山に入れなくなった話朗読バージョン

山に入れなくなった話【朗読用】  第13話

投稿日:2021年8月29日 更新日:

結果が出たのは篠宮さんが初めて来社してから一週間ほど経ってからだった。
この一週間でほとんどわかったというのだからライターというのは大したものだ。
最初にわかったのはアレの正体だった。
「まずはアレの正体ですね。アレは一般的にオバケと呼ばれるモノではありませんでした。アレはいわゆる鬼。オニです。人が死んで化けて出たのではなく、最初から鬼として生まれた、主に山などに住む妖怪ですね」
鬼。オニ。オバケではない。
だからあんなに生々しい食われ方だったのか。
「鬼については古今東西、強いのも弱いのも良いのも悪いのもいます。古い記録は平安時代以前まで遡れます。安倍晴明とか有名ですよね。鬼とは元々大陸の方から渡ってきた概念で、向こうではオバケ全般を鬼と呼んだりしてます」
篠宮さんは淀みなく続ける。

「日本では仏教や陰陽道などの独自の発展と共に大陸の概念とは違う進化を遂げます。昔から存在していた化け物や怪異なんかを鬼と呼ぶようになるんですね」
メモを開いてはいるが読んでいない。
鬼については常識だと言わんばかりにそらんじている。
子供に教えるような雰囲気だ。
「どうして鬼だとわかったかというと、私自身が何度も見ているからです。笠根さんに取材して映像を見せてもらった時に一発でわかりましたし、念のためにあの映像を母のスマホに送って確認してもらいました。間違いなく鬼です」
「え?…いや…篠宮さんは…アレを見たこと、あるんですか?」
「ありますよー。ウチの実家は神社なんで、あの手の物の怪に憑かれた人がよく来ますから」
「いやいやいや、伊賀野さんも嘉納康明も知らない風でしたよ?」
「伊賀野和美さんは力はそれなりですが、ぶっちゃけ経験不足は否めないですからね。嘉納康明は多分気づいてたと思いますけど、クライアントでもないのに詳しく説明する気は無かったんじゃないでしょうか。ちなみに嘉納康明の本名は佐々木祐一といいます。インチキではないんですがお金に対する執着が凄いので、いつかトチって死ぬんじゃないかと思ってます」
あれ?……んんー?……
「ちょっと待って…そしたら…俺は…とっとと篠宮さんにお願いしてれば、あんなことにならなかったってことですか?」
「いやーそれも難しいと思いますよ。私らはそういう商売してないですし、伊賀野和美さんや嘉納康明もちゃんとした霊媒師なのは間違いないですから。ウチの実家も田舎のマイナー神社なんで知る人ぞ知るって感じですから。東京で鬼に憑かれたんで九州の篠宮に頼むか、とはならないと思います」
それに、と続ける。
実によく喋る。
「前田さんに憑いた鬼は結構ヤバめな奴だったと思いますよ。いくらなんでも伊賀野トク子から正体を隠し通すなんて頭が回りすぎますね。多分過去にも何人か霊媒師や陰陽師と戦ってるんじゃないでしょうか。事前情報がなかったら私でもヤバかったかも」
そう言って頷く。
伊賀野トク子の顔を立てたのだろうか。
それとも本心だろうか。

「和美さんに取材に行った時にそのことも話し合いました。ちなみに和美さんは面会できるようになってましたよ。すごい回復力だそうです。それで、さすがに鬼が正体を見せた時には伊賀野トク子も気づいていた筈ですが、時すでに遅しって感じでやられちゃったんでしょうね。鬼と霊とではやり方が違いますから」
「やり方?」
「鬼はあやふやながらもちゃんと生きてますからね。強制的に成仏させるなんてできるはずがない。せいぜい仏の功徳で追っ払うくらいですか。伊賀野トク子に霊だと誤認させた時点で鬼の優勢は決まってた訳です」
「和美さんはそれを?」
「知らなかったみたいですね。前田さんの除霊をした時もまるっきり霊だと思ってたわけですから」
まったく、とため息をついて続ける。
「伊賀野トク子が死んでからの和美さんは修行のために色々な霊媒師の助言をもらって回った訳ですが、だーれも鬼についての可能性を教えてあげなかったんですから酷いもんですよね。いくら和美さんの霊力が強くても不利な状況じゃあの鬼は厳しかった。霊媒師なんて所詮は商売敵の足を引っ張るどうしようもないヤツらだってことですよ」
顔をしかめて首を左右に振りながら吐き捨てるように言う。

聞いていて俺も腹が立ってきた。
息も絶え絶えの伊賀野さんの姿が目に浮かぶ。
伊賀野さんがああなることを承知で、実際に何人も死んでいる訳でそうなることも承知で、鬼かもしれないという情報を黙ってたってのか。
嘉納康明の顔が眼に浮かぶ。
クズ野郎だ。
他の霊媒師もあんな奴ばかりなのか。
不当だ。
霊に苦しめられている人間をクライアントとしか認識してないってのか。
金を払えずに死んでいくのも市場の原理だってか。
そんな奴らこそ死ねばいいのに。
「ムカつきますね」
どうにかそれだけ口に出た。
自分のデスクで聞き耳を立てている同僚が頷いたのが見えた。

「まあ鬼についてはそんな感じです。かなり強力な鬼がいて、それが前田さんに取り憑いた。問題はなぜ前田さんに取り憑いたのか、ですよね」
篠宮さんが話題をシフトする。
「そうです。そこが一番の問題です」
同意して先を促す。
篠宮さんは「えーと…」と言いながらメモをめくっていく。
「前田さんに憑いた鬼が山の神様に食べられちゃったその日、なんですが」
メモを指で追いながら話す。
「前田さんの故郷の町、○○町ですね。そこで昔、前田さんと一緒に山に入って帰ってこなかったA君とB君…のご両親が亡くなってました」
んん?
「私が行った時はちょうど葬儀の日だったんですが、参列した方に話を聞いたところ、どうもA君とB君のご両親は同じ時刻に亡くなってるんです。それぞれの自宅で……。ということはですよ?私が思うにどうもその人達、前田さんに呪いをかけていたんじゃないかと」
呪い…AとBのおじさんおばさんが?
俺のことを恨んでいる、とは聞いていたが。
「そんな昔のことを……今になって……?」
「いや、おそらく前田さんが町を出てからずっと呪ってたんじゃないですかね。悪いモノを呼び寄せて祟る感じのやつだと思います。でも前田さんが山にも入らず心霊関係にも近寄らないで自衛してたんで、呪いは発動することなく停止してた」
ずっと……。
その言葉にぞわっと鳥肌がたった。
「そんな状況が何年も続いて、それであのビデオですよ。前田さんがあの映像で木崎美佳さんと目があった気がして、それで前田さんにかけられた呪いが発動しちゃった。前田さんが鬼に見つかった訳ではなく、前田さんにかけられた呪いが鬼を引き寄せたんですね」
必死に理解しようとするが、いまいち上手く飲み込めないでいる俺を尻目に篠宮さんが話を続ける。
「それで前田さんの呪いが失敗しちゃったんで、自分達でかけた呪いが自分達に当たって死んじゃったと。状況証拠しかないですが、まあこれが一番筋が通るかなーと思いますよ」
「俺が見つけた…」
「前田さんにかけられた呪いが、ですよ」
「それがアレを……」
「呼び寄せた。前田さんのせいではありません。むしろまんま被害者です。それは変わりませんよ」
「それで…アレが死んだから……」
「A君とB君のご両親が亡くなった。自らかけた呪いの呪い返しでね」
「…………」
ため息しか出ない。
ようやく理解した。
つまりアレはAとBのおじさんおばさんが呼び寄せたんだ。
俺に取り憑くように。
「…………」
そこまで恨んでたのか。
理解はできる。
自分達の息子が帰ってこないで年長の俺だけが戻ったのだから。
恨みたい気持ちもあるだろう。
「…………」
だが納得はできない。
死ぬのが、あるいはあんな思いをしたのが当然だったなどと言わせはしない。
自業自得だ。
おじさんおばさんのことは覚えているけれど、俺を呪ってアレをけしかけてきたというのが本当ならば俺は許せない。
「…………」
だが彼らは死んだのだ。
俺を呪ったりしたから。
自分達に呪いが帰ってきた。
まさに自業自得だ。
「…………」
言葉が出てこない。
なんと言えば良いのかわからない。

「あああーーもーー!!!」
黙っていると同僚が突然叫んだ。
頭をガシガシと掻いている。
「なんなのそれ!逆恨みもいいとこじゃん!」
「まあ、そうですねー。完全に逆恨みです」
篠宮さんは逆に冷めた様子だ。
「死んで当然だよ!先輩のこと殺そうとしたんでしょ!?」
同僚は手をバタバタ振りながら続ける。
相当憤慨しているようだ。
「あー、まあ、なんだ、落ち着け」
「なによ!先輩は頭に来ないわけ?」
「いやいやめっちゃ腹立つよ。ありがとうそんなに怒ってくれて」
右手を軽く挙げて同僚に同意の意を示す。
なんと言っていいのかわからなかったから、同僚が代わりに怒りをぶちまけてくれて助かった。
言いたいことを言ってくれた。
それは素直に嬉しかった。
「腹立つのは間違いないけど、なんか実感がわかないんだよ。マジかーって感じで」
「本当ですよ?あの人達が前田さんを呪っていたのはほぼ確定です」
篠宮さんが合いの手を入れる。
「だから君がそんなに怒ってくれて助かった。言いたいこと言ってくれてありがとう」
「いや、なに……そんなに素直に言われると…なんだかなー……」
同僚は照れたのか、勢いを失って椅子に座った。
「まあそれでいいですよ。アレをけしかけてきたのはAとBの親で、失敗したから自分達が死んだ。もう誰も責められない。それでいい」
「前田さんがいいならこの問題は終わりです。あとは例の神様に関してですかね」
「ですね。そこもめっちゃ重要」
篠宮さんがメモをめくる。
「前田さんの地元に行った時に、山に入ろうとしたんですが、例の狐さんが待ち構えてました」
笠根さんが見ていた狐か。
「国道?県道?みたいな道路で山に向かって、ちょうど止めやすいところでタクシーに止まってもらって、山に入るかなーって考えてたんですけど、狐さんがこっち見てるのが見えて、あ、バレてるなと」
篠宮さんが淡々と続ける。
「一応対話を試みたんですけど、何を言っても反応なし。それで山にちょっとだけ入ろうとしたら、ウチの神様がやめとけーって言ってる気がして、それ以上は入れませんでした」
笠根さんがビビって病院に入って来れなかった狐。
やはりあの神様の使いなのか。
あるいは神様の仮の姿か。
篠宮さんがどんな力を持っているのかわからないが、それでも危険な狐には違いないようだ。
「だからここからは考察になります。調査報告としては若干弱い気もしますが、まあ聞いてください」

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やこう

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