オリジナル作品

月明り ~稲川淳二風怪談~

本編:月明かり 私とあの人は、世に言うところの幼馴染ってやつでした。 とは言っても、幼稚園から一緒で小学校中学校と同じクラスで……なんていう甘酸っぱいもんじゃなくて、病院でね。 私もあの人も、生まれた時から体が弱くて、物心ついた時にゃ病院で、入院したり退院したり入院したり退院したり、そんなことを繰り返してましてね。 学校なんかろくに行けやしない。 それでも病院に行けば大抵の場合あの人と会えるんで、私は病院に行くのが嫌いじゃなかった。   あの人は脳みその腫瘍かなんかの病気で、私は心臓が弱っちくて ...

山に入れなくなった話  第6話 後日談

振り返ってみれば一連の怪現象に悩まされたのはたった四日間の出来事だった。 あのビデオ編集の仕事をした日から数えると結構な日数になるのだが、伊賀野いがのトク子の死を知り、寺社を巡って御守りやお札を集め始めたのはつい六日前のことだ。   「…………」 凄まじい四日間だった。 あの霊に翻弄ほんろうされ続けた四日間。 特に最期の二日間はキツかった。 木崎美佳の姿をしたアレにつきまとわれ、最悪なことに死人まで出てしまった。 「……………」 タッキーと伊賀野さんのお弟子さん達。 取り返しのつかない犠牲を思う ...

山に入れなくなった話  第5話 最終話

夕方まであてどもなく渋谷の街を歩いた。 腹が減ったらファーストフードで飯めしを食い、店から出たらまた歩き続けた。 途中何度も木崎美佳の姿をしたモノがちょっかいをかけてきた。 背中の後ろで気味悪く笑ったかと思うと、交差点の向こう側でこっちを見ていたり、ファーストフードの店内で机の下から俺を見上げていたり、トイレを終えて手を洗う時に鏡の中から俺を見ていたり、もうありとあらゆるタイミングで存在をアピールしてきやがる。 「くそったれ」 木崎美佳がちょっかいをかけてくるたびに罵倒ばとうの言葉を吐はいたが、木崎美佳は ...

山に入れなくなった話  第4話

目を覚ますと俺はまた病院にいた。 あの時と同じ病院のようだ。 病室に入ってきた斎藤さんが、俺の意識があるのを見て怯えた顔をしたあと、ベッドの側に来て「よかった……今、先生を呼んで来ますね」と言った。   医師の検診を受けしばらくボーッとしていると笠根さんが入ってきた。 「やあ前田さん、どうも」 そう言って笠根さんはベッド脇の椅子に腰かけた。 「無事……とは言えないけど、とりあえず元気そうでよかった」 さっきまでと服装が違う。 俺はつい今まで笠根さんのお寺にいたはずだが、まさかぶっ倒れたのだろうか ...

山に入れなくなった話  第3話

※登場人物が多くなったので名前を公開することにしました。 俺…前田浩二 看護師さん…斎藤さん ビデオに出ていた女の子…木崎美佳 霊媒師のおばさん…伊賀野トク子 「わかりました。ちょっと待っててくださいね」 そう言って斎藤さんは部屋を出て行った。 あたりは静まり返っている。 カーテンの隙間から窓が見えて目をそらす。 いるのか? 何が? あの映像に映っていた木崎美佳なのか? それとも木崎美佳の格好をした何かなのか? わからない。考えたくもない。でも何か考えていないと怖くて叫び出しそうだ。 目が、合ったからだろ ...

山に入れなくなった話  第2話

高校を卒業した俺は大学に進学せず映像系の専門学校に進んだ。 その学校の卒業生が立ち上げた代々木の小さな映像制作会社に就職したのだが、この選択がまずかった。 なんせ零細企業のため人がいない。 社長を含め5人しかいない会社なので、打ち合わせから撮影、編集に至るまで全てこなせないと仕事が回らないのだ。 当初は全ての制作過程に携われるのが楽しかったが、入社して3年も経った頃には段々と苦痛になっていった。 特に営業が辛かった。 先方の要望を聞き、おおよその予算を伝え、企画を取捨選択して実現可能なプロジェクトに落とし ...

山に入れなくなった話  第1話

子供の頃、俺は山で遭難したことがあった。 俺の地元は結構な田舎で小学校は人数が少なく、同学年は2、3人しかいない。 1~6年生全て合わせても20人ちょっとという有様で、それなりの校舎はあるものの全生徒が1つの教室で授業を受け、他の教室は無用の長物という扱いだった。 教室は1つで先生も1人。 まあ見事に過疎った町だったわけだが、当時の俺にはそれが普通でその町が世界の全てだった。   その日、俺は友達のAとBを連れて山に入ってみることにした。 普段から山には入るな、山に入るとモノノケに食われるぞ~と ...

首くくりの町  第11話 最終話

  それからは皐月も私も大変でした。 もちろん皐月の方が何百倍も苦しいのですが、私の方も寝るたびに皐月が怨霊に殺される様子を見るので全く体が休まらず、睡眠による疲労の回復などができないまま日々が過ぎていきました。 皐月がシズ婆さんのお役目を夢で見ているときは数日に一度という頻度でしたが、私と皐月のお役目コンビは毎日必ず怨霊に向き合っていました。 皐月の体は眠り続けたまま病院のサポートにより栄養が保たれているので大した変化はありませんでしたが、私の方はみるみる痩せていき、半年たった頃には自分でもオ ...

首くくりの町  第10話

  女は夫と子供の目の前で犯されて殺されました。 恐怖と苦痛で絶叫したら喉を潰つぶされました。 口から溢れ出た血で息が詰まり、何度も血が混ざった嘔吐をするうちに、女を犯していた男は興きょうが削そがれたのか女から離れ、隣に横たわる少女に跨またがりました。 少女は村の娘で女とも仲良しの子でした。 まだ生娘きむすめだったはずです。 痛みと憎しみで女の思考が真っ赤に塗りつぶされました。 殺してやる!そう念じて男に手を伸ばしました。 「あぁあ……ぉぁぁ……」 女の口から出たのは声にならない呻きでした。 い ...

首くくりの町  第9話

シズ婆さんの葬儀が執り行われ、町に再び怪異の影が落ちてきました。 三年前のように怪談話めいた現象が町のあちこちに起き始めたのです。 首吊り死体こそ出ませんでしたが、それも時間の問題のように感じられました。 一刻も早く次の祈祷を行う必要がある。 そのために急遽、神主さんが皆を集めて遺言を残すということになりました。 生前にお別れの挨拶を済ませ、その後、シズ婆さんと同様の祈祷を行なって怨霊を鎮めるための人柱となる儀式に臨むということでした。 神社の本堂に集まって神主さんからそれらの説明を受けました。 集まった ...

首くくりの町  第8話

年が明けてからも怪異は続きました。 後ろをついてくる影。 恐ろしいうめき声。 しかし首吊りに関しては私の清祓きよはらい以降発生していませんでした。 私の清祓い、というよりシズ婆さんの祈祷が効いたのでしょう。 年始を迎えた篠宮神社は大変な数の参拝客の対応に追われていました。 前年に始まった怪異のために誰もが神仏の加護を求めて神社やお寺にお参りしていたのでしょう。 その気持ちはよくわかります。 当然のように私達兄弟も手伝いのために神社に行きました。 普段は身につけない神職の装束しょうぞくに身を包み、例年に類を ...

首くくりの町  第7話

  私達は御神体ごしんたいに拝はいしてから集会所に移り、シズ婆さんの話を聞きました。 「宗比古、皆に出前を取ってやりな。皆も長くなるが聞いておくれ」 そう言ってシズ婆さんは話を始めました。 覚えている限り正確に書きます。 200年と少し前、江戸時代が末期にさしかかろうとしていたころ。 この辺りには◯◯という村がありました。 この村が核となり周りの村と合併を繰り返してできたのが今私達が住んでいる◯◯町です。 当時この地域には私達の町の基となる村々以外にも集落がありました。 今では存在しないその集落 ...

首くくりの町  第6話

あの日、大法要に参加したお坊さん数人が行方不明になっていました。 最初に氏子さんがお堂を飛び出して行った時に、追いかけていったお坊さん達でした。 翌日になって住職さんが神主さんに電話をかけてきて、こちらも注意するようにと言われたそうです。 氏子さんと私のことだと思います。 氏子さんは数日で退院しましたが、家から出られなくなってしまいました。 あの時おそらく氏子さんも見ていたのだと思います。 あの女の霊を。 そしてもっと恐ろしいことに、あの山犬の数だけ霊がいたとしたら、氏子さんは五人の悪霊になぶり殺しにされ ...

首くくりの町  第5話

住職さんの提案は頻発する怪異とその恐怖に怯える住人への対応として、地域の各宗教の指導者が連名で声明を出し、安心を呼びかけるというものでした。 そして可能ならば合同で何かしらの集会も開きたいと考えているようでした。 「確かに。ここまではっきりと怪異の正体がわかっているなら、住職さん達の方が具体的な対策も取れそうなんですよね」 神主さんが言いました。 「これはどちらがどうの、という話ではないんですが、私ら神社の考えでは悪霊を祓う、という積極的な儀式はないんです。私らが祓うのは災いや穢けがれですから、神社のお祓 ...

首くくりの町  第4話

その日から学校はしばらく休校になりました。 男性教諭の死はもちろんのこと、不可解な放送の原因がわからない以上、生徒の安全を担保たんぽできないというのが、連絡網を通じて回ってきた学校側の説明でした。 もっとも、あの恐ろしい声を聞いた生徒の多くが体調を崩していたので、学校側が決断しなくても程なく学級閉鎖などになったと思いますが。 そんなわけで、夏休みが終わったばかりだというのに私は、不意に訪れたあてのない休暇を持て余すことになりました。 兄も皐月も学校があるので遊ぶ相手がいません。 学校の友人達ともあまり積極 ...

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