それいけ怪談部 09 夜の学校といえば『渡る声・真相』

「喜べ。その後の顛末がわかったぞ」
「んー?」
「なんてー?」
部長の唐突な言葉に私と三ツ葉がそれぞれ返す。
部室に入ってくるなり告げられた内容に私も三ツ葉もピンとこない。
「いきなりなんですかねえこの人は」
「部長そういうところあるよね」
顔を見合わせてヤレヤレする私と三ツ葉に構わず部長は近くの椅子を引いて座った。
「この前の怪談の続きがわかった」
そう言ってから両膝に手をついて身を乗り出す。
「まどかさんと連絡がついたぞ」
なんだっけ。
まどかさんまどかさん。
尚もピンとこない私の傍で三ツ葉が立ち上がった。
「さすっちょ!」
部長を指差して叫ぶ。
さすっちょで思い出した。
例の消化不良の怪談のことか。
「マジっすか」
「マジだ。Tさんがダメ元でショートメッセージを送ったらまどかさん本人から返信が来たそうだ」
うおおーと三ツ葉が雄叫びを上げる。
「Tさん!いやT様!ありがとー!!」
窓の外に向かって手を合わせて、そのまま入り口の方へ走って電気のスイッチを押す。
文化祭の作業中だったわけで机の上は発表用の画用紙やペンなどが散乱している。
椅子を持って部長のそばに行き、三ツ葉と部長の対面に座る。
電気を消した放課後の部室はいい感じに薄暗く、いつも絶妙な位置に座る部長の顔はまたしても影で半分が暗くなっている。
「Tさんから聞いた内容を俺的に噛み砕いて話すぞ。いいか?」
その言葉に私も三ツ葉も黙って大きく頷く。
そして部長が怪談を語り始めた。

「Tさんは取り合えずショートメッセージを送ることにしたそうだ」
そう言って部長は自分のスマホを取り出してポチポチするジェスチャーをして見せる。

『大変ご無沙汰しております。○○年ほど昔に○○のキャンプ場でご一緒させていただいたTと申します。○○まどか様の携帯電話でよろしかったでしょうか』

私たちを見ながらTさんが送ったであろう文面を再現する。
「Tさんの送ったショートメッセージに数時間後、まどかさん本人から返信が届いた」

『ご無沙汰しております。旧姓となりますが○○まどかでございます。その節は大変お世話になりました。ご用件をお伺いさせていただいてもよろしいでしょうか』

左手に持っていたスマホを右手に持ち替えてまどかさん側のメッセージであることを強調して再現する。
非常に芸が細かい。
「Tさんはあらかじめ考えていた文面を送信した。あの時に自分が不可思議な体験をしたこと。まどかさんの様子が気がかりだったものの、恐怖心と気まずさから連絡をしなかったこと。最近になって怪談を集める高校生に自分の体験を聞かせたこと。可能ならばまどかさんがあの時どうだったのかを聞きたいこと。それらを一気に何件ものメッセージで送ったそうだ。ダメならダメで返信は来ないだろうと」
そう言ってスマホを机に置いて、身を乗り出した。
「まどかさんが送ってきたのは『あの時は私も不思議で怖い体験をしていました』というものだった」
隣で三ツ葉が息を呑んだのがわかった。
部長の様子からわかっていた内容だが、私も三ツ葉もいきなり引き込まれている。
「まどかさんの提案でLINEに切り替えて改めてやり取りを始める。Tさんからの質問も多少はあったそうだが、ほとんどがまどかさんから送られてくる長く奇妙な人生の話だったそうだ」
日が落ちていく部室に闇島ドクロの声が染み渡っていく。

「まどかさんは幼い頃からラジオが好きだったという」
部長はTさんというフィルターを外して語り始めた。
そのほうが怪談として語りやすいのだろう。
「共働きで不在がちな両親。小学生のまどかさんは1人で家にいる時はテレビよりもラジオを聴いていたそうだ」
まどかさんがTさんに語った内容だが、それは怪談として整理され部長の口から紡ぎ出される。
「まどかさんは何となくテレビよりもラジオが好きだったそうだ。俺が思うに、テレビは家族向けでラジオは個人向けのコンテンツという部分があるように思う」
「なるほど」
部長の語りを遮らないように小さく相槌を打つ。
三ツ葉も隣で頷いているのが見える。
「いつの頃からか、1人で宿題をしながら『面白い』とか『今のは面白くない』とかラジオにツッコミを入れるようになっていたという」
それはわかる、というかTiktokやYoutubeにツッコミを入れるのは私もたまにする。

「何年もかけてそれはラジオとの会話に発展していった。MCの喋る言葉が自分に向かって語られる言葉のように感じられ、小学生のまどかさんは無意識のうちにラジオに相槌を打ち、互いに一方通行ながら会話を楽しんでいた」
家で1人、留守番をする小学生の寂しさが伝わり少しだけ心が痛む。
「中学生になる頃には両親も離婚して母親と二人暮らしになった。もはやデフォルト状態となった1人のアパートでもまどかさんはテレビよりもラジオ派だった」
「おっと飛んだね」
「まどかさん可哀想っす」
「高校生になってもその生活は変わらなかった。国立大学へ進学するために1人の部屋ではもっぱら勉強をしていた。ながら聞きで勉強できるラジオが好きだった。ラジオからの一方通行なトークに対して『そうだねー』『いやいやそれはおかしいでしょ笑』『私だったらこうしてるのに』と返す日々。やがてその中にMCやタレントの声とは違う何かが混じるようになる」
「まあそうなるよね」
「怖いっす」
これは展開的に予想していたが、本当だとしたらかなり怖い。
部長は淡々と続ける。
「おそらくどこかの誰かが、自分と同じようにラジオに喋っているのだと思った。その声が何らかの間違いで混線しているのだと。あるいは誰かがラジオ発信をしているのかもしれなかった」
どんな声が聞こえるというのか。
「違法かどうかは自分には関係ない。混線やバグだとしても気にしない。その声とのやり取りが楽しくてまどかさんはラジオよりも混線して自分に話しかけてくる『その声』との対話に夢中になっていった」

『さびしい。さびしい。だれか。いないか』

ふいに部長が声を落としてそう言った。
途端に背筋がゾッと粟立つ。
それが聞こえてきた声か。
「MCが調子よく喋っている中で、明らかにテンションの違う声がラジオから聞こえている。はじめは何と言っているのかわからなかったが、だんだんとその声に耳が合うようになってきたという」
「やばい」
三ツ葉が呻いて身じろぎをする。

『さびしい。さびしい。だれか。いないか』

再び部長が声を落として不可解な声を再現する。
先ほどよりも不気味な印象が強くなる。
「不思議と恐ろしいという感覚はしなかったそうだ。それでまどかさんはその声に『いるよー』と応えた」
「応えちゃったかー」
「やばば」
「本当になんとなく、いつもの相槌のノリでその声に応えた。するとその声は『いるか』と言った。嬉しそうな口調にまどかさんも嫌な気はしなかったそうだ」
「気づかれた」
「ロックオンされちゃったね」
「それからラジオを聴いている時にはたまにその声が聞こえるようになった。毎回ではなかったそうだ。月に一度か二度の不定期、まどかさんも予想するのは諦めていたようで、どこかの誰かがラジオ発信するかして混線するのを楽しみにしていた」
「そうか。この時のまどかさんは相手が人間だと思っていたんだ」
霊だと思い込んでいたから改めて理解して少し驚いた。
「でもおかしいんだよ。向こうの声はともかく、まどかさんの声が聞こえるわけないもん」
三ツ葉が反応したので部長が一息ついている。
私と三ツ葉は顔を見合わせてお互いの疑問を確認しあってから部長に向き直る。
ちゃんと待っていてくれた部長は何事もなかったように続ける。
こういう臨機応変なのも研究会ならではで楽しい。

「その通り。今にして思うとまどかさんもかなりおかしいんだが、その時は疑問に思うことはなかったそうだ。それに気づくのはしばらく経ってからのことだった」
部長が私と三ツ葉の疑問を汲み取る形で再開する。
「まどかさんが所属していた部活に新たに加入した下級生のアツシ君が自分と同じラジオリスナーということで仲良くなった。まあ要するにラジオきっかけで付き合い始めたそうだ」
「おっと年下」
「やりおる」
「夜なんかラジオを流しながら年下の彼氏と電話したりするわけだ。当然のことだが、まどかさんが恋人と親しく話す会話をラジオの向こうの相手は聴いていた」
「やべー」
「修羅場っすな」

『まどか』

またふいに部長が声を落として無機質な声を再現した。
その声で発されたのがまどかさんの名前だったことにゾッとする。
隣の三ツ葉も「うう」と呻いて体を揺すっている。

『まどか』、『まどか』、『まどか』、『まどか』、『まどか』

「まどかさんが彼氏との会話に夢中になっている側で、ラジオから聞こえる声はまどかさんの名前を呼んでいたそうだ。それに気づいたまどかさんはギョッとしてラジオを見た。今まで自分は相手に名前を明かしたことなどない。なぜこの相手は自分の名前を知っているのか」
にわかに部長の口調が早くなる。
「彼氏と話しながらもまどかさんの頭は疑問符だらけだった。なぜ?なんで名前を知っている?彼氏との会話を盗聴されている?どうして?答えなんか出るわけない。電話機の向こうでは彼氏が能天気に話している。ラジオからは平坦だけど微かに苛立ったような声が続いている。どうしようどうしようどうしようどうしよう」
早く、早く、まどかさんの内心を表す部長の語りはどんどん早くなっていく。

『あつし』

「今度はラジオの声が彼氏の名前をつぶやいた。その瞬間にまどかさんは反射的にラジオの電源を落とした」
そう言って部長はサッと手を振ってラジオらしいものの電源を落とすジェスチャーをした。
そしてハア、ハア、と肩で息をするフリをする。
まどかさんの演技をしているのか、早口のセリフを一息に言い切ったからなのか、その緊迫した様子にこちらの緊張感は否応なく高まる。
私も三ツ葉も部長の語りに呑まれて固まってそれを見ている。
『どうしたの?』
「電話機の向こうから彼氏の声が聞こえる。どうにかその場は取り繕って電話を続け、その日は何事もなく終わった。それからしばらくはラジオの電源を入れることはなかったそうだ」
ふいーと三ツ葉がため息をついた。
「ところがまどかさんにはどうしても聞きたい番組が控えていた。毎週聞いている深夜の番組で何週間か連続した企画の真っ最中だったから絶対に聞き逃したくなかった」
まだ続くのかと三ツ葉が姿勢を正す。
「聞かないという選択肢はなかったそうだ。怖いのは怖いが番組を聞き逃すほどのことでもないと、まどかさんは深夜のラジオ番組を聴くために久しぶりにラジオの電源を入れた」
「これは何か起きますね」
「私もそう思いますね」
いよいよ何かが起きる予感に私も三ツ葉も軽口を叩きつつ部長に集中する。

「ラジオが始まってしばらくは何も聞こえなかった。まどかさんもだんだんと緊張感が薄れて番組に集中していった。無事に番組を聴き終えて安心したまどかさんはラジオを消そうとして、ふとノイズのような小さな異音に気がついたそうだ」
来る来る来る来る来る。

『まどか』、『まどか』、『まどか』、『まどか』、『あつし』、『まどか』、『あつし』、『あつし』、『まどか』、『まどか』

声を落とした平坦な口調でまどかさんと彼氏さんの名前を連呼する様子にまたゾワっと鳥肌が立つ。
「小さい声でずーっとまどかさんと彼氏の名前を呼ぶ声が聞こえていたのにその時初めて気がついたそうだ」
ブルっと体が震えた。
三ツ葉も同じように体を震わせている。
「番組を聞いている間ずーっとその小さな声はまどかさんと彼氏の名前を呼び続けていた。そのことに気がついてまどかさんは叫び声をあげてラジオの電源を消した。それっきりラジオは捨ててしまったそうだ。楽しみにしていた企画のことは惜しかったがとてもじゃないがまた聴く気にはなれなかった」
「そりゃそうでしょ」
「ていうかまどかさん大丈夫なん?」
「結局それきりその怪異が起きることはなかったそうだ。とある避暑地でTさんと出会うまでは」
「あーそういう」
「そこに繋がっちゃうのか」

「旅行最終日のまどかさんはキャンプファイヤーの買い出しをするために車で買い出しに行っていた。現地で知り合った男女混合で2台の車に分乗していたそうだ」
「パリピうぜえ」
「キョウちゃん落ち着いて」
「ワイワイと楽しくドライブして、買い出しも済ませて宿泊施設に戻る道すがら、まどかさんは違和感を感じていた。それはBGM代わりに垂れ流していたカーラジオから聞こえるノイズだったそうだ」
「あー」
「うわー」
この後の展開が読めて私も三ツ葉も声をあげる。
「それは高校生の頃に聞いたのと同じ声だった。『まどか』、『まどか』、『みちやす』、『まどか』。小さな音だったが確実にまどかさんとTさんの名前を呼ぶあの声が続いていた。周りの仲間達に聞こえるそぶりはない。まどかさんは冷や汗をかきつつその声を聞こえないフリしてなんとかやり過ごした」
「そうするしかないよね」
「自分だけって嫌だね」
「そうしてその声がTさんの名前も連呼していることから、Tさんと良い雰囲気になっていることを察知されているのだと思って、宿泊施設に戻ってからもTさんにはよそよそしくしてしまったということだった」
そこまで言って部長は話を止めた。
「え?」
「終わり?」
「この話はここで終わりだ。それきりまどかさんもTさんもラジオの音から逃げるようにして現在に至っている。以上だ」
「終わりかー」
「面白かったー」
パチパチパチと拍手をすると部長はゆっくりと大仰にお辞儀をして見せた。
もう少し聞きたかったが、まあオチなし怪談としてはこんなものだろう。

「もうちょっと何かあって欲しかったけど仕方ないかー」
「こればかりはな。この後の展開を捏造しても意味がない」
「じゃあさ、恋愛の方の続きを知りたい。TさんはまどかさんがTさんのことをどう思ってたのかは聞いたのかな?」
怪談の余韻を楽しむ私と部長、三ツ葉は早くも追加情報を求めている。
「もちろん聞いたそうだ。俺からのリクエストでもあるしな」
そう言って部長はニヤリと笑った。
「まどかさん曰く、あのまま何事もなければ告白をOKして付き合おうと思っていたそうだ」
「くわー!ラジオー!」
二人の恋愛の邪魔をした怪異に三ツ葉が文句を言う。
「まあ今はまどかさんもTさんも結婚して子供もいるしな。付き合っていたらどうだというのはそれこそファンタジーだ」
「そうだけどさー」

「でもさ、まどかさんの怪奇現象と、Tさんの怪奇現象のパターンが違うのはなんでなんだろ」
ふと疑問に思ったことを聞いてみる。
「それなんだがな、Tさんもまどかさんもそこは不思議だったようで話し合ったそうだ。結局のところ何もわからないんだが、おそらくだがTさん側でラジオから例の声が聞こえ始めた時が、ちょうどまどかさんが乗る車がラジオをつけた時だったんだろうという推測しか立たなかったそうだ」
「なるほど」
「何でそーなるん?」
ここからは考察タイムだ。
怪談の醍醐味である。
「わからん」
語り終えて満足したのだろう、部長はにべもなく考察をぶん投げる。
私達で考察を進めろということらしい。
「Tさんの方はラジオだけじゃなくてコンビニとか、町内放送のスピーカーからも声が聞こえてきたわけじゃん」
誰にともなく言ってみる。
「確かにな。ラジオだけで声を聞いていたまどかさんとは違ってTさん側の声はやばいほどアグレッシブだ」
考察には乗ってくれるようだ。
「霊感の差?」
三ツ葉も誰にともなく意見を出す。
「そうとしか考えられん。Tさんにも聞いてみたが霊感もないし心当たりは全くないそうだ」
また部長が律儀に答える。
「なるほど」
そうなるとお手上げだ。
「まあそういうこともあるんだなとしかねー」
「そだねー」
「ちなみにその後はTさんもまどかさんもおかしな声は聞いていないそうだ。まあまどかさんはラジオを聞かないように生活してきたわけだし、まどかさんと絡みさえしなければTさんはそもそも無関係だしな」
「どう考えても取り憑かれてるのはまどかさんだもんね」
「そういうことだな」
その後も色々と意見を言い合って、そろそろ切り上げるかという頃に部長が身を乗り出した。

「というわけで今度の週末は合宿を行う」
「は?なんで?」
「嫌なんすけど」
私も三ツ葉も即答する。
ぐぬぬと悔しそうな顔をする部長を見て満足したので続きを促す。
「一応なんで合宿したいのかだけ聞いておきます」
「そだねー」
その言葉に部長が気を取り直して姿勢を正す。
「部室に泊まり込んで一晩中ラジオの声に返事を返すぞ」
そう言ってニヤリと笑う。
「おっとそれは…」
面白いかも。
「学校って泊まっても大丈夫なん?」
三ツ葉がツッコミを入れる。
確かに。
「わからんがイマセンに聞いてみる価値はある」
大丈夫だろうか。
でもそれはちょっとやってみたい。
「んんー…まあイマセンがOK出してくれたら」
「おっとキョウちゃん乗り気だね」
ニシシと三ツ葉が笑う。
「私とお泊まりしちゃう?」
そこは部長じゃないのかとちょっと和むが、言って微妙な空気になっても嫌なので黙って三ツ葉の鼻をつまむ。
「バカなこと言うのはこの口か」
「痛い痛い。キョウちゃん最近それ好きだね」
痛がりつつも二ヘラと笑う三ツ葉。
「寝る暇なんかあるわけないだろ。カメラの番もしなきゃならんのに」
「え?撮るの?」
部長の言葉に三ツ葉の鼻をつまんだまま顔を向ける。
撮影ときたか。
「当たり前だろうが」
そう言って腕を組む部長。
「それこそ文化祭の目玉になりそうなコンテンツだと思わないか?」
「んんーまあ確かに」
何かあろうとなかろうとそれは面白い実験映像になるだろう。
「痛い痛い。あんまり痛くないけど痛い。キョウちゃん、鼻取れちゃう」
手を離すと三ツ葉は両手で鼻を覆って涙目になる。
「ううー…鼻取れちゃった」
「今の場合は鼻が高くなるんじゃないか?」
部長が半笑いで三ツ葉を茶化す。
「部長も見てないで助けろよー」
「自業自得だろうが。俺にそんなの期待するな」
そのまま漫才に突入する二人を眺めつつ深夜の部室を想像して少し興奮する。
まどかさんの体験をなぞるように深夜のラジオに話しかける。
それはつまり降霊実験ではないだろうか。
もしも実際にラジオからM Cじゃないナニかの声が聞こえたなら。
軽く鳥肌が立つ感覚と共に気分が高揚してくる。
「いいね。撮ろうよ」
その言葉に二人が私に顔を向ける。
「では決まりだな」
部長がニヤリと笑う。
「ダメならウチでやればいいんだよ!」
三ツ葉もやる気になっている。
「いやそれは流石にご迷惑だし、学校でやることにこそ意義がある感じもする」
「ま、まあ流石にご家族が寝ている家でだな、ラジオに喋りかけるのは気が引けるな」
三ツ葉の部屋を想像したのだろう部長がキョドっている。
言葉とは裏腹に三ツ葉をチラチラ見ているのがキモ可愛いじゃないか。
「なんでー?楽しいと思うけどなー」
不満そうな三ツ葉の頭を撫でてやりつつ、明日イマセンに聞いてみるという部長と内容を打ち合わせて、その日は解散となった。

翌日、イマセンに宿泊の許可を取りに行った部長はあっけなく却下されて部室に帰ってきた。
「学校に泊まるのは無理そうだ。こうなったら」
チラと三ツ葉を盗み見る部長。
お前もしかして。
「部長、ちゃんとイマセンに確認した?」
なし崩し的に三ツ葉の家に行くを期待してたり?
「もちろんだ。そういうのは大学生になってからにしろと一蹴された。悔しいが法律には勝てん」
心外だったのか少しムッとする部長。
「なるほど」
「ウチ?いいよー」
三ツ葉が私達の会話に入ってくる。
部長の目が一瞬きらめいたように見えた。
「そうなんだが、部活とはいえ流石に女子の家に伺うのは俺も気まずい。なので俺の家でやるというのは」
「却下」
「ウチでいいじゃん」
部長の家なんて興味しかないが、実は昨日の夜に三ツ葉からLINEが来て、お姉ちゃんが乗り気になっていると伝えられていた。
「お姉ちゃんも参加したいって言ってたよ。お姉ちゃんの彼氏警察官だから変な気起こさないでね」
「バカなこと言うな。俺がそんなことするか」
そうして三ツ葉の家にお邪魔して合宿という名の降霊実験をすることが決まった。

第09話 完

この話は実在の怪談作家が取材した内容に基づいてストーリーを付加したものです。
地名・年代等に関してはフィクションですが、実際に体験した人がいる怪異体験であることを明記しておきます。

実話怪談提供 夜行列車『渡る声・真相』より

投稿日:2024年9月5日 更新日:

Translate »

Copyright© 怪談夜行列車 , 2024 All Rights Reserved.