山に入れなくなった話朗読バージョン

山に入れなくなった話【朗読用】  第14話

「ウチの母に事の顛末を説明して、それで例の神様についてどう思うかを聞いてみたんです。なので私の考察というよりは母の考察ですね。私を通してウチの神様もある程度は事情をわかってくれてるはずですから、その神様と母の言うことが今のところ最も信憑性があると思っています。母が直接前田さんとお話ししたいと言うので、今から電話しますね」 篠宮さんがスマホを取り出し電話をかける。 ここにきて新たな人物か。 しかも母とは。 実家が神社と言っていたな。 女性が神主なのだろうか。 「もしもし?お母さん?今から大丈夫?うん、うん、 ...

山に入れなくなった話【朗読用】  第13話

結果が出たのは篠宮さんが初めて来社してから一週間ほど経ってからだった。 この一週間でほとんどわかったというのだからライターというのは大したものだ。 最初にわかったのはアレの正体だった。 「まずはアレの正体ですね。アレは一般的にオバケと呼ばれるモノではありませんでした。アレはいわゆる鬼。オニです。人が死んで化けて出たのではなく、最初から鬼として生まれた、主に山などに住む妖怪ですね」 鬼。オニ。オバケではない。 だからあんなに生々しい食われ方だったのか。 「鬼については古今東西、強いのも弱いのも良いのも悪いの ...

山に入れなくなった話【朗読用】  第12話

《月刊OH!カルト》編集者 篠宮水無月 ライターさんが差し出した名刺にはそう印刷されていた。 クソみたいな名前の雑誌だなと思いつつ軽く談笑する。 この手のオカルト系雑誌は今まで積極的に避けてきたので詳しくはない。 この雑誌が有名なのかどうかも全くわからない。 「マニア向けジャンルですからねー。知る人ぞ知るって感じです。根強いファンがいますから時代に左右されないでそこそこの部数をキープしてます」 篠宮さんは長い髪をゆる巻きにしてまとめた感じのアクティブ系女子で、ジャケットにジーンズというラフなスタイルだった ...

山に入れなくなった話【朗読用】  第11話

振り返ってみれば一連の怪現象に悩まされたのはたった四日間の出来事だった。 あのビデオ編集の仕事をした日から数えると結構な日数になるのだが、伊賀野トク子の死を知り、寺社を巡って御守りやお札を集め始めたのはつい六日前のことだ。 「…………」 凄まじい四日間だった。 あの霊に翻弄され続けた四日間。 特に最期の二日間はキツかった。 木崎美佳の姿をしたアレにつきまとわれ、最悪なことに死人まで出てしまった。 「……………」 タッキーと伊賀野さんのお弟子さん達。 取り返しのつかない犠牲を思うと辛い。 しかし不謹慎だが、 ...

山に入れなくなった話【朗読用】  第10話

時刻は23時になろうとしている。 周りは暗く人の気配はない。 昼間は賑わっているであろう土産物屋も全て閉まっている。 高尾山の山道入り口まで車で入り込み、高尾山薬王院という石碑が立っている道を車で進む。 一般車両進入禁止の看板があったが、笠根さんに無理を言って侵入してもらった。 車で行ける限界まで進み、車を降りる。 後は徒歩で登っていくしかない。 高尾山に向かう道中で調べたのだが、高尾山には登山道がいくつかあり、登山道によって難易度が全然違うらしく、もっとも険しい道はまるっきり山道で、もっとも楽な道はある ...

山に入れなくなった話【朗読用】  第9話

夕方まであてどもなく渋谷の街を歩いた。 腹が減ったらファーストフードで飯を食い、店から出たらまた歩き続けた。 途中何度も木崎美佳の姿をしたモノがちょっかいをかけてきた。 背中の後ろで気味悪く笑ったかと思うと、交差点の向こう側でこっちを見ていたり、ファーストフードの店内で机の下から俺を見上げていたり、トイレを終えて手を洗う時に鏡の中から俺を見ていたり、もうありとあらゆるタイミングで存在をアピールしてきやがる。 「くそったれ」 木崎美佳がちょっかいをかけてくるたびに罵倒の言葉を吐いたが、木崎美佳は気持ち悪い笑 ...

山に入れなくなった話【朗読用】  第8話

俺が目を覚ましたのは除霊の翌日だったらしい。 点滴がされていなかったのは、ただ単に眠っていただけだったからだ。 伊賀野トク子に続いて娘の和美もやられた。 もう伊賀野庵は無くなるかもしれないと笠根さんは言った。 そして「手を引きたい」とも。 「正直言って私にできることはもう何も見当たりません。いや、本山に連絡するくらいはできますが、それでも解決するかどうか、って感じです。それほど伊賀野さん達は凄かった。これ以上何かしても被害を増やすだけのような……ああ、すいません。前田さんに言うことじゃなかった。申し訳ない ...

山に入れなくなった話【朗読用】  第7話

目を覚ますと俺はまた病院にいた。 あの時と同じ病院のようだ。 病室に入ってきた斎藤さいとうさんが、俺の意識があるのを見て怯えた顔をしたあと、ベッドの側に来て「よかった……今、先生を呼んで来ますね」と言った。 医師の検診を受けしばらくボーッとしていると笠根かさねさんが入ってきた。 「やあ前田さん、どうも」 そう言って笠根さんはベッド脇の椅子に腰かけた。 「無事……とは言えないけど、とりあえず元気そうでよかった」 さっきまでと服装が違う。 俺はつい今まで笠根さんのお寺にいたはずだが、まさかぶっ倒れたのだろうか ...

山に入れなくなった話【朗読用】  第6話

忙しげに準備をする笠根かさねさんとタッキーを見ながら俺は応接ソファに体を預けている。 頼もしい気持ちと共に不安が押し寄せてくる。 いきなりバトル、とはすぐに除霊を行うということだろう。 あの映像のように、今度は俺が本堂の真ん中に正座して首を垂れる側になるのだろうか。 あの時の木崎美佳きざきみかはぐったりというか、朦朧としていたようだった。 俺もあんな風になるのだろうか。 怖い。 窓の外を見ると昼の日差しが明るく庭を照らしている。 全て解決すればいいのだが。 いや、解決してくれなくては困る。 手首につけた数 ...

山に入れなくなった話【朗読用】  第5話

笠根かさねさんと別れたあと、俺は夜間出入り口から病院内に入った。 病棟まで戻ると斎藤さんが俺を見つけて近寄ってきた。 「どうでしたか?」 心配そうに聞いてくる。 優しい人だ本当に。 「おかげさまでなんとかなりそうです」 そう言うと彼女はホッとしたようにため息をつき「よかった…」と言った。 惚れてしまいそうだった。 病室に戻るのは若干怖かったが、笠根さんの言葉を信じてベッドに横たわる。 あっという間に疲れが襲ってきて、何を考える間もなく俺は意識を手放した。 朝まで熟睡できたのは数珠のおかげだったのだろうか、 ...

山に入れなくなった話【朗読用】  第4話

「わかりました。ちょっと待っててくださいね」 そう言って看護師・斎藤さいとうさんは部屋を出て行った。 あたりは静まり返っている。 カーテンの隙間から窓が見えて目をそらす。 いるのか? 何が? あの映像に映っていた木崎美佳きざきみかなのか? それとも木崎美佳の格好をした何かなのか? わからない。考えたくもない。でも何か考えていないと怖くて叫び出しそうだ。 目が、合ったからだろうか。 ディレクターのところに行かず俺のところに来たのは、編集作業中に拡大して確認していたからなのか? 撮影した会社はもうないらしい。 ...

山に入れなくなった話【朗読用】  第3話

暮れ始めた街はまだ明るく少し不安が薄れるが、漠然とした焦りのような感覚が足を動かす。 仕事をしすぎたせいか肩が少し重い。 揉みほぐしマッサージに行こうか。 渋谷に着いてもやることなんかなくて、あちこち行ったり来たりしながらひたすら歩いた。 肩が重い。 特に右肩が凝っているようだ。 ふと気がつくと代々木公園に戻ってきていた。 犬を連れている老人が歩いてくる。 カップルや学生が楽しそうに話している。 ベンチに座ってワンカップを飲むサラリーマンが見える。 いつもの光景だ。 「おいあんた」 犬を連れた老人とすれ違 ...

山に入れなくなった話【朗読用】  第2話

高校を卒業した俺は大学に進学せず映像系の専門学校に進んだ。 その学校の卒業生が立ち上げた代々木の小さな映像制作会社に就職したのだが、この選択がまずかった。 なんせ零細企業のため人がいない。 社長を含め5人しかいない会社なので、打ち合わせから撮影、編集に至るまで全てこなせないと仕事が回らないのだ。 当初は全ての制作過程に携われるのが楽しかったが、入社して3年も経った頃には段々と苦痛になっていった。 特に営業が辛かった。 先方の要望を聞き、おおよその予算を伝え、企画を取捨選択して実現可能なプロジェクトに落とし ...

山に入れなくなった話【朗読用】  第1話

子供の頃、俺・前田浩二まえだこうじは山で遭難したことがあった。 俺の地元は結構な田舎で小学校は人数が少なく、同学年は2、3人しかいない。 1~6年生全て合わせても20人ちょっとという有様で、それなりの校舎はあるものの全生徒が1つの教室で授業を受け、他の教室は無用の長物という扱いだった。 教室は1つで先生も1人。 まあ見事に過疎った町だったわけだが、当時の俺にはそれが普通でその町が世界の全てだった。   その日、俺は友達のAとBを連れて山に入ってみることにした。 普段から山には入るな、山に入るとモ ...

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