怪談・洒落怖

【新作洒落怖】登山での挨拶

投稿日:2024年3月11日 更新日:

本文

0482本当にあった怖い名無し2018/01/01(月) 23:34:43.69ID:tIFv/ycM0

俺は趣味らしい趣味は無く、強いて言うなら色んな趣味を薄くかじっては半端で投げ出すまでが趣味だった。

その頃は登山っぽいものに手を出したい気分で、関東の某山に何回か登っていた。

その山は1時間程度で頂上まで登れる山だけど、バラエティーに富んだコースがいくつかあって、手軽にそこそこ楽しめる。
(登山というより散歩にうぶ毛が生えたレベルだが)

俺はその山のコースは一通り制覇して、山をちょっぴり知った感に満足していた。

そんな時、登山に興味があるという職場の先輩がいたので、「あの山いいっすよ!」と誘って、週末2人で繰り出した。

0483本当にあった怖い名無し2018/01/01(月) 23:36:49.46ID:tIFv/ycM0

山の麓に着くと、先輩の希望で一番登山らしいコースを選んで登り始めた。

「登山の時はすれ違う人と挨拶するもんですよ!」という俺のにわか知識に従って、俺たち2人は下山者と挨拶を交わしながら登っていった。
集団には気を使って声をかけなかったが、個人には挨拶すればだいたい9割ぐらい挨拶を返してくれたと思う。

季節は冬。
登り始めたのが14時を過ぎていたので、辺りはもう夕方かのような雰囲気が立ち込めていた。

「昼過ぎると日陰はもう寒いですね」と、後ろを歩く先輩に声をかけたタイミングで、ちょうど下ってきた一団があった。

0484本当にあった怖い名無し2018/01/01(月) 23:38:47.74ID:tIFv/ycM0

背格好でいうと中年の男女5~6人ぐらいだったか。きちんと数えていないので分からない。地味なつば付きの帽子にチェックシャツやチノパンといった、よくある軽装の一団だった。

挨拶のタイミングを逸してしまったので、黙ってやり過ごそうとした時、違和感に気付いた。

どの人も顔が見えない。

顔が暗いとかのっぺらぼうとかではない。
視界の中心に顔を捉えても分からなかった。
まるで太陽を直視した後のような、光っているとも白いとも虹色とも言えない感じが、その一団の全ての人の顔の位置にあった。

0485本当にあった怖い名無し2018/01/01(月) 23:39:53.38ID:tIFv/ycM0

『太陽でも見たっけな?』といぶかしみながら一団をやりすごしたが、その直後に会う下山者たちの顔はごく普通だった。

気にはなったが、山の中腹にあるベンチスペースにたどり着いたころにはその事もほとんど忘れていて、おやつのガルボを取りだそうとしている時に先輩が言った。

「お前さ、目おかしくなったりしてない?」

「目ですか?俺は特に何もないですけど。」
「俺がおかしいのかなぁ。もしかして脳梗塞の前兆とかかなぁ。」

太陽でも見たっけなぁ、と先輩が言った時に、顔が見えない一団の事を俺も思い出した。

「俺もです!あの時顔見えなかったっすよね!何なんすかね!見てんのに見えない?みたいな!」
「何なんだろな!怖えーな!わかんねーわ!」
とひとしきり騒いだあと、気を取り直して一気に山頂まで登りきった。

0486本当にあった怖い名無し2018/01/01(月) 23:41:06.34ID:tIFv/ycM0

山頂でしばらく過ごした後、下山を開始したのは15時半ごろだった。
登りと同じコースを下るのも芸がないということで、別のルートを下ることにした。

夕方に差し掛かり、日も傾いて気温が下がってきている。
歩き慣れていない先輩を気遣いながらも、早め早めを心がけながら山道を下っていった。

薄暗く湿った川沿いの岩場を折れたところで「うっ」と変な声が出た。
10m程先に、見覚えのあるチェックシャツの一団が目に入ったからだ。
山を登って来ている。
あの時の集団だ、と直感的に感じた。
後ろで先輩がうろたえた気配がした。

0487本当にあった怖い名無し2018/01/01(月) 23:42:15.20ID:tIFv/ycM0

『なんか気味悪いっすねこのままスルーします』という無言のメッセージを、背中から先輩に向けて発しながら、振り向かずに一団に近づいていく。

足元の左下に見える川に視線を集中しながら一団とすれ違った。

最後の1人を俺がやりすごした後、
後ろから「こんにちはぁ」と間の抜けた挨拶が聞こえた。おばさんの声だった。
位置関係的に、先輩が最後の1人に挨拶をされたようだった。

先輩は黙ったままバタバタと焦るように俺を追い越して歩いていった。
「こんにちはぁ」と、再び後ろからおばさんの声が聞こえた。

俺は
『挨拶されたのに失礼ですよね。僕ら失礼ですよね。だけどお宅ら気味悪いんですんません!すんません!』
と思いながら、一団の方は振り返らずに無言で先輩を追いかけてしまった。

0488本当にあった怖い名無し2018/01/01(月) 23:43:22.55ID:tIFv/ycM0

先輩に追い付いた時、
「さっきの集団気味悪かったですね。つい挨拶スルーしちゃいましたよ。ねえ」
と声をかけると、いきなり先輩に胸ぐらを捕まれ、鼻がくっつくかと思うぐらい顔を寄せられて睨まれた。

動揺する俺に、
「だめだ。何だよあれ。こんな目の前で。こんな、こんな目の前でもさぁ~」

顔が見えなかったよ、おかしいだろ。
と涙目で先輩が言った。

出典http://mao.5ch.net/test/read.cgi/occult/1508062904/

  • この記事を書いた人

yoshida3

RECOMMEND

1

概要 2ちゃんねる・5ちゃんねる発祥の名作怪談「リョウメンスクナ」をアーカイブ&考察。 くねくね・八尺様・コトリバコなどと並んで洒落怖をジャンルとして確立した名作だと思います。 両面宿儺(りょうめんす ...

2

カルト 先日の【映画評】来る ※気持ち悪い人間関係+超絶エンタメに続き日本の除霊エンターテイメント作品をレビュー。低予算ながらしっかり除霊エンタメしてるので、オカルト好きなら必見の作品ですぞ。※知らな ...

3

オー・マイ・ゼット! 2016年制作。 東京03の角田晃広さん主演。 なんだかなあという序盤。 登場人物達の人となりや背景が描写されるも全員うさんくさいしどうでもいい感じで進行します。 後半15分ぐら ...

4

私とあの人は、世に言うところの幼馴染ってやつでした。 とは言っても、幼稚園から一緒で小学校中学校と同じクラスで……なんていう甘酸っぱいもんじゃなくて、病院でね。 私もあの人も、生まれた時から体が弱くて ...

-怪談・洒落怖

Translate »

Copyright© 怪談夜行列車 , 2024 All Rights Reserved.