本文
0171 『そいつ』 2022/03/15(火) 19:28:36.52ID:4HN9fXJy0(1/3)
今から40年ほど前、〇媛県の某市(今も実家がある)に住んでいた頃の話
正確な時期は忘れてしまったが、確か初秋の頃だったと思う
日曜日の昼下がり、当時小学4年生だった自分は、同級生のS(男)の家へ遊びに行った
3歳下の弟と、弟の同級生のT(男)も誘い、3人揃って自転車で向かった
最初はSの自宅横の道路(半分私道みたいな場所)で遊んでいたが、途中からSの部屋で遊ぶことになった
途中から2歳上のS姉が部屋に来たので、そこから5人でいろいろとおしゃべりを始めた
いつの間にか時刻は16時を過ぎており、外は曇り空で少し薄暗くなっていた
0172 『そいつ』 2022/03/15(火) 19:29:30.55ID:4HN9fXJy0(2/3)
Sの家はどこにでもあるような普通の住宅地の中にあり、周りには何件も家が建っていた
Sの部屋は南側がガラス戸になっていて、そこから先ほどまで遊んでいた道路が見える
その道路を挟んだ南側に、赤茶っぽい色をした屋根の家があった
自分はその家の屋根の上に、何か薄い黒色(どちらかといえば灰色っぽい)をした何かがいることに気がついた
部屋から直線距離にして15メートルくらいだろうか、最初「猫かな?」と思った
しかし、これだけ距離が離れているにもかかわらず、バスケットボール大に見える猫なんて見たことがない
自分の様子に気付いたSが「何見とん?」と言いながら、同じように外を見た
続いて弟、T、S姉の3人も、ガラス越しに外へ目をやった
自分が「向こうの家の屋根におる黒っぽいの、何じゃろ?」と言うと、4人もそれに気づいたようだ
「何やろ、あんなん見たことない」とか「わからん、どうみてもカラスやないし」など、全員が首を傾げていた
気になって室内から全員で観察していると、しばらくして『そいつ』は反時計回りにゆっくりとこちらを振り向いた
不思議なことに『そいつ』の体は回転テーブルに乗っているのではないかというくらい揺れ動かず、とてもスムーズな動きだった
0173 『そいつ』 2022/03/15(火) 19:30:26.65ID:4HN9fXJy0(3/3)
そして正面を向いた『そいつ』の姿を見て、全員が言葉を失った
とがった両耳を持ち、肩幅に広げた細い両腕がだらんと垂れていた
両膝を折り曲げ、う〇こ座りに近い恰好でこちらを向いたまま、その場からぴくりとも動かない
顔に相当するであろう部分の目の位置には、白く大きな2つの点があった
少し開いた口の両端が吊り上がり、まるで笑っているように見えた
誰も悲鳴や言葉を発することなく、金縛りにかかったようにその場で固まってしまった
沈黙を破るように、Sが「な、何やあれ?」「べら(”とても”という意味)きしょい(”気色悪い”という意味)」とか言いはじた
部屋は騒然となり、『そいつ』の異様な姿がただただ怖く、部屋の中央に5人で体を寄せあって震えていた
『そいつ』は特に何かをする様子もなく、微動だにしないまま、屋根の上からじっとこちらを見ているようだった
自分は『そいつ』から視線を外すことができず、そのまま3分ほどずっと見ていたが、突然その場から煙のように姿を消した
S姉は『そいつ』をスケッチしていたらしく、あとで「こんな感じやったよね?」と紙に描いた絵を見せてくれた
元々絵が上手だったのか、よく特徴を捉えていた
17時頃になってSの母親が買い物から戻ってきたため、自分と弟とTの3人は、すぐさま入れ替わるようにしてSの家を出た
急いで自転車に飛び乗り、その場から逃げるように自宅へ戻った
その後5人の身に何も起きてはいないが、それ以来Sの家へ遊びに行くことはなくなった
あの2つの白い目と、何とも言えない不気味な口の表情は、今でも鮮明に脳裏に浮かぶ