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Bさんは奥さんにそのことを伝えてから、ケータイでAさんと話し続けながら車に
乗り、県道沿いのローソンに向かって車を走らせた。道中、何があったかについて
Aさんから聞いた話は次の通りだった。
Aさんが帰宅して風呂に入り、Tシャツに半パンで部屋に戻り、ベッドに腰掛けて
メールを見ようとケータイを手にしたとき、それが目に入った。ジャケットや
シャツなどを掛けているハンガー(平行な棒に洋服をかけるようなもの)の、
服と服の間から、再びニヤニヤ顔だけを出していたそうだ。しかし、並んだ洋服の
下に見えるはずのそいつの下半身が見えない。それにビビリながらも、怒りの方が
まさって、Aさんは「てめえ!」と叫びながら、脇の洋服をどけた。
そこには顔しかなかった。ニヤニヤと笑う女の顔だけが、空中に浮いていた。
転がり出るように部屋を出て、手に持っていたケータイでとにかくBさんに電話を
かけたのだという。
そして、そこまで話したところでAさんは突然黙った。
「…おい、どうした?」
Bさんが聞いたとき、「うおおぉぉぉぉぉっ!」という叫び声と激しい衝撃音を最後に、
Aさんは何も言わなくなった。
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激しい胸騒ぎを憶えつつ、Bさんは車を飛ばしてコンビニに着いたが、Aさんの姿は
そこにはなかった。車においてあった懐中電灯を手に、走り回って周辺を探した
ところ、例の橋の歩道に落ちているケータイを発見し、まさかと思いながらその下の
川面に懐中電灯の光をあてたところ、倒れているAさんを見つけたという。
駆けつけた警官にも、その後の事情聴取や現場検証でも、Bさんは何度もその
一部始終を話したが、取り合ってはもらえなかったそうだ。(むしろ疑われたようだと
言っていた。)
その女の正体も全く分からないし、なぜAさんがそんな目に遭ったかも全く分からない。
その女を見てしまったBさんも同じ目に遭わないかが心配でならないが、今のところ
大丈夫のようだ。それにもまして怖いのは、自分の住んでいるこの建物にそいつが
来たらしいという話だったりする。今のところ何も見てはいないが。