本文
0295 本当にあった怖い名無し 2024/01/15(月) 14:18:15.87ID:cTI1MuTE0
父親は定年になるまで、小さな工場の副主任をやっていた。
豆腐工場なので出勤するのは夜中9時ごろ、帰ってくるのは午前中だった。
さも当たり前のように"豆腐工場なので"と書いたが、たぶん朝にスーパーに並ぶ豆腐のために夜中働く必要があったのではないかと推測している。
夜勤生活なので平日の昼間は寝ているが、土日は日中でも俺を含めた3人の子供を遊びに連れていってくれたりして
しんどかっただろうに無理してくれてたんだなと今になって思う。
だが当時の父親は文字通りの亭主関白、何かあればげんこつが飛んでくるし、短気でガノンドロフみたいな見た目なので子供の俺には怖かった。
0296 本当にあった怖い名無し 2024/01/15(月) 14:18:38.68ID:cTI1MuTE0
俺の実家は離島の小さい町。住所とかに「大字」がつくようなところだった。
そういう小さい町だから当時は近所の結びつきとかが強くて(今は知らん)、新聞の集金のおばちゃんだったり
薬箱の中身を補充しに来るおじさんだったり、家にやってくる人がだいたい顔見知りだった。
現に新聞集金のおばちゃんは近所に住んでいて、おばちゃんの旦那さんは子供たちに公民館で相撲を教えてたりしてた。
父親も町の祭りや行事にはほどほどに参加していて、町のおっさんたちにも認知されてたから、俺も○○さんの息子って感じで
認知されてたと思う。今はアウトだろうが、夏休みには町に1か所しかない個人商店でビールのお使いをよく頼まれて、実際買えた。
レジのおばちゃんも特段気にせず6缶パックを小学生の俺に渡していた。
0297 本当にあった怖い名無し 2024/01/15(月) 14:18:57.64ID:cTI1MuTE0
小学5年の夏休み、部活を終えて帰宅すると、父親にビールのお使いを頼まれたので
千円札を握りしめて個人商店へと向かい
6缶パックと500ml2本を買ったあと、チョコバットも買った。
おこづかい制ではなかったのでお釣りは貴重な収入源だった。
頼み方が横柄だったので、500mlはシェイクして、開けたときにあふれるようにせめてもの復讐をした。
家に帰ると父親が電話で誰かと話をしていた。
6缶パックを冷蔵庫に入れて、チョコバットを食べてたら電話を終えた父親が
「新聞集金のおばちゃんが行方不明になったらしい」と言ってきた。
聞くと電話の相手は町内会のおっさんで、おばちゃんは昨日から帰っていないらしく
捜索願を出したけど町内会でも捜索をすることになったから
参加してくれないかという内容だった。
父親は明日も仕事があるからと断ったそうで
おもむろに500mlを開けようとしたので、怒られないように2階へ避難した。
0298 本当にあった怖い名無し 2024/01/15(月) 14:19:42.28ID:cTI1MuTE0
夜中にリビングでテレビを見てたら、階段を降りる音が聞こえた。
父親が出勤する時間だった。10時以降にテレビを見ていると怒られるので、俺は急いで消して、ポケモンの攻略本を読んでるフリをした。
出勤前はピリピリしているので、家族全員が気を遣っているような感じがほとんどだったが、この日は違った。
「さっき夢でおばちゃんに会った」父親が母親にそう告げた。
聞けば夢の中で父親はリビングにいて、玄関のチャイムが鳴るので玄関へ向かうと
玄関の擦りガラスに赤いジャンパーが見えたらしい。そのジャンパーはいつも新聞の集金のおばちゃんが着ていたものだ。
玄関を開けるとおばちゃんが立っていて、いつもなら気さくに挨拶をしてくれるのだが、夢の中では
「○○さん」と父親を呼ぶだけで、いつもと雰囲気が違ったようだ。
夢の中なので、父親は現実でおばちゃんが行方不明になっていることは思い出しもしなかったため
どうも〜と挨拶をして、集金分を支払おうと財布を取り出したところ
おばちゃんが突然「私、今□□トンネルの横にいるのよ」と言ってきたそうだ。
泣きそうな顔で。父親はぎょっとしてそのまま夢から覚めた。
□□トンネルは島内の山の中にあるトンネルで、車で30分程度の場所にある。
父親はそのまま出勤した。テレビをまた見ようかと思ったが、そのまま寝てしまった。
0299 本当にあった怖い名無し 2024/01/15(月) 14:20:03.86ID:cTI1MuTE0
次の日、部活から帰ってくると父親はすでに帰宅していて、電話でなにやら話し込んでいた。
電話を終えると制服に着替えなさいと言われ、2階の部屋で制服に着替えると父親が黒いスーツ姿で待っていた。
おばちゃんが見つかったらしい。亡くなっていたそうだ。
車でおばちゃんの家に向かうと、すでに町内の人たちが喪服姿で集まっていた。
父親の後ろをついていくと、普段ニコニコしている旦那さんが顔を真っ赤にして涙を流していた。
町内のおっさんたちの話だと、どうやら首つり自殺をしていたらしい。
詳しい経緯は不明だが、□□トンネルの横の倉庫の裏で。
それを聞いた時の父親の表情は今でも覚えている。
神妙な感じ。でもガノンドロフみたいではなかった。
なぜ父親の前に現れたのか、なぜ自殺したのかなどは分からないし、15年以上前になるから調べようもない。
あのあと旦那さんはどこかに引っ越したのか、いつのまにか見なくなった。
0300 本当にあった怖い名無し 2024/01/15(月) 14:20:23.471ID:cTI1MuTE0
高校を卒業してからは実家を出て、東京、大阪、名古屋と都市部に住んでいた。
成人式の時に帰省して、些細なことで父親と喧嘩して以来、実家には戻っていなかった。
去年、結婚したからと久しぶりに帰省した。
当時はガノンドロフみたいに怖かった父親も、すっかり禿頭になり、小さくなって、穏やかになって
うちの奥さんに「こんな男をもらってくれてありがとうね」と西田敏行みたいに泣いていた。
時がたつのは本当に早い。母親もドラクエのくさったしたいみたいにヨボヨボになっていた。
もっと頻繁に帰省しないとなと思ってた。
2か月前、夢を見た。
当時の実家のリビングに俺はいた。身体は今のまま。夢を見ているという自覚があった。
玄関のチャイムが鳴る。擦りガラスの向こうには人影があった。
背格好でわかる。ドアの前にいるのは父親だ。
俺はドアを開けなかった。この話を思い出したからだ。
2階の自分の部屋に逃げ込んだ。チャイムは何度か鳴っていたが、しばらくすると鳴り止み、目が覚める。
すぐに母親に電話をした。
父親は今、がんを患っているらしい。
帰省したころにはすでに病院で発覚していたらしい。
心配をかけるから子供達には言うなと言われていたらしい。
年齢的にも、転移する可能性があるから頻繁に通院して経過を見ないといけないそうだ。
あれから何度か同じ夢を見る。
決意表明も込めて、ここに書いておく。
これからも絶対にドアは開けない。