怪談・洒落怖

【新作洒落怖】ヘンテコな鳴き声

投稿日:2024年8月21日 更新日:

0806 本当にあった怖い名無し 2024/03/07(木) 14:43:31.64ID:vNwO2gi/0(7/12)

開いたままの建付けの悪そうな木製のドア。
見慣れた小屋がそこにある。

そして、俺が踵を返そうと後退りした時、ガササササと一気に距離を詰めるように昨日見た変な生物が飛び出してくると俺の周りを囲む。
体を「く」の字にうねうねさせながら、土竜みたいな口を開口して、何やら仲間同士で『ガウ』とか『ゲギャ』みたいな変な鳴き声で会話してるみたいだったけど、俺はもう腰が抜けてその場に座り込んでた。

そしたらそいつらの中の一人が胸元の腕を伸ばして俺の髪の毛を掴むと、小屋まで引き摺った。
禿げる程痛くて「いたい!やめて!たすけて!」って叫んだけど、そいつらは仲間うちで鳴き声で会話するだけで、俺に見向きもしなかった。
小屋の中に変わったものはなかった。
中心に囲炉裏みたいなものが設置されてて、大きめの鍋がぶら下がってた。
それを見た瞬間、(え、俺のこと食うの?)って震えたが、俺の髪の毛を掴んでた生物は小屋の中に俺を連れ込むと隅のほうへ乱雑に放った。
「ぎゃっ」と背中からぶつかったせいか変な声が出てのたうち回る。
すぐに体を起こそうとすると、生物が二人掛かりで俺の片手と片足を押さえつけて『クゥクゥクゥ』と何か合図を送るように鳴いた。

0807 本当にあった怖い名無し 2024/03/07(木) 14:44:43.52ID:vNwO2gi/0(8/12)

俺は必死に体をよじって抵抗するが、次の瞬間、左腕に激痛が走った。

「ああああああああああ!」と叫ぶと同時に腕を折られた事を悟った。
続けざまにゴキゴキッって音が聞こえると左脚から全身に激痛が走った。
足も折られたぽかった。

もう絶対に殺されると思った俺は最後に思い切り「だれかあああああああああ!」と絶叫したんだけど、その時、目の前に変な生物が棒状のものをちょうど振り上げている瞬間が目に飛び込んできて、「あ」と声が漏れたと同時に暗転した。

死んだと思った。

でもなんか、気が付くと風が吹いてるのか木々が揺れる爽やかな音が耳に届いて、目を開けると木漏れ日と空に透けた木が広がってた。
俺は仰向けに倒れてた。
起き上がろうとすると体中が痛くて、ふと左腕と左脚を見ると変な方向に曲がってて「ひ、ひゃあああああ」って上擦った悲鳴が出た。
それから激痛で泣きながら匍匐前進するようにその辺を這いずってると、獣道?ではないが、人が長年踏み固めて出来たような土の道に出て、その向こう側に広がる景色に工場の煙突とか色んな建物の屋根が見えて泣くほど喜んだ。

芋虫みたいにズリズリと這いずって土の道を進んでたらウォーキングウェアを着た初老くらいのおばさんと遭遇して、おばさんが「ぎゃあああ」って悲鳴を上げたから俺も「わあああ」って驚いた。

0808 本当にあった怖い名無し 2024/03/07(木) 14:46:31.96ID:vNwO2gi/0(9/12)

だが、すぐにおばさんは俺のところに駆け寄ってくると「だだだ、大丈夫?」ってパニックになりながらも慌てて携帯電話をポーチから取り出して救急車か誰かに電話してた。
俺はというと、普通の人間に会った安堵感から消え入るように気を失った。

で、目が覚めると病室にいて、母親がベッド脇に立ってた。
俺が「おかあさん?」と呼びかけると号泣しながら抱き付かれてすごい痛かったが、それ以上に家族の許に戻れたことが嬉しかった。

そして、医者や両親から聞いたんだが、俺は山で滑落して全身強打したらしい。
幸い死ぬような高所からじゃなかったのか、固い地面か木とかに体が叩きつけられた際に左腕と左足が骨折したのだろうと説明された。
それで転がった先が運よくあのおばちゃんのウォーキングコースだったから衰弱する前に発見されてすぐに病院に運ばれて助かったと聞いた。

でも俺は覚えている。
俺は滑落してないし、変な生物に襲われた事を。
俺は子供ながらその体験談を母には話したんだが、母は「猿に追いかけられたんね?もう山に入っちゃダメよ!」てな感じで猿か猪に俺が追いかけられて滑落したんだと思われた。
子供の言う事だから猿とかの動物を恐怖心からバケモノみたいな生物に脳が書き換えたと思われたっぽい。
その時の俺はまだ入院中で精神的に疲れてたから反論もせずに「ごめんなさい」と素直に反省した素振りをみせて、事故について訂正する気力はなかった。
それに、山での出来事を忘れ去りたかったのかもしれない。

0809 本当にあった怖い名無し 2024/03/07(木) 14:47:38.46ID:vNwO2gi/0(10/12)

俺はあれから一度も山に入る事は無かったんだけど、俺が高校に入ったちょっと後のことだったかな。
何かあの山で大量の動物たちの骨が見つかったらしい。
ただの動物の骨ならそりゃ鹿とか猪がいるんだから有って当然だろうと思ったが、中には人骨らしきものが一部混ざってたそうだ。
詳しい話は知らないが、当時の地元では「殺人?」「遭難者?」「事故?」と色んな憶測が飛び交ってたが、続報が無かったからすぐに話題から消え去った。

だが、俺はグーグルマップを開いて当時の記憶を頼りにしながら例の山を確認してみた。
すると、意外と大したことの無い広さに驚愕するが、所々山の禿げた場所を見ては「ここだったかなー」とか「この辺だっけ」と呟きながら、山の中にあった小屋の場所を探していた。

まあ小屋らしきものはグーグルマップでは見つからなかったが。

それでもう高校生になったし、当時と比べて恐怖心も薄れてたから直接山を登って探すことに決めた。

0810 本当にあった怖い名無し 2024/03/07(木) 14:49:01.70ID:vNwO2gi/0(11/12)

何年ぶりかの入山だが案外景色を覚えているもので、俺は軽やかに「こっちっぽいな」と茂みの中を進んでいくのだが、やっぱり小屋は見つからなかった。
あの山の中の平らな場所らしき所は見つけたんだが、小屋なんて無かった。
記憶も随分と頼りにならないくらい色褪せてるので、その場所が小屋があった場所と断言できないが、俺はあの小屋が消えたと感じた。

当時は必死で気が回らなかったが、入山からこの場所まで高校生の足で僅か二十分もしなかった。
あの時は随分とさ迷っていたと思ったが、遭難でよく聞く、同じ場所をぐるぐる回るというものを再現していたのだろうか。
俺としては、斜面を下るようにひらすら下へ降りていると思っていたのだが、高校生になった今、その辺りの記憶が曖昧になっている。

だが、そこから当時を振り返って小屋の場所から逃げた方角に下山してみると、当時見た景色と合致するくらいそっくりな工場の煙突や屋根が確認できたし、助けてくれたおばちゃんと出会った土道にもちゃんと出れたのだ。

時間にして十分ちょいだった。

0811 本当にあった怖い名無し 2024/03/07(木) 14:50:11.62ID:vNwO2gi/0(12/12)

当時は一晩も駆けずり回ってやっとのことで山から抜け出せた場所なのに、グーグルマップで位置を確認すれば、俺が入山した所からそんなに距離は開いていなかった。
たぶん、麓をぐるっと迂回して辿り着ける場所かな。
いったい当時の俺はどこを走り続けていたのだろうか。

今では、例の小屋も見つからないし、こうして入山してもあの変な生物もヘンテコな鳴き声も聞こえない。
それでも俺は発見された動物の骨の中で見つかった人骨は、恐らくあの変な生物に襲われた被害者ではないかと疑っている。
俺は運よくあの生物から逃げる事ができたが、きっと俺と同じように山に入ってあの生物に襲われた人が居るんだと思った。

あのヘンテコな鳴き声が人を誘う合図なのかもしれない。

もし山に入って『クゥ、クゥ、クゥ』と聞こえたら、引き返す事をおすすめする。
たぶん、鳥とか小動物じゃなくてあの変な生物の可能性もあるから、興味本位で声を追わない方が良い。
俺みたいに生きて帰れる保証はないからな。

出典https://mao.5ch.net/test/read.cgi/occult/1702761162/

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