EX
バス停で出会った不思議な二人組のことを思い返す。
最後にお寺で大迫住職に挨拶をして出たところで、寺の門のところで話こむ男女を見かけた。
「早く用事とやらを済ませて宿に行きましょうよ。運転しすぎてクタクタなんですから」
男の方が泣き言を言っているようだ。
「んー、そうねー。見たかぎりここには私の出番はなさそうだし、今日は温泉にでも入って明日篠宮さんに断り入れに行こうか」
篠宮という単語に反応しつつ彼らの横を通り過ぎる。
男性が「あ、すいません」と言って道を開けてくれる。
「なんの話をしてたんですか?」
興味本位で話を向けてみる。
どうせこのあとはバスに乗って帰るだけだ。
恥のかき捨てに躊躇いはない。
「いえ別に…」
女性が俺を見て目を細めた。
そのまま俺の周りに目を配る。
「あなた、なんてものを連れて歩いてんの?」
睨むような目つきでそう言われて少しビビる。
「すいませんすいません。伊賀野さん行きますよほら」
男性が女性の肘を掴んで引っ張るが女性は意に介さず俺の目の前に立つ。
「あなたこの町のアレを調べにきたわけ?こんな状態でよく無事で済んだわね。どこの宗派の人?」
返事を期待していないかのように捲し立てる。
「いやあの、ただの旅行者なんですが」
「本当に?じゃあそれ、その連れて歩いてるの、気づいてないの?逆に怖いんだけど本当に旅行に来ただけなの?」
そう言って俺の周りをジロジロ見ながら一周する。
「あなたねえ。なんの目的でこんなことやってるのか知らないけど一つだけ言っておくわ」
女性はそう言って俺の前で腕を組んだ。
「これまで関わってきたことは全てあなたの胸の内にしまっておくことをお勧めするわ。でもあなたはそれを一人では抱えておけない。後ろのソレが期待するのは今のこの穏やかな状態が続くこと。それを乱すならあなたもただでは済まない」
腕を組んだままずいっと近寄る。
「もしも何かするつもりなら全て『迷信』にしなさい。この類は『定義』されることで姿形を変えるの。この町のコレ、あなたが連れているソレはその辺にあるような噂話じゃダメ。日本中どこに行っても通じるような『こんな事が実際にあったら嫌だな』というものにしなさい。半端なことをして人を呼び込む羽目になったら、その人達もあなたも無事じゃ済まないからね」
わけもわからず面食らっていると、フンと鼻息をついて女性は振り返り商店街の方へ歩いて行った。