第一部 三話 心霊写真鑑定ライブ配信
画面には白い部屋が映し出されている。 会議室のような白い壁の部屋に大きな机が置かれて、その向こうからこちらを向く形でジローさんを含めて4人の人物が座っている。 左から小林アナ、ジローさん、右側にいる長髪サングラスの男性が右京さんだろうか。 そしてその隣の黒髪の女性が霊能者の人だろう。 普段のラジオでは顔が見えないので、こんな風にジローさんを見るのは新鮮だ。 画面の中のジローさんが画面の外に向かって話しかけている。 音声は聞こえない。 まだ準備中のようだ。 程なくして音声が聞こえてきて、OK?OK?というや ...
第一部 二話 悪ノリ
ラジオがCMに変わり、地元の中古車販売店の広告が流れてくる。 「…………」 ジローさん、自由だな。 ジローさんはたまに思いつきで番組内容を変更して小林アナを困らせることがある。 ラジオを聴いている側としては楽しくていいのだが、小林アナの苦労人ぶりが伺えて少し可哀想に思う。 過去に何度か、ジローさんのあまりにも無茶な提案に小林アナが本気で怒っている放送回があって、明らかにテンションの低くなった小林アナを尻目にジローさんがマイペースに放送を続けるという、聞いているこちらがドキドキしてしまうことがあった。 そう ...
第一部 一話 深夜ラジオ
窓を叩く雨音が強くなってきた気がする。 時刻は深夜1時に近づこうとしている。 夕方からポツポツと降り出した雨は、今ではサーサーという雨音が室内まで聞こえるほどになり、さらに先程から風も強くなってきたようで、時折バタバタッと窓に雨が打ちつけてくる。 四月に入ったというのに最近やけに冷えることが多い。 寒の戻りというのだろうか。 「…………」 モニターに目を戻し、BGMとして再生していたYouTube動画を停止して、ラジオアプリを起動する。 お気に入り登録の一番上にあるラジオ番組のタイトルをクリックする。 深 ...
事故物件【首くくりの町・外伝】
年の瀬も押し迫った12月のある日、姉からの指令を受けた俺は大手町にある賃貸マンションの一室のドアの前にいた。 不動産を手広く扱う姉の会社が管理する物件で、今は借主のいない空室である。 預かっていた鍵を使って玄関を開ける。 まだ14時だというのに早くも日は傾き始め、雑居ビルに囲まれた部屋の中は薄暗かった。 玄関から中を見通すも部屋の中に差し込む光はなく昼間という感じがしない。 「ふむ」 溜息ともいえる頷きをひとつ。 俺は意を決して靴を脱いで部屋の中に入った。 いるのだろうか。 この部屋に。 首を吊って死んで ...
篠宮神社の御守り【首くくりの町・外伝】
篠宮神社の御守りといえば、ある筋ではちょっとしたレアアイテムとして知られている。 九州の田舎にある古い神社の御守りで、オカルト界隈でそれほど知名度があるわけではないのだが、知る人ぞ知る、というやつである。 一般に出回っているのは社務所で販売している800円のやつで、効果に関してもご利益があったりなかったり、ごく一般的な普通のものである。 ある筋で貴重品として重宝されているのは神主である篠宮慶宗が一つ一つ丁寧に作った逸品で、工場で織られたものよりも地味で味気ない装飾ながら効果のほどは折り紙つき ...
外国人労働者07
部屋の真ん中に立って小刻みに頭を動かす女の霊。 部屋の中に渦巻いていた靄はすっかり消え失せている。 女の霊の「あ゛っあ゛っ」という不快な声が部屋に響いている。 老師がお札と鈴を手にゆっくりと歩み寄る。 女の霊は動かない。 ただ立ち尽くして頭を振っている。 「△△!□◯◯△◯」 老師が何事かを唱えながら、女の霊の胸のあたりにお札を貼り付ける。 空いた手で印を結んで、貼り付けたお札にさらに何かを書き付ける動作をする。 女の霊が頭をガクンとうなだれた。 動けないようにしたのだろうか。 ...
外国人労働者06
「…………」 思わず息を飲む。 改めて見るとやはり異様な光景だった。 ボロボロに傷つけられ首から血を流している女性の霊。 前後左右に小刻みに頭を揺らしながら「あ゛っ…あ゛っ…」と呟いている。 あ、と、だ、の中間のような「あ゛っ」という声に不快感と恐ろしさを覚える。 その言葉?声?の中に感情や意思が含まれていない、爬虫類あるいは昆虫のような、意思疎通の絶対不可能な断絶を感じる。 老師はお経を終えて女の霊を見る。 と同時に女の霊がまた、揺れながらリーさんの方へと歩き出す。 老師は動かない。 何事 ...
外国人労働者05
「お茶……買ってきましたけど……あれ?」 雪村君は何が何だかという顔で部屋の中を見回している。 部屋の中には倒れて動かないハオさんと、血を吐いて気絶しているリーさん、そして並んで正座して額にびっしょり汗をかいている俺と伊賀野さんがいる。 「笠根さん?……どうしたんすか?」 雪村君がおずおずという様子で聞いてくる。 ブハー!と大きく息をつく。 「いやあヤバかった!雪村君、助かったよ、ありがとう」 「え?……はあ…まあ……え?」 「ホンさんの他にとんでもないオバケが出てきてね。雪村君がピンポン押 ...
外国人労働者04
「先生からOKと言われました。先生が来るまで私がホンさんの相手をします」 相手をする、とはどういうことだろう。 ハオさんはスーツ姿のまま床にあぐらをかいて、クローゼットから出してきたアタッシュケースの中から何かを取り出して目の前に並べていく。 綺麗な刺繍の入った布を広げ、その上にお札、鈴、線香、蓋のついた線香立て、木彫りの飾りのようなもの、その他よくわからない物を並べて、胸の前で手を合わせた。 線香に火をつけて消し、煙をたなびかせる。 その線香を両手で持ち、お経のようなものを呟く。 しばらく ...
外国人労働者03
中野の工事現場で彼と雪村君を広い、伊賀野さんに指定された場所へと向かう。 先方との面会場所は横浜のとあるホテルの一室だった。 中華街からそこそこ離れた場所にある控えめなホテル。 安宿とまではいかないが、お世辞にも豪華とは言えない一般的なホテルだった。 「…………」 伊賀野さんは有名な霊能者と言ってた気がするが、お金持ちではないのかもしれないな。 なんとなく中華街で円卓を囲んでるイメージをしていたから調子が外れた気がする。 「…………」 そんなこと考えていても仕方ないので受付を素 ...
外国人労働者02
その日は雪村君に彼を連れて帰ってもらった。 仲間のところに連れて行くのか、雪村君の家に泊めるのか知らないが、とりあえず今日のところは何も起きないだろうと言っておいた。 確証はないけども。 「…………」 さて困った。 一方通行の意思疎通はできるものの、それで除霊なんかできるはずもない。 あの父親の霊が何を訴えているのか、それが分からなければ始まらない。 「…………」 通訳だ。 何はともあれ通訳が必要だ。 中国語と日本語が理解できる人で、さらに霊のことを見たり聞いたりできる人物。 「…………」 ...
外国人労働者01
一昔前に、外国人労働者が酷い環境で働かされているというニュースを目にしたことがあった。 主に中国から密入国した労働者が多額の借金をカタに奴隷のような労働を強いられているというもので、現地のブローカーに騙されて日本に来たが最後、言葉も分からず友人も親戚もいない異国の土地で労働力を搾取され、タコ部屋にすし詰めにされて酷い環境で働かされながら貧困に喘いでいる、というような内容だった気がする。 そういったタコ部屋なんかがガサ入れされ、悪徳業者が摘発されるニュースなんかをしょっちゅう見た ...
山に入れなくなった話 第6話 解決編・後日談
振り返ってみれば一連の怪現象に悩まされたのはたった四日間の出来事だった。 あのビデオ編集の仕事をした日から数えると結構な日数になるのだが、伊賀野いがのトク子の死を知り、寺社を巡って御守りやお札を集め始めたのはつい六日前のことだ。 「…………」 凄まじい四日間だった。 あの霊に翻弄ほんろうされ続けた四日間。 特に最期の二日間はキツかった。 木崎美佳の姿をしたアレにつきまとわれ、最悪なことに死人まで出てしまった。 「……………」 タッキーと伊賀野さんのお弟子さん達。 取り返しのつかない犠牲を思う ...
山に入れなくなった話 第5話 最終話
夕方まであてどもなく渋谷の街を歩いた。 腹が減ったらファーストフードで飯めしを食い、店から出たらまた歩き続けた。 途中何度も木崎美佳の姿をしたモノがちょっかいをかけてきた。 背中の後ろで気味悪く笑ったかと思うと、交差点の向こう側でこっちを見ていたり、ファーストフードの店内で机の下から俺を見上げていたり、トイレを終えて手を洗う時に鏡の中から俺を見ていたり、もうありとあらゆるタイミングで存在をアピールしてきやがる。 「くそったれ」 木崎美佳がちょっかいをかけてくるたびに罵倒ばとうの言葉を吐はいたが、木崎美佳は ...
山に入れなくなった話 第4話
目を覚ますと俺はまた病院にいた。 あの時と同じ病院のようだ。 病室に入ってきた斎藤さんが、俺の意識があるのを見て怯えた顔をしたあと、ベッドの側に来て「よかった……今、先生を呼んで来ますね」と言った。 医師の検診を受けしばらくボーッとしていると笠根さんが入ってきた。 「やあ前田さん、どうも」 そう言って笠根さんはベッド脇の椅子に腰かけた。 「無事……とは言えないけど、とりあえず元気そうでよかった」 さっきまでと服装が違う。 俺はつい今まで笠根さんのお寺にいたはずだが、まさかぶっ倒れたのだろうか ...