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0228蝸牛 ◆XEJqUa2NTo2023/03/17(金) 22:10:31.06ID:guQKPAjE0
今から約20年前に遡る。
私はやや不登校気味な小学生であった。
外出はあまりせず、家の自室に引き篭もり絵を描くのが好きだった。毎日時間が過ぎるのも忘れるくらいに描画に没頭していた。両親は共働きで、互いに話し合う時間もなく、すれ違いの毎日からか頻繁に夫婦喧嘩を起こしていた。
私が夜中に寝ている時にも関わらず、リビングの方からは両者の怒号と叫び声が聴こえてくる。いつも決まって夫婦喧嘩の最後は、母がリビングの隅で目を赤く充血させて啜り泣く声だけが室内を木霊していた。そのせいで私も眠れない日々が続いたーー。
ーーそんなある日、母が私を祖母の元へと連れて行った。理由は知らない。概ね私の引き篭もり生活が長かった為に、祖母に預けて私生活の改善を促したかったのかなと今になって思ったりもする。
私は自分と歳がさほど変わらないであろうランドセルを背負った小学生達を横目に、制服ではないラフな格好で道端に落ちている小石を蹴っていた。すると祖母が私の手を握りだし、何故か満面の笑みを見せてきた。当時、祖母が私にずっと何かを喋りかけて来ていたのを覚えているが、詳細にはその会話の内容を覚えてはいない。ただ祖母の屈託のない笑顔とやけに強く私の手を握ってきていた事だけは、未だに鮮明に記憶として残っている。
一体、私は何処に連れて行かれるのかなと思っていた矢先、祖母がいきなり歩くのをやめた。そして私の手を離して、前方を指差し始めた。続けざまに私の肩に優しく触れてニコッと笑みをこぼした。
祖母が指差した場所は、県内では有名な公園であった。ブランコや滑り台、シーソーなどがある。だが先客もいた。幼稚園児や赤ちゃんをおんぶした大人の女性達の姿があった。私は祖母を見た。しかし祖母は私の肩を擦るばかりで、一切口を開かない。私に対して無言の圧力で、公園で遊んできなさい、と言いたいのだろう。だが無理だ。私はそこまで幼稚ではない。
赤子をおんぶする大人の女性達の視線が痛い。祖母はというと持病である腰痛を労りながらベンチに腰掛けている。私は遊具で遊んでいるフリをしながら公園内一帯を見渡した。林に囲まれた公園、鳥の囀る声、何かの慰霊碑も置かれていた。そうして自身の思いに耽っていると、知らず知らずの内に時間が過ぎていた。
祖母はというとベンチでウトウトと眠たそうにしている。
0229蝸牛 ◆XEJqUa2NTo2023/03/17(金) 22:13:47.87ID:guQKPAjE0
私は退屈になり、祖母の目を盗んで公園から外れた抜け道に出る事にした。
その抜け道は、夏の日差しを遮るかのようにして木々が覆い被さり木陰を作っている。人通りも少なく、私にとっては心地が良かった。先程まで五月蝿く鳴いていた蝉達も何故かここでは静かであった。
すると林の中からガサガサと音を鳴らして一人の少女が現れた。背丈は自分とはあまり変わらない。恐らく私と同じ小学生だと思う。裸足で足は泥に塗れて、衣服の隙間からは褐色した肌と痛々しい擦り傷の跡がチラホラと目立つ。赤い頭巾を被った少女を注視して視ていると、なにやら何かを捕まえている様子であった。紺色のモンペに赤い頭巾を被ったその少女から、いつしか私は目が離せなくなり、思わず近付いて話しかけて見ることにした。
「何してるの?」、恐る恐る私がそう話しかけると、「アオガエル!」と少女はニコニコした様子で、私に掌一杯に握りしめた青蛙の死骸を数匹見せてきた。私は更にその少女の事が気になり、質問を立て続けに行った。
「カエルどうするの?」
「食べるんだよ」
「カエルって美味しいの?」
「美味しいよ、ほらイナゴも一杯」
少女はそう言うと、嬉しそうにしてポケットから5、6匹程のイナゴの死骸の束を見せてきた。すると束の中から一匹だけイナゴを手に取り、器用に羽と足を毟り取ると、口の中へと放り込んだ。ムシャムシャといった咀嚼音とイナゴの体液が口元周りに付着した。私は少女が身寄りのない捨て子なのだろうと思った。
「君は1人?」
「オカァと一緒だよ」
「お母さんどこ?」
「そこだよ」
少女は藪の中にある洞穴を指差してそう言った。中の様子は暗く、私には獣の住処にしか見えなかった。
0230蝸牛 ◆XEJqUa2NTo2023/03/17(金) 22:14:51.46ID:guQKPAjE0
「オカァー!」急に少女が叫んだ。
立て続けに何度も何度も「オカァー!」と叫び続ける。私は少女の手を握り、「もういいよ、お母さん寝てるんじゃない?」と言ってみたが少女は叫ぶ事をやめない。するといきなり少女に異変が現れた。
何かに恐れるようにして空を見上げ始め、汗、涙、尿、糞が一斉に地面へと流れ落ちた。グチャグチャになった顔を手で拭いながら、「アツい、アツい!」と泣きじゃくり、自分の糞尿塗れとなった地面を転げ回った。次第に少女の皮膚は爛れて溶けていき、声も出ない状態と化し、先程までの人間の姿からは到底予想も出来ないであろう焼死体へと変貌を遂げてしまった。
何故、この体験談を洒落怖スレで語ろうかと思ったかというと、先日その少女と出会った場所に久し振りに訪れたからです。
そして後になって気付いた事が、赤い頭巾の少女が指差していた洞穴は、戦時中に使われていた防空壕であった事が最近になって知りました。