怪談・洒落怖

【新作洒落怖】夏休みのバイト

投稿日:2021年8月18日 更新日:

204 :夏休みのバイト7:2011/05/05(木) 20:54:30.37 ID:dLlXuy+O0

その夜、事件が起きた。
俺とAがリビングでモンハンをしていると、風呂に入っていたBが飛び出してきて「おい、やべーよ!またあの音するぞ!」と
言ってきた。
時間は夜の10時頃。
Bが言うには、風呂から上がって服をきているときに、脱衣所の窓からズル…ズル…と昨日と同じ音が聞こえてきた
らしく、大慌てでこっちへ逃げてきたらしい。
俺達は今度こそ音の正体を突き止めなければと、玄関にあった懐中電灯を片手に外へ出てみることにして、準備をすると
外に出た。怖さも勿論あったが、実害は今のところ無いし、恐怖心よりも好奇心のほうが勝ったからだった。
これがいけなかった。

外に出ると、昨日と同じでやはり何か1mちょっとくらいのものが動いている。
懐中電灯を向けようとすると、それはそのまま隣の別荘へとスッと入っていってしまい見えなくなった。
いなくなったほうへ行くと、別荘の鍵はかけたはずなのになぜか玄関のドアが開いている。
とにかくここにこうしているわけにも行かないし、何より鍵を閉めたはずなのに空いているのは事実なのだから、中を
確認しないわけにも行かない俺達は、3人で目配せすると中に入る事にした。

中に入ると、元からかび臭い建物ではあったのだが、それ以外に何か生臭いような変な臭いが立ち込めている。
異様な雰囲気の中、俺は廊下の電気をつけようとスイッチを探していてある事に気が付いた、玄関の横、靴箱の上の壁に、
花瓶が死角になって今まで見えていなかったのだが、明らかにそれと解るお札が貼ってあり、電気をつけて良く調べてみると、
そこだけでは無く廊下の天井にもお札が貼ってあるのが解った。
俺とAとBは「やっぱそういうことかよ…」と顔を見合わせた。

するとその時、廊下の曲がったほうの奥、例の瀕死の猫がいたところあたりからギィ…と扉が開く音がした。
あの先には例の鍵がかかっていて開かなかった扉しかない。
そして、廊下の曲がり角からベチャ…ズズ…ベチャ…ズズ…と何かを引き摺るような気持ちの悪い音がしてきた。
俺達は完全にビビってしまい、何も喋れず動けずその場で立ち尽くしていると、廊下の角からこちらを何かが覗き込んだ。
俺達は息を飲んだ。

205 :夏休みのバイト8:2011/05/05(木) 20:55:02.82 ID:dLlXuy+O0

それは人間の子供サイズの日本人形だった、日本人形の首だけが無表情に廊下の角からこちらを覗き込んできている。
俺は「…え…ちょ…」と声にならない声を出しながら後ずさりし始めた。
AもBも同じで、あまりにも不気味な光景に後ずさりしている。
人形は一度首を引っ込めると今度は体全体が廊下に出てきたのだが、その姿は身の毛もよだつという言葉がまさにぴったり
来る異様さだった。

上半身は和服を着た大きめの日本人形なのだが、下半身は何か真っ黒のベタベタしたヘドロのような物体に埋まっており、
引き摺っているように見えたのはそのベタベタした黒い物体の後ろのほうだった。
その黒いヘドロのような物体は、まさに俺達が昼間みた物体そのものだった。
人形はなおもこちらに近付いてくる、そして近付くにつれて鼻をつくような生臭さが漂ってくる。

俺達はなおもずるずると後ずさりし、玄関から外に出たのだが、その時俺はある事に気が付いた。動揺していてそこまで
気が回らなかっただけだとおもうのだが、この人形、何か歌いながら近付いてくる、耳を澄ますと、民謡の手毬歌のような、
でも良く聞いてみるとお経にも聞こえるような、不思議で不気味なフレーズの歌を歌いながら近付いてくる。
結構近くで聞いているはずなのだが、何故か歌詞はわからないのだが…

俺たちが後ずさりして道のあたりまで出た時、Bが「おい、やべーよ!」と俺とAに森のほうを見るよう促した。
俺とAが森のほうを見ると、あちこちの藪がガサガサと揺れている、何か沢山の物がこっちに近付いてくるようで、
その数はどんどん増えてきている。
更に、そのガサガサ言う音に混じって、人形が歌っているのと同じフレーズの歌があちこちから聞こえ始めた。

206 :夏休みのバイト9:2011/05/05(木) 20:55:37.15 ID:dLlXuy+O0

俺はAとBに「やべぇよ!逃げるぞ!」と大声で言い、そのまま全力で道を走り出した。
俺達はそのまま全力で息が切れるまで多分1kmくらいは走り続けたと思う、流石に疲れてAが「ちょっと待てって!」
と俺達を呼びとめその場にヘタリこんだ。
Aは息を切らしながら「勢いで逃げてきたけど、どうすんだよ、俺達の荷物も置いたままだぞ」と。
それに続いてBも「わけも解らず逃げてきたけど、これからどうするんだ…?」と。
俺は2人に、「でも、これからまたあそこに戻るのか?」と聞くと、2人とも無言で首を振った。
その時、森の中からまたあの歌声が聞こえてきた。

Bが真っ青な顔で「あいつら追ってきやがった!」と大声で叫んだ。
俺たちは疲れていたが、それでもそこにいるわけには行かずまた真っ暗な山道を全力で走り出した。
それから更にどれだけ走ったか解らないが、ドライブインらしきところにたどり着いた。
勿論、こんな時間にやっているわけがないのだが、それでも安心した気分になったのはたしかだった。そして、俺がふと
携帯を見るとなんとアンテナが立っている。
俺は急いでもらった名刺の電話番号に電話したのだが、流石にこの時間では電話が繋がらない。
すると、Aが自分の携帯でどこかに電話し始めた。
Aは電話越しに何かやり取りしていたが暫らくすると「とりあえず来てくれるって」と力なく答えた。

どこに電話したのか聞いてみると、どうやら警察に電話したらしい。
それから30分ほど、俺達はまたあの人形が追ってくるんじゃないか、歌声が聞こえてくるんじゃないかとビクビクしながら
待っていると、回転灯を回したパトカーがやって来た。
パトカーを見た時、俺はこれからどう事情を説明した物かとか考えるよりも先に心底ホッとして、その場にへたり込んで
しまった。
何か完全に緊張の糸がほぐれたという感じだった。

207 :夏休みのバイト10:2011/05/05(木) 20:56:09.22 ID:dLlXuy+O0

パトカーに乗せられ、俺達はとあえず近場のビジネスホテルまで送ってもらえる事になった。
道中事情は一通り話したは話したのだが、当然のように全く信じてもらえず、最終的に単なる見間違いという事に
されてしまった。
まあ仕方が無いと言えば仕方が無いが…
ホテルの前で降ろしてもらい、警官にお礼を言って見送ったあと、俺達は重大な事に気が付いた。
財布、別荘に置きっ放しだった…
結局俺達は日が高くなるまで近場の公園で野宿する事になった。

翌朝、名刺の番号に電話してキレ気味に事情を話すと、最初に駅に迎えに来たおじさんが血相を変えて
大急ぎで公園まで迎えに来た。
おじさんは車の運転中、「ほんとごめん、ちゃんと事情くらいははなしておくべきだったね…、とりあえず事務所で
全部話すから」と、平謝りに謝り続けたので、俺達は何か気まずくなってしまい怒るに怒れなくなってしまった。
事務所につくと、どうも先に誰かが俺達の荷物を取りに行っていたらしく、あと20分ほどで荷物を持って戻ってくる
らしいとのことだった。

そしておじさんが事情を話し始めた。
予想通りというかなんというか、あの別荘2軒は「例の日本人形」が出てくるようになったので持ち主が手放して
しまった物件らしい。そして、取り壊す事になって荷物を運び出し始めたところ、次々と怪現象が起こり、
しかも、噂が広まってしまったため、近場の人は誰もあそこで作業をしてくれなくなってしまったのだという。
それが1年前の事。
それで困ってしまい、近所のお寺に相談し結構お金をかけて御払いをし、もう大丈夫だろうということで、
地元から離れたうちの大学に求人を出したというのが事の顛末だった。
そして、俺達が「まんまと引っかかった」というわけだ。

209 :夏休みのバイト11:2011/05/05(木) 21:01:36.41 ID:dLlXuy+O0

おじさんお話によると、元は昼夜問わず怪現象や人形が目撃されたらしいが、お払い以後昼間行っても
何も起きなかったのでもう大丈夫だと勝手に思い込んでいたらしい。
その結果が今回の事件なわけだが…
おじさんは「ほんとごめんね、給料は4日分全部払うし、交通費も今払うか」とやたら腰が低いので、俺達は
もう何か完全に肩透かしにあってしまい、起こる気も起きず4日分のバイト代と帰りの分の交通費を貰うと帰る事にした。
最後に、俺はおじさんに一つ質問をした。
「おじさん、結局あの人形は何なの?」と、するとおじさんはこう答えた「さあ?」

出典http://toki.2ch.net/test/read.cgi/occult/1304436749/

 

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