それいけ怪談部 15 2階の窓から見えた女の子

「新入部員を歓迎して、今日は我が部のメイン活動の紹介を行う」
文化祭から土日を挟んで月曜日。
いつものように部長が仰々しく喋りはじめた。
「メイン活動?」
三ツ葉が首を傾げる。
クククと謎の間をおいて部長が私達を睥睨する。
「怪談だ」
「おおー」
やたらと仰々しいのは部長なりに新入部員を前に緊張しているのだろう。
拍手する三ツ葉のノリが良いのはいつものことなので放置するが、三ツ葉に合わせてつっきーとオニちゃんも拍手しているのが少し申し訳ない。
「新生怪談部として初の怪談に用意してきた話がある。さっそくだが聞いてくれ」
あらかじめ車座になって座っていたのでウンウンと頷いて傾聴の姿勢を示す。
「では始めるぞ。これは俺が中学生の時、当時の同級生から聞いた話だ」
闇島ドクロが怪談を語り始めた。

「話してくれた彼のことを仮にK君としようか。彼は小学6年生の頃、通学途中にあった中学校の体育館の前を通るのが好きだった。ちなみにこの中学校が後々Kが通うことになる地元の中学校だ」
「近いね中学校」
三ツ葉が合いの手を入れるのをスルーして部長は怪談を続ける。
こういう我が部ならではのスタイルに新入部員の二人は慣れてくれるだろうか。
「Kが中学校の前を通る時、必ず体育館を見るようにしていた。たまに2階の窓から外を眺める女子生徒がいて、Kにはその女子生徒がとても大人びて見えてドキドキしていたそうだ」
「おっとおませさん」
「初恋だな」
三ツ葉の合いの手につっきーも乗っかる。
順応早くて助かる。
「ほとんど毎日Kはその体育館の前を通るわけだ。その女子生徒がいる時は定位置があるらしく、2階部分の窓に頬杖をつくようにして遠くを見ていたそうだ。そうしてKが通ううちに女子生徒は自分のことを見ている小学生がいるのに気がついて手を振ってくれるようになった」
合いの手が必須だとオニちゃんに思わせないように私はあえて黙って聞く。
つっきーはもう馴染んでいるから大丈夫だろう。

「早くその中学に通いたい。Kは卒業までジリジリしながら恋心を育てていった。そしていよいよ小学校を卒業して中学生になった」
「おおー入学まで飛んだね」
「入学式は当然その体育館で行われるわけだ。ドキドキしながら入場したKだが彼は自分の目を疑うことになる」
誰も合いの手を入れない。
黙るときには黙るのも大事だが、つっきーがそれを自然にわかってくれて嬉しい。
「体育館には2階部分などなかった。高い位置に窓はあるがそれは明り取りのための窓であって人間が登れるような場所ではなかった」
「おおー」
「あの子はどうやってあの窓から外を見ていたのか?Kは気になって翌日から体育館に行くたびに窓を見上げたがその答えが見つかるはずもなかった」
その女の子が人間ではなかった、ということなのだろう。
オーソドックスな怪談で新入部員の二人にはとてもわかりやすい。
「学校の中でもその女子生徒を探したが見つからなかった。だがKが体育館の前の道を通るとその女子生徒は時おり窓に頬杖をついて遠くを眺めている。そしてKに気がつくと手を振ってくれたそうだ」
「気づかれてるのがねー」
「取り憑かれたってことか?」
この話は部長がKさんから聞いた話なわけで、Kさんが今も無事なのだとしたら。
「残念ながらこの話はここで終わりだ。Kはそれ以来その道をなるべく通らず、どうしても通らないといけない時は体育館を見ないようにして走り抜けたそうだ」
「終わりかー」
「まあそうなるよな」
三ツ葉とつっきーの感想に私も乗っかる。
「うん。面白かった。その女子生徒が幽霊だとして、Kさんは気に入られてたのかな」
「まあそういうことだろうな。入学前から自分に好意を持ってくれてるKのことを可愛いと思ったのかもしれん」
オニちゃんに目を向けてみる。
私の視線に気づいたオニちゃんがハッとして少し慌てる。
「わ、私は今の話好きです。その中学で三年間過ごさないといけなかったKさんは可哀想ですけど」
たしかに。
「Kさんは学校ではその幽霊には会えなかったの?」
部長に聞いてみる。
「ああ。俺は彼から中3の時にこの話を聞いたんだが、学校の中では一度もその女子生徒のことは見かけたことはないそうだ」
「部長は見えた?」
三ツ葉が質問を続ける。
「いや見えなかった。何度か体育館前の道から窓を確認したんだが、それっぽい影も勘違いしそうなカーテンなども見つからなかった」
「なるほどーダメかー」
「いやでも面白い話だったな。初恋の相手が幽霊だったと」
「ちょっとその幽霊が可哀想かも。手を振っても無視されるようになっちゃったわけだし」
「たしかにそうですね。幽霊さん側の切ないエピソードでもあるかもしれません」
部員が増えたことで感想も考察も賑やかになって楽しい。
聞いている部長も満足そうだ。

「とまあ、こんな感じで怪談を語って考察してレポートにするのが俺達の部活のメインの活動になる。どうだ?」
部長がつっきーとオニちゃんを交互に見ながら反応を確かめる。
「いいと思うよ。むしろ楽しませてもらってありがとうって感じなんだが」
「そうですね。私も楽しいです。レポートの作成なら私もお手伝いできると思います」
ふたりとも問題ないようだ。
「うむ。じゃあ明日の怪談は暗井。やってくれるか」
「おけ」
いきなり振られて少し面食らったが、私も聞くだけじゃなくて語れるようにはなりたいので問題ない。
今夜にでも準備して少し練習することにしよう。
こうして新生怪談部の活動は始まるのだった。

第一部 完

この話は実在の怪談作家が取材した内容に基づいてストーリーを付加したものです。
地名・年代等に関してはフィクションですが、実際に体験した人がいる怪異体験であることを明記しておきます。

実話怪談提供 営業のK『2階の窓から見えた女の子』より

後書き

ここまでで第一部完となります。
この調子で怪談を楽しみながら怪談部のメンバーも怪異に巻き込まれていくドタバタが続けられたらと思います。
新キャラを増やしたことでとっ散らかる可能性もありますが、キョウカ・三ツ葉・ドクロの三人を軸に進めていけたらと考えています。

投稿日:2024年9月5日 更新日:

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