918 :7 :2013/10/30(水) 15:21:50.73 ID:4PrXcmLsi
そのうち兄が高校にあがり、好きな人が出来た。
相手の女の子も兄が好きだったようで、周りから囃し立てられて、付き合うのも秒読みのような段階だったらしい。
奥手というか古風な兄は、直接告白はせず、かと言ってメールで済ませるわけでもなく、この平成の時代にラブレターをしたためたそうだ。
もちろん、兄しかいない部屋で。
その手紙を彼女に渡したところ、放課後に激怒されたらしい。
どうも封筒の中に長い髪が入っていたとか。
手紙は嬉しかった、だけどあの長い髪を見たら許せなくなってきて、付き合う気がなくなった。怒りしか湧いてこない。などなど理不尽に不満を持たれ、結局付き合うこともなく破局したそう。
919 :8:2013/10/30(水) 15:22:38.66 ID:4PrXcmLsi
その夜、兄は笑い声で目を覚ました。
ベッドのすぐそばで髪を振り乱してゲタゲタと笑う、般若の面をつけた女がいたらしい。
その時兄は恐怖もなく、動揺もなく、「ああこいつがいる限り恋人は出来ないのか」と諦めの気持ちがあったという。
それから現在まで、兄に好意を持つ人が現れても、恋人が出来たことはない。
920 :9:2013/10/30(水) 15:23:26.44 ID:4PrXcmLsi
私が19歳の時、地元を離れて渋谷でアルバイトをしてた時期があった。
その時出会った四つ上の男性に猛烈に惹かれてしまい、猛アタックの末交際することが出来たが、
その男性が何やら因果のある人だった。
その男性は札幌市の出身で、小学生の頃エレクトーンを習っていた。
が、家にはピアノしかなく、エレクトーンの練習がしたい時は、お隣の家がちょうどエレクトーンを持っていてから弾かせてもらっていたそうだ。
そのお隣というのは、玄関におかめと般若の面を飾っていた。
921 :10:2013/10/30(水) 15:24:14.01 ID:4PrXcmLsi
ある日彼がいつものようにエレクトーンを弾かせてもらいに行くと、そこにエレクトーンはなかった。
「ご縁のある子にあげてしまったの」と、その家の奥さんは言っていたそうだ。
子供や孫のいる家ではなかったから、親戚にでもあげてしまったのだろうと思ったらしい。
ただその、エレクトーンがなくなった日、いつもあった般若面がなくなっていたとか。
十年以上経って、同じエレクトーンを入れ替わりで弾いていた人物が渋谷で出会い、なぜか惹かれて、交際していることに、自分のことながら不気味さが募り、結局その彼とはすぐ別れてしまった。
これ関係あるのかわからないけど、
別れた直後、腹部に激痛が走り病院へ行ったところ、とある婦人病が発病していて、私は妊娠出来ない体になっていた。
922 :11:2013/10/30(水) 15:28:42.80 ID:4PrXcmLsi
そして現在。私は実家から離れた都内の市に一人暮らししている。
私が実家を出てから母は犬を二匹飼い始めた。
そのどちらも、子犬の間は玄関に向かってよく吠えたという。
玄関に何かいるように、体を強張らせ、低く唸り、けたたましく吠えたのだとか。
兄はすっかり見える人になってしまった。
人から見たら風変わりな人間に見えるだろう。
あの般若面は今どうしているかと聞いたら、
「この数年は玄関に立ってるよ。外を向いて。もう何年も、誰の女友達も来てないでしょう。」
と、言われたのが、つい今朝方のこと。
私は久々に実家に帰ってリビングでくつろいでいる。
ソファの隙間に、母のものでも私のものでもない髪が挟まっているので、
これからそれをゴミ箱に捨てる。
般若面は何者なのだろう。
因果のようなものはあるのだろうか。偶然なのだろうか。
いつか全てわかる日がくるだろうか。