当にあった怖い名無し:2016/07/11(月) 00:15:25.04 ID:Rl0SwcMv0
それは、なんというか昔の本だった。
文字の感じとか、絵とか、
小説みたいなものとか雑誌もあったけど、
全てから時代を感じた。
ただしそれはノスタルジーどうのではなく、ただただ気味が悪かった。大日本帝国みたいな、あの感じの、言いようのない不気味さ。
A男も、気持ちわりいと言って見るのを辞めた。
その時だった、
内階段の方角から足音が聞こえる。
俺たちの背筋が凍った。
ホームレスが帰ってきた!!と咄嗟に思った。
今にも心臓が口から飛び出そうだった。
遠くからガチャリ、という音がして足音が止まる。
そしてガチャリ、という音がしてまた足音。
一部屋づつ見て回ってる?
俺たちは瞬時にそれを察した。
俺はジェスチャーで、A男を洋服ダンスに入れと促した。
足音の主が2部屋目をガチャリとしたタイミングで出来る限り慎重に部屋のドアを閉め、
俺も洋服ダンスに飛び込んだ。
洋服ダンスのつまみを内側からゆっくり引っ張り、扉を閉める。
カビくさかった。A男はがたがた震えていた。懐中電灯を点けたかったが、
明かりが漏れるのはマズイと思い付けなかった。
隣の部屋のガチャリが終わり、
足音の主がこの部屋の前まで来た。
748 :本当にあった怖い名無し:2016/07/11(月) 00:20:06.12 ID:Rl0SwcMv0
ガチャリ。
こつ、こつと足音が部屋に入ってくる。
部屋の真ん中あたりで足音が止んだ。
ボソ、ボソ、と足音の主が何か呟いた。
耳を洋服ダンスの扉に近づける。
「…だよ……だよ……れん、だよ……訓練…だよ…」
男の声だった。
ボソボソと、訓練…だよ…という言葉を繰り返している。
足音はやがて部屋から出て、2階の最後の部屋へ向かうと、また通路を歩いて行き足音が消えた。
この時間は10分くらいだったと思う。
ただ俺たちには1時間にも2時間にも感じられた。
俺たちは充分に時間を置いてからゆっくり洋服ダンスを開けた。
蒸されて暑いはずだったのに、
俺たちは足の先まで冷たく、がたがたに震えていた。
A男「…もう帰ろうぜ」
俺は無言で頷いた。
749 :本当にあった怖い名無し:2016/07/11(月) 00:28:52.81 ID:Rl0SwcMv0
俺たちは恐る恐る1階に降りた。
3階に登り、3階の通路を通って外階段を下りるより、
1階の非常口の内鍵を開けて外に出た方が地上に近いと判断したからだ。
1階は2階、3階と作りが違っていて、
階段を下りるとすぐ横が玄関ホールと、
管理カウンター、
奥に、食堂と厨房らしきもの、
便所と風呂があった。
便所と風呂の奥の突き当たりが、
建物の構造上1階の非常口のはずだ。
俺たちはそろりと歩みを進めた。
カッカッカッカッカッ
と響く足音が階段から聞こえ、俺たちはまた口から心臓が飛び出しそうになる程驚いた?
慌てて食堂に入り、しゃがんで壁に沿って隠れた。
足音は1階まで降りてきた。
キャスター付きの椅子を引く音と、
それに腰掛ける音がした。
管理カウンターの方角だ。
俺とA男はそっとそちらを見るために覗き込んだ。