『信仰の見本市』と呼ばれる町に行ってみた

2024年ニコニコ超会議出展ブースにて配布
原作:かみよう『琴葉茜と不思議探訪シリーズ』
執筆:夜行列車『首くくりの町』ほか

「あ、どうも。新年明けましておめでとうございます」
「どうもどうも。おめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします」
いつもの喫茶店にいつものメンバーで集まって、新年の挨拶を兼ねた今年最初のオカルトミーティングが開かれていた。
年始といえど店内には特に正月らしい飾りもなければ、集まる面々も座る場所もいつも通りで、どうにか挨拶で年始気分を感じられるという、なんとも気の抜けた集まりである。
俺は暇だったのでミーティング開始の30分以上前に喫茶店に到着しマスターの仕事を見守っていた。
ぼちぼちと集まるメンバーとそれぞれ年始の挨拶を交わし、マスターの声かけでいつも通りのミーティングが始まる。

この喫茶店で不定期に開かれるミーティングでは、オカルト大好きなマスターが何年もかけて集めたオカルト情報通が、それぞれ見聞きした情報を持ち寄り披露し合う。
大迷惑な疫病のせいで以前ほど頻繁に開催されなくなったために、それぞれが持ち寄る話の量も質も向上しているのは皮肉な話だ。
俺は疫病の隙間を縫って新たに行ったフィールドワークの中から、この会合にふさわしいネタをいくつか披露し、メンバーとの質疑応答を経て考察を深めていった。
オカルト愛好家同士というだけにこの考察タイムは俺にとっても非常に有意義なものであり、聞いてくれる面々にも確実にウケているのがわかって嬉しくもある。
手応えと満足感を十分に感じて俺は自分の発表を終えた。

「福岡に信仰の見本市って呼ばれてる町があるんだけど、誰か聞いたことある?」
そんな中で旅行が趣味である古参メンバーのFさんが切り出した。
福岡という地と呼称の奇妙さで俺を含めたみんなの顔に?が浮かぶ。
「この前、旅先で仲良くなった人からその町の名前を聞けたんだよ。福岡の今村町ね」
そうしてFさんは不思議な町についての噂を話し始めた。

曰く、その町は一部の旅人の間では古くから「信仰の見本市」と呼ばれている。
様々な宗教宗派が拠点を構え、それが理由か住民も外国人を含む様々な人種で構成されている。
新興宗教の類ではなく仏教・神道・キリスト教など国内外の伝統宗教ばかりである。
異様なほどに宗教が集まっているのに宗教問題が起きたことはない。
なぜそれほどに上手くいっているのかは分からない。
Fさんも噂として聞いたことはあったが、宗教関連ということで慎重になっていたために足を運んだことは無かった。
その町が福岡にある今村町であるという情報を聞いてネットで調べたところ、宗教以外にもオカルト方面での情報がいくつか見つかった。
この喫茶店のメンバーならわかるかもしれないと思って話題に上げた、ということだった。

「ネットでは何がわかったんです?」
メンバーから質問が上がる。
Fさんはメンバー全員の顔を素早く見渡して言った。
「子供にさ、言うじゃん。『いい子にしないとホニャララ』ってやつ」
メンバー全員がウンウンと頷く。
「その町ではさ、『首くくりのオバケが来るぞ』って言うんだよ」
「ほほー」
「物騒だな笑」
ニヤリと笑うFさんとそれぞれ感想を口にするメンバー。
一方で俺はその子脅しの文句に違和感を感じて素直に楽しめないでいた。
「他には『ククリ様』って書いてあるブログ記事もあったな」
「首を括る神様?」
「確かにオカルトだ」
子脅しには通常、元ネタとなる動物や事件があるものだ。
人や畑を荒らす害獣、死者を出す疫病、自然災害など、昔の人達が恐れた自然の脅威を抽象化したものがほとんどだ。
それが首くくりとは。

「何か事件とかあったんですかね」
俺はFさんに質問を上げてみた。
例えば連続殺人事件などがあり、次々に人を絞殺していった殺人鬼を抽象化したという可能性もある。
「いや、町の名前で調べても特にそういう事件はネットでは見つからなかった」
ネットでは情報なし。
首くくりのオバケというやたらと具体的な例えの割に起源が不明とはやはり違和感がある。
それに『ククリ様』。
〇〇様などの伝承でここまであからさまな名称を使うケースはあっただろうか。
あるいは『くくり』という言葉が先にあって、それが『首くくり』に変容したのか。
居住する外国人も多いということだから外来の言葉や伝承の可能性もあるか。

「以上、信仰の見本市についての情報でした」
Fさんが話を締める。
面白かったと伝えて俺は手元のメモ帳に「信仰の見本市→福岡 今村町」と記入してマルをつけた。

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投稿日:2024年4月18日 更新日:

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