池袋の飲食店で働く霊感少女ナミさんから聞いた話。
現在二十代の彼女は幼い頃から日常的に霊を見てきたために、そこそこの怪奇現象ではいちいち怖がっていられないそうです。
交差点や路地裏の暗がりに立っている人間が透けていたり、自宅以外の場所で不可解な音を聞いたくらいでは基本的に無視を決め込む。
そんな彼女の日常は独特で面白いのでいくつか紹介しようと思います。
それではどうぞ。
祖父が亡くなって５年近くが経つという。
亡くなった時期は新型コロナウィルスが猛威を振るっており、祖父の葬儀はおろか遺体に対面することも叶わなかった。それゆえナミさんは外出制限が開けた時まっさきに祖父のお墓参りのため里帰をした。それ以来、年に２～３度のペースで帰省しているのだが、ナミさんが帰省するたびに連絡も入れていないのに祖母が庭先に迎えに出ている。
「どうして私が帰って来るのがわかるの？」
ある日祖母に聞いてみた。東京から車で帰省しているナミさんは、実家の広い庭に車を止めるため、家族の誰にも告げずに帰省する。エンジン音がうるさい車でもなし、ナミさんが玄関を開けるまで家族が気づくことはないだろうと今でも思っている。それにも関わらず祖母はナミさんが帰省すると必ず庭先で手を振って待ち構えているという。
「アンタが帰って来ると仏間の襖がガタガタ鳴るからわかる」
祖母の言葉にナミさんは「あー」と唸った。
「そういうこと？」
ナミさんの返事に祖母はウンウンと頷く。
「お祖父ちゃんが喜んでるんだよ」
ナミさんの実家では怪異がよく起きる。それをよくよく知っているナミさんは祖母の言っている意味を即座に理解した。
「あははー。怖いからやめて」
笑って祖母に抗議するも祖母はニコニコしながら聞き流す。祖母も普段は怪異を怖がっているはずなのに祖父のこととなると嬉しいのだろう、祖父の霊が引き起こしていると思われる怪現象に恐怖は感じていないようだ。
「いいから手を洗ってお祖父ちゃんに挨拶しておいで」
祖母に言われるままナミさんは玄関の引き戸を開けた。
……ガタガタガタ……
家の奥で音がしていたが、ナミさんが靴を脱ぐ頃にはその音はしなくなった。
「ただいまー」と声をかけて廊下を進んでいくと母や妹の「おかえりー」という声が聞こえる。
祖母に言われた通り手を洗ってまず母に声をかけ、仏間の襖を開ける。今までガタガタ鳴っていたであろう襖に若干の恐怖を感じるものの、ナミさんを怖がらせないよう鳴りを潜めている襖が少しおかしくもある。
仏壇に手を合わせて祖父に挨拶する。
「ただいまお祖父ちゃん。あとご先祖さまも」
手を合わせて祈るナミさんの挨拶に答える怪現象はない。彼女の素行不良に文句を言う気配もないので、安心してお線香を上げて挨拶を終える。そうしてからようやく家族のもとで一息ついて帰省の報告をするのだという。
「たぶん私を怖がらせないようにガタガタ言うのやめるんですよ」
怖がりのナミさんでも帰省を喜ぶ祖父の起こす怪現象に恐怖することはないというが、それでも祖父の霊は遠慮するのか、ナミさんの前では大人しくしているのだという。
祖母によるとナミさんが帰省を考え始めた頃から襖がカタカタと小さく振動することがあり、いよいよ帰って来るというタイミングでテンションが上って襖がガタガタと大きく鳴るのだという。ナミさん自身は暴れる襖の様子を見たことはないそうだ。
「私の家ってそういうのめちゃくちゃあるんで、今さら驚くほどでもないんですよ。怖いですけどね」
～終わり～
