『信仰の見本市』と呼ばれる町に行ってみた

『信仰の見本市』という呼び名についてはネットで調べたところ、3年ほど前の全国放送ニュース番組のご当地紹介コーナーで特集されていた。
どんな内容の放送だったかまではわからないが、番組アーカイブに『多くの外国出身者が暮らし、信仰の見本市とも呼ばれる今村町』という文章が載っていた。
おそらくはこの番組を起点にオカルト界隈で話題に登ったのだろう。
また、半年ほど前の深夜ラジオ『怪談ナイト』にてアシスタントの小林明美アナが「放送業界で話題になった町がある」と発言している。
これはYoutubeにも音源が上がっており確認できた。
宗教絡みの怪談特集で、おそらくは3年前のニュース番組のスタッフか誰かが今村町の不思議さを話題にしたのだろうと思われる。
小林アナのコメントにMCの近藤ジローが乗っかって、どこぞの村の風習なんかを紹介し、番組リスナーから今村町についての投稿が寄せられていた。

番組放送時は「珍しい町がある」程度の扱いだったが、放送終了後にも匿名掲示板を中心に細々とした町の様子や体験談の報告が続いた。
掲示板やSNSをあらかた漁ったが、書き込みのほとんどが「特に変わった事はなかった」という意見と「おかしな集会が町中で行われていた」という意見で分かれていた。
極端に意見が分かれた格好だが、後者に関しては二次創作的な扱いを受ける事が多く、「現地の風習を面白おかしく馬鹿にしているだけ」との冷静なツッコミで大体が終わっている。
またそれらに関しても「おかしな集会を目撃・体験した」とは書き込むのに「何かあった・された」と続くことはない様子で、実際の町の名前を挙げてのネタ投稿は名誉毀損になる可能性があるためにネット民も躊躇したと思われる。
「書き込めている時点で無事に帰ってるんだからホラだよホラ」との書き込みを最後にスレは落ち、以降は今村町を直接話題にするというよりは、宗教や儀式系・風習系の怪談スレにたまに町名が出る程度のネタとして扱われている。

地域性については特別なことは何も無かった。
宗教施設の多さから旅行ブログなどで「珍しい観光地」的な扱いは受けるものの、それ以外はどこにでもあるようなご当地牛やご当地フルーツがある程度で目立った産業はなく、有名な戦国武将がいたわけでもなくスポーツなども特に目を引く成績はない。
町としては昭和の頃から一定の水準を保っていると県のホームページには記載があるが、観光客を呼び込むような大きな祭りがあるわけでもなく、完全に地域で完結しているタイプの町であることが読み取れる。
やはり異質なのは宗教関連の多様さで、そのまんま神仏習合を地で行っており、キリスト教まで含めた和洋混淆の宗教儀式が町の年中行事に組み込まれている。
年末年始のお寺神社の行事が書かれているページにキリスト受難節やイースターの案内が出ているのだから異様という他ない。
多様性にも程があるだろう。
これを行政のホームページに載せているわけだから地域の認識としてもこんなものだということが伺える。
見どころが無い割に外国人観光客も多く訪れているらしく、これは居住している外国出身者の関係者だと考えられる。

いくつかの旅ブログなどで今村町にリピーターとして訪れる人がいることを知る。
「町の空気感がとても良かった」「心が洗われる」といった町の雰囲気を気に入る旅レポの他に、「今年も篠宮神社の御守り買えたー!」という報告が上がっている。
画像を見ても特別感のない普通の御守りに見える。

「…………」
PCから目を離して一息つく。
どうにも最近の情報しか出てこない。
ネットが普及してからの記事ばかりで、観光誌のバックナンバーでも今村町どころかその地域の話題さえ載っていない。
今村町の地域振興課に電話してもホームページ以上の情報は出てこなかった。
「…………」
やはり行くしかない。
フィールドワークの欲求がムズムズと湧いてくる。
ネットで拾えた情報を整理してスマホに転送する。
頭の中ではすでに仕事のスケジュール調整は終わっている。
明日出社したら速攻でシフト担当を捕まえようと思う。
俺は自分の好奇心に従うことに決めた。

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投稿日:2024年4月18日 更新日:

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