第七作 呪の曙(しゅのあけぼの)

第一部 二話 望まぬ再会

投稿日:2021年12月30日 更新日:

前回のあらすじ

天道宗によるヨミ騒動や邪悪な箱の呪術を受け団結する霊能者達。
月刊OH!カルトでの特集をラジオでも拡散するべくジローに依頼する水無月。
リスナーから相談を受け呪術の施された箱を回収し、伊賀野庵で除霊を行う。
伊賀野和美の除霊に感銘を受けたジローは、伊賀野・笠根・水無月に出演を依頼する。

「はい。今夜も始まりました。毎週金曜の夜にお届けする怪奇な番組『怪談ナイト』のお時間です」
阿部ちゃんのキューに合わせていつも通りの言葉で喋り始める。
いつもは小林さんと2人きりなので、5人もいると放送ブースが狭く感じる。

俺の対面に座っている笠根氏は、拝み倒してなんとか出演を了承してもらい、笠根氏の隣に座る篠宮さんは雑誌の宣伝になるとノリノリで出演OK。
意外だったのは伊賀野氏も若干乗り気で出演を快諾してくれたことだ。
ゆくゆくは伊賀野庵の二代目として、積極的にメディアを利用したいと考えているとのことで、その練習にちょうど良いと思ったそうだ。

「というわけで本日は月刊OH!カルトの天道宗特集に出演というか、取り上げられた3人の霊能者の方にお越しいただいています」
軽くツカミのトークをした後で本日もスペシャル企画をお届けすると伝えて、篠宮さん達を紹介する。
現役の僧侶であり霊能者でもあるK氏とI氏、OH!カルトの編集者であり専業では無いものの霊能者として除霊に参加したS氏、という具合だ。
さすがに天道宗というテロ集団を相手に敵対する以上、実名は伏せての出演となった。

K氏、I氏、S氏それぞれの名前を紹介し、まずはOH!カルト編集者のS氏であるところの篠宮さんに話を振る。
「えー、まずですね、Sさん、雑誌の反響はどんな感じですか?」
イニシャルトークに慣れていないせいで戸惑い、なんともフワッとした質問になってしまった。
そんな質問にも篠宮さんのトークは最初から冴え渡る。

「はい。先週の放送前にジローさんにお伝えした以上に問い合わせが来ています。実家が天道宗という相談が5件以上、宗教関係や霊能者からの問合せやヘルプ依頼がなんと7件、箱を送られて脅されている方からの相談が3件、天道宗を脱退したっていう報告は10件以上。思った以上に宗教関係からの問い合わせが多い感じですね」
「ということはOH!カルトさんの特集以前から、お寺や神社なんかに天道宗の箱についての相談は結構あったってことかな」
「そうだと思います。天道宗は少なくとも大正時代には活動していることがわかってますし、その時から呪術を駆使してなんらかの準備をしていたなら、現在はすごい数の箱があると考えた方がいいでしょうね」
「準備、というとし…Sさんは天道宗の目的がある程度想像できてるんですか?」
危うく篠宮さんと声に出してしまいそうになる。
気をつけねば。
「いえ、目的については全く分かりません。呪術を生業にしてるだけかもしれませんし、なんらかの大きな目的を企んでいるのかもしれません」
「なるほど」
「弊誌としては誌面とネットで情報を募集しつつ、寄せられた個別の相談に対処していくという感じです」

そこで伊賀野氏が黙って挙手をした。
喋り続けようとする篠宮さんを手で制して、視線で伊賀野氏に発言を促すべく話題を振る。
「ここでもうお二人のゲストにもお話を伺いたいと思います。えー、まずIさん、は女性の僧侶の方で、先日Twitterで載せたリスナーさんの家にあった箱を除霊…浄霊?していただいた霊能者です。Iさん、先日は大変お世話になりました」
「いえいえ。思った以上にスムーズに終わったので安心しました」

まずは伊賀野氏の紹介と先週の除霊の説明をする。
「えーとですね、これはTwitterでも報告したんですが、先週の放送の後にリスナーさんの実家にあった箱をIさんのお寺に持ち込んで、その場で除霊ということになったわけなんですが、その場には俺もいまして、Iさんの除霊を見たんですけど、なんというかこう、気合が凄くてですね、霊に対して一歩も引かないという感じで、めちゃくちゃ格好良かったなと」
俺の素直な感想に伊賀野氏がクスリと笑う。
「いえいえ。まだまだ修行中の身ですけど、ああいう庵…ホームでの除霊なら負けることはないかなと」
「まさに戦いという感じでした。負傷された傷は大丈夫でしたか?」
「ええ、少々火傷をしただけですから」
さすがに緊張しているのか、伊賀野氏の返答は簡潔なものだ。
当たり前だ。
はじめてのラジオ出演でベラベラ喋れる篠宮さんが異常なのだ。

伊賀野氏のトークを引き出すべく俺は伊賀野氏の除霊がいかに格好良かったかをリスナーさんに伝える。
燃え上がる護摩の炎。
それを意にも介さず火傷を負いながら読経を続ける伊賀野氏。
俺には黒い靄にしか見えなかったが武士の霊が箱から出てきたこと。
伊賀野氏に切り掛かるも伊賀野氏が完封して、観念した武士の霊が消滅していったこと。
その時代の霊にはお経が効果的であること。
そんなことを篠宮さんの合いの手も借りながら面白おかしく報告する。
クスクスと上品に笑いながら伊賀野氏の返答も滑らかになっていく。
笠根氏はさっきから笑顔でウンウンと頷くばかりだ。

「それでIさんは天道宗の問題について、どのような考え、というか、印象をお持ちなんでしょうか?」
準備運動はバッチリだろう。
伊賀野氏はハイと答えて落ち着いて喋り始める。
「もしも天道宗がテロ集団だとすると、たとえばオウム真理教のような、国家に仇なすことを目的としているなら、細かい邪魔を繰り返すことで計画を頓挫させられるのではないかと思います」
それは現状を続けるということだろう。
「厄介なのは大層な目的など持っていない、ただの無法者の呪術集団だった場合です。これはもうヤクザと同じですから、一人一人探し出して捕まえるしかない。それこそ警察なりなんなりに対処してもらうのが一番です」
「呪術を使って悪さをしている集団を警察がなんとかできるものでしょうか?」
「そこはなんとも言えないですね。警察から問い合わせが来るならいくらでも協力しますけど、現状では厳しいのかなとも思います。箱を送られて脅されていた方が被害届を出そうとしたそうですが、取り合ってもらえなかったようです」

それに、と伊賀野氏が続ける。
興が乗ったのか伊賀野氏の言葉も淀みなく出てくる。
「呪術を生業としている無法者の集団だった場合、ヨミの騒動は明らかに示威行動なわけですよね。多くの人を自殺に追い込む凶悪性も含めて、我々はここまでやるぞと」
そうだ。
だが誰に対して?
「示威行動となると、一体誰に対して行ったのかという訳ですけど、そこはどう思いますか?」
意地悪かなと思いつつ聞いてみる。
そんなもんわかるわけないからだ。

伊賀野氏は一瞬言葉に詰まったが、すぐに気を取り直した。
「正確なことは分かりません。パッと思いつくのはふた通りですね。国民全体に対しての示威行動。後でなんらかの声明を発表して彼らの要求を訴えるかもしれない。もう一つは対立する呪術集団に対する示威行動。対立する相手とは我々のような霊能者かもしれませんし、他の特定の勢力かもしれません」
特定の勢力。
「ヤクザ同士の抗争みたいな感じ?」
「そんな感じですかね。まあ全然根拠のない、ただの想像ですけれど」
「とはいえ現状ではそれ以上の想定はできないか。Kさんはどう思いますか?」
ここで唐突だが笠根氏に話を振ってみる。
「へ?……ああ……はい。私もそう思います」
そう言って大きく頷く。
ホントに聞いてたのかよと思いつつ笠根氏のこともリスナーさんに紹介する。

「えー、Kさんは男性の霊能者で、SさんIさんと同様に鑑定ライブ事件の時や先日の箱の除霊でお世話になった方です。非常に温厚で霊の心を解きほぐすことにかけては超一流だと、そういう「お坊さんらしいお坊さん」という方です」
俺は直接見たことはないが、伊賀野氏から聞いた笠根氏の特徴はそんな感じだ。
「いやあ…はっはっは。私は単にオマケみたいなもんですからな。そういうのは篠…SさんやIさんに考えてもらうのが一番だと思いますなあ」
「…………」
ぶん投げやがった。
ラジオの本番だというのに『わかりません』だけで終わらせやがった。
「は…はあ、そうですか」
笠根氏らしいとはいえ、これでは拝み倒してまで出演してもらった意味がない。
まあ篠宮さんと伊賀野氏がいれば充分なのだが。
そんなこんなで天道宗に対する考察や今後の展望などを話してもらい、その日の放送は終わった。

「お疲れ様でした。篠宮さんも伊賀野さんもバッチリ!ありがとうございました」
そうお礼をすると2人は笑顔で頷き、笠根氏もハッハッハと笑った。
ツッコミを入れるべきか迷ったがスルーして、今後ともよろしくということでその日は解散となった。
リスナーさんからの反響も上々。
天道宗についての新たな情報はなかったが、箱やヨミに対処することのできる霊能者がいるということを、世に訴えることができたのは大きな成果だ。

民明放送のエントランスでゲスト3人を見送る。
笠根氏が道路に出てタクシーを停める。
エントランス前に横付けしたタクシーに3人揃って乗り込むのを見守る。
最後に篠宮さんがタクシーに乗り込む時、一瞬俺を振り返り、はてというふうに首を捻った。
何か気になることでもあったのかと思ったが、そのままタクシーに乗り込んだので気にしないことにした。

俺も阿部ちゃんと小林さんに軽く挨拶してタクシーを停める。
はっきり「空車」と表示してあるのを確認したはずだった。
タクシーの後部ドアが開き、左側のシートに座る。
タクシーのドアが閉まり、少し身を乗り出して運転手さんに行き先を告げる。
運転手さんの了解の返事を受けて座席に身を預ける。

行き先を告げるために身を乗り出したその一瞬の隙をついたように、俺の隣、右側のシートに誰かが座っていた。
「…………!」
ビクッと右に振り向いて、そのままソイツから距離を取る。
「う……ぁ……」
なんでこいつがここに。
左側のドアに背中を押しつけたままソイツを凝視する。
嘘だろ。
「………勧請院さん………」
突然現れたソイツは、鑑定ライブの事件で女の霊に取り憑かれ、行方不明になった勧請院さんだった。

「どうかしましたか?」
運転手さんが聞いてくる。
「あ…開けて……ドア…ドア開けて!」
はい?と怪訝な顔をする運転手さんにイラついてしまう。
「なんでコイツがここに乗ってるんだ!」
はあ?と明らかに面倒臭そうな声を出す運転手さん。
「一緒に乗ってきたじゃないですか。車出していいんですか?」
「だから開けてって……」
そう言おうとした時、俺の右足の膝に勧請院さんが手を置いた。
再びビクッと勧請院さんに顔を向ける。
「う…ぅ……」
混乱と恐怖で声が漏れる。
「……なんで……」
そこにいたのは勧請院さんではなく、あの女の霊だった。

着ている服は一緒なのに顔だけが違う。
意味がわからない。
いや、病院の時と同じだ。
それでも意味わからないが。
女の霊は気持ち悪い笑みを浮かべて俺を見ている。
その顔を見た途端、全身が震え始めた。
あの時の恐怖が蘇ってくる。

女の霊はニヤけたままの口元に人差し指を立てた。
黙れということだろう。
それから運転手さんに向かって、
「騒いですいません。もう大丈夫ですから出発してください」
と言った。

「…………」
何分たっただろうか。
走り出した車の中で、俺はひたすら窓の外を眺めている。
頭から吹き出した汗が顎を伝って脚を濡らす。
さっきから頭の中は疑問で溢れかえっている。
なんだこれ?なんでこの女が乗ってる?一緒に乗り込んだ?いやいやありえないでしょ。なんで?なんで?なんで?

「ジローさん」
降りよう。そうだ。次の信号で停まったら千円札出して、お釣りはいいからと言って手動でドア開けて飛び出せば……財布に千円札あったっけ?ああくそ、わからない。いつものようにスマホ決済してる余裕はない。いっそのことコイツに支払い押し付けるか?その隙に逃げられる?そうだ。そうだ。とにかく逃げなければ。
「ジローさん」
あの信号で停まりそうだ。
ゆっくりと速度が落ちていく。
よし…よし…停まれ…停まった!…行くぞ行くぞ行くぞ……!
「ジローさんっ」
ドアを開けようとしたその時、右肩に手を置かれ強めに呼びかけられた。
「うわっ!」
ビクッと体を震わせて手を振り払い、俺はまたドアに体を押し付ける。
目を向けると、そこには女の霊ではなく勧請院さんの顔が俺を見ていた。

「ジローさん、ちょっとだけ落ち着きましょう。ね?」
勧請院さんは困ったような顔で俺を見ている。
「なんで…なんでアンタが……」
「何もしませんから、とりあえず落ち着いてください。そうじゃないとまたあの子が怒って出てきちゃうから」
あの子。
ということは今喋っているのは本物の勧請院さんなのだろうか。
「わかった……わかりました。とりあえず、何もしないってことなら……はい…落ち着いた……大丈夫です」
深呼吸を数度繰り返して無理やりにでも気持ちを切り替える。
あの女にだけは会いたくない。
勧請院さんとアイツが別人格だというなら、ずっと勧請院さんでいてもらわなければ。

あの時、病室で押さえつけられた時の絶望感を思い出して震えていた体が、幾分か落ち着いた気がする。
それでも胃の奥に重く沈む不安は消えない。
「驚かせてごめんなさい。どうしてもジローさんと会う必要があって。本当に何もしないから少しだけ話をさせてください」
勧請院さんはそう言うと俺の目を見たまま黙った。
嫌だ。
逃げたい。
けどきっと逃げられない。
勧請院さんが取り憑かれたままなら、あの時のように恐怖で俺を従わせることもするだろう。
「は…話す…だけなら」
今は従うしかなかった。

「まずは先日のことを謝らせてほしいんです」
俺の混乱が落ち着くのを待って、勧請院さんが話し始めた。
「傷つけてしまって申し訳ありません。手首の具合はどうですか?」
意外なことに勧請院さんは手首のことを謝ってきた。
とっくにギブスは取れているし、後遺症もない。
「ああ、もう全然大丈夫です。それに…折ったのはあなたじゃないでしょ」
右の手首を動かして見せる。
あの女でなく勧請院さんと話せることで幾分か落ち着いたのか、言葉も問題なく出てくる。

「私がしっかりしていれば、あの子に取り憑かれることもなかったんですから、やっぱり謝らなきゃって思って」
「あの子…っていうのは勧請院さんに取り憑いている奴ですよね?今はどういう状態なんですか?」
勧請院さんは少しだけ考えるように手元に目を落として、そのまま喋り出した。
「今は私とあの子の意識は完全に別れています。あの時はお父さんのこととか、あの子の意識がグチャグチャだったりとか、そういうのが色々あって混乱していたんですけど、今はもう大丈夫…ではないんですけど、とりあえずこうしてお話しするくらいはできるようになりました」
「大丈夫ではない?」
そう聞き返すと勧請院さんはハイと言って悲しそうな顔をした。

「あの子は私の体から出て行くつもりはなくて、殺されてからも箱の中で苦しめられて、どうしても許せないって、復讐を果たした後は私の体を使って人生をやり直す気でいるようなんです」
淡々と、とんでもないことを言い出した。
「私はもちろん嫌ですし実際に色々と対抗手段を取っていますけど、あの子の怒りが強すぎて、その怒りに私自身が引っ張られちゃって、うまく言えないんですけど…あの子に共感?しちゃってる部分もあって、あの子もあの子でお父さんのことをすごく悔やんでいて、お互いがお互いの感情で絡まり合っちゃってる感じなんです。わかりますか?」
溶け合う、という言葉が頭に浮かんだ。
考えを口に出してみる。
「うーん、霊って霊同士で混ざり合っちゃうこともあるし、あの箱の呪術が霊を閉じ込めて食い合わせる蠱毒なわけだから、その影響を受けたあの女の霊が勧請院さんと混ざっちゃったってことなんでしょうけど」
「そうですね。私も同じような考えです」
勧請院さんは俺の考えに頷いた。
会話が成立していることで少し安心できた気がする。
「でもそれはいいんです。私の状態を解決するためにジローさんに会いにきたわけではないので」
そりゃそうか。
取り憑かれたとはいえ勧請院さんは現役の霊能者だ。
俺なんかに相談するメリットはない。

「と言うと?」
「ジローさんが言っていた天道について、何かわかったことはありますか?」
天道。
勧請院さんも天道宗のことを調べるつもりなのか。
そういえばさっき復讐と言っていたな。
「あの子自身の怒りの大半は、あの子を殺した男達と、あの子を苦しめた天道に向けられているんです。男達の方はもうカタをつけたので、後は天道に復讐をすることであの子の怒りに一つの区切りをつけられる」
男達……どのようにカタをつけたのかは聞く気がしない。
俺と同じように痛めつけたのか、あるいはーー。
「ジローさんが分かっていることを教えてくれませんか?」
天道宗の情報を寄越せと、そのために俺に接触してきたのか。

「…………」
いいのだろうか。
情報を漏らして。
頭に浮かんだ考えを即座に否定する。
いい訳がない。
俺が知ってることは、篠宮さん達が力を尽くして集めた大切な情報だ。
勧請院さん、というよりあの女の霊の目的が天道宗への復讐だとしても、簡単に情報を漏らしていいはずがない。

「お願いします。ジローさん」
黙ったままでいる俺に勧請院さんが追い討ちをかけてくる。
ダンマリは通用しないだろう。
あの女の霊を怒らせて、また手首を折られてはたまったものではない。
俺はこれまでの放送で喋った内容、つまり公開情報のみを伝えることにした。

女の霊を閉じ込めていた箱を作ったのが天道宗という団体であること。
箱はまだまだあって脅迫の道具としても使われていること。
天道宗がヨミを作り出して集団自殺を繰り返したこと。
丸山理恵という被害者が警官に射殺され、ヨミの霊を除霊したこと。
送られて来ている相談に対応するうちに幾つかの箱を除霊あるいは浄霊したこと。
それらを当たり障りのない範囲で伝えた。

言わなかったのは天道宗の拠点がいくつか分かっていることと、中国人の勢力が怪しげな動きをしていて、おそらくは俺達以上に天道宗に迫っていること、そして丸山理恵の霊を伊賀野氏が保護していることだ。
勧請院さんからの質問にも慎重に答える。
どうにかボロを出さずに公開情報のみで全てを話し終えた、つもりだった。

「ジローさん、他にも知ってることがあるんじゃないですか?」
俺の話を聞き終えた勧請院さんがそう言った。
それまでの質問と同じように、至って普通の口調で、しかしハッキリと続きを促す意図を込めた視線を俺に向ける。
「…………」
バレてるのか?
それともカマをかけてるだけ?
ああクソ、うまい返しが思いつかない。
どうすればいいんだ。
どうすれば……。

「はい、お待たせしました。ご利用ありがとうございます」
ふいに運転手さんが声をかけてきた。
気がつけば車が停まっている。
場所は俺が行き先に指定したコンビニの駐車場。
つまり俺の自宅があるマンションのすぐ近くだ。
いつものようにスマホ決済で支払いタクシーを降りる。
当然ながら勧請院さんも降りてくる。

深夜のコンビニの駐車場。
周囲に人影はない。
「ジローさんの家で続けますか?」
普通なら「それでは今日はこの辺で」という場面だが、勧請院さんにはまったくそんなそぶりはない。
当然のように話の続きがあると確信している。
「いや…もう話は全部……」
そう言ってしまった時、ふいにどこかで言い争う女性の声が聞こえた。

「……愛梨!…………何してるのダメだよ!……」
金切り声というのだろうか。
女性の悲鳴のような声が頭上から聞こえる。
マンションの窓を開けっぱなしにしているのだろう。
深夜にもかかわらず大声で何かを言っている。
不安を掻き立てる絶叫に驚いて上を見上げるが、どこから声が聞こえてきたのかまではわからなかった。

「いいから知ってること全部話してくれない?ジローさん」
目の前の勧請院さんの雰囲気が変わった。
冷たい声に視線を戻して勧請院さんに向き直る。
冷や汗が背中を伝う嫌な感触。
「い…いや……あの……」
待ってくれ。
俺は勧請院さんと話をしているんだ。
オマエじゃない。

「私からお願いした方がいいのかな?」
再び全身が震え出す。
つい今まで勧請院さんだったソレは、どうしようも無いほど明らかに、あの女の霊の顔をしていた。
「待って……ちょ…待って…」
女の霊がゆっくりと近づいてくる。
俺は両手を胸の前に上げて後ずさる。
「ねえ、ジローさん」
女の霊は無表情に俺を見ている。
ゆっくりと確実に歩みを進め、距離を詰めてくる。
俺の方は膝がガクガク震えてまともに後ずさることもできない。
無様に足を引き摺りながら、どうにか女の霊から距離を取ろうと足を動かす。
「待って……待って……」
うわ言みたいに繰り返す俺を嘲笑うように、女の霊が気持ち悪い笑みを浮かべて、目の前のマンションの上の方を指差す。
先ほど上のほうで叫んでいた女性の声が再び大きく響いた。

「……愛梨!!……」
泣き叫ぶような絶叫にびっくりして、女の霊が指差す方を見上げると、マンションの4階か5階あたりに窓枠を乗り越えようとする人影が見えた。
目の前の女の霊から目を背けたかったからかもしれない。
俺の目はその窓に釘付けになった。
窓枠を乗り越えた人影が真っ逆さまに落下するのを、俺はまるでスローモーションのように眺めている。
少女だ。
おそらく中学生か高校生の。
その顔までハッキリと見える。
俺を見ている。
取り返しのつかないことをしたという絶望の表情で、飛び降りるつもりなんかなかったという後悔の表情で、どうして私がという戸惑いの表情で、俺を見ていた。

3秒にも満たない落下の瞬間にさまざまなイメージが頭に流れ込んでくる。
直前まで少女がいた部屋には泣き叫ぶ同級生がいて、パソコンにはさっきまであの女の霊が写り込んでいた。
『心霊写真鑑定ライブ』だ。
直感でそう確信した。
なぜか数ヶ月も前の情景を俺は見ていた。
あの放送を見て飛び降りてしまったリスナーさんの、その最後の瞬間を、俺は幻視しているのだ。
瞬きするほどの間にそれらがわかって、俺は自分を見つめながら落下する少女の顔をあらためて見る。
絶望や後悔の中に、決して俺を許さないという非難の色が見えた。
その直後、ドチャ…という音と共に少女の体は地面に叩きつけられ潰れた。

「あ……あぁ……あ……」
あまりの光景に言葉が出ない。
意味のない呻き声だけが口から出てくる。
目の前には潰れた少女の体。
手足はバラバラに折れ曲がり、人間らしからぬ角度にへし折れた首と頭がこっちを向いている。
「やめ……み…見るな……」
少女の目が俺を見ている。
潰れた体で、命のない瞳で、憎しみの感情を伝えてくる。
「う……あ……」
心臓が爆発したように激しく脈打っている。
頭の中にガンガンと鳴り響く鼓動の音がうるさい。
全身から吹き出した汗が不快で僅かに気を取り戻す。
「なんだこれ……」
目の前の光景を認識して、改めて状況を理解する。
それでも意味がわからない。
なんなんだこれは。

クスクスと笑う女の霊の声が聞こえる。
いつのまにかすぐ後ろに立っていたようだ。
女の霊が恐ろしかったが、俺の目は少女だったモノに釘付けになって動かない。
耳元に囁く声が聞こえる。
「これがジローさんのやったこと。それで私がやったこと」
なんだ?
何を言ってるんだ?
「勘違いしないで欲しいんだけど、あの子にとってジローさんは被害者じゃなくて加害者。今さら正義ぶっても許されないんだからね?」
違う。
俺はこんなこと……。
「ジローさんが馬鹿なことしなければあの子が死ぬことはなかった」
違うんだ。
俺は本当にあんなことになるとは思ってなかった。
「ちょっとでも償うつもりがあるなら天道について知っていることを全部話して。じゃないと」
女の霊が後ろからピッタリとくっついて、俺の耳に口を寄せてくる。
「あの子がジローさんに伝えたがってる恨み。このままここで聞くハメになっちゃうよ?」

再び頭の中をイメージが埋め尽くす。
泣き叫ぶ友達を振り切って、窓を飛び出して落下する少女の、視線の先で笑う女の霊の顔。
近づいてくる地面。
なぜこんなことにという後悔。
暗転する視界。
今度は少女の目線で死に際を追体験させられ、俺は恐怖で立っていられなくなった。
その場に尻餅をついてへたり込む。

ニチャ…という不快な音がした。
音のした方には潰れた少女の亡骸がある。
見たくない。
また目が合ってしまったら、そう思うと恐ろしい。
ニチャ…ズル…と何かを引きずるような音がした。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
やめてくれ。
見たくない。
そう思うものの、確認しないと怖くて仕方ない。
ゆっくりと少女の亡骸に目を向ける。
「う……ぁあ……」
潰れた少女の亡骸が俺を見ていた。
へし折れた首を無理矢理に持ち上げようと小刻みに震えている。
でたらめに折れ曲がった手足を無様に動かして体を引きずっている。
俺に向かって。
「……ぁ……あ……」
体が動かない。
逃げようにも足にまったく力が入らない。
尻餅をついたまま後ずさろうとしたが何かにぶつかって阻まれる。
そういえば後ろにはあの女の霊が立っているのだった。
「………じろ………」
少女の亡骸が何かを言った。
歪んで垂れ下がった顎はおよそ何かを喋れるとは思えない。
「……ジロ……ざん……ジロー……ざん……」
目を見開いて頭を小刻みに震わせながら、少女の亡骸は確かに俺の名を呼んだ。
頭が真っ白になって何も考えられなかったが、ふいに股間が暖かくなる感覚がして、俺は意識を取り戻した。
小便を漏らすまいと力んだのがきっかけだったのか、足に力が入るようになったのが分かった。
横に転がるようにして立ち上がり駆け出す、つもりだったが、立ち上がったと同時に女の霊に髪の毛を掴まれた。
「なに逃げようとしてんのよ、ジローさん」
ぐいっと頭を引っ張られ少女の亡骸に顔を向けさせられる。
凄まじい力にまるで抵抗できない。
ブチブチと髪が抜ける音がした。
「……うぅ……やめ……」
少女の霊はすぐ目の前まで這い寄って来ていた。
折れた首を気味の悪い角度に捻って俺を見上げている。
「あああああああ!!」
気がつけば絶叫していた。
「……ジロー……ざん……」
少女の亡骸が折れた手を震わせながら俺のほうへ伸ばしてくる。
「やめてくれえええええ!!!」
声のかぎりに叫んだ。
女の霊や少女の亡骸に懇願したつもりだったが、この声で誰かが来てくれないかと思った。

ふいに女の霊が俺の頭から手を離した。
不安定な体勢だったので再び尻餅をついてしまう
ヤバイ、これでは少女の手が届く。
と思ったが、目の前にいたはずの少女の亡骸は消えていた。
周りを見回すも誰もいない。
寝静まった住宅街のコンビニの駐車場には俺と女の霊しかいない。
「続きはまた今度ね、ジローさん」
そう言ってクスクスと笑う女の霊の言葉に、今はとりあえず終わったのだ、と理解した。
全身が重く、息が苦しい。
体はどうしようもなく震えて冷や汗が止まらない。
立ち上がる気力もない。
ただその場に座り込んで呆然と目の前を見つめていた。

「ごめんなさい。ジローさん」
しばらく呆けていたら頭上から声をかけられた。
ゆっくり顔を上げると、勧請院さんが俺を見下ろしていた。
女の霊ではなく勧請院さんに戻ったソレは、目の前にしゃがみ込んで俺と目線を合わせた。
「本当に手荒な真似をするつもりはないんです。ジローさんが協力してくれたらすぐに帰りますから」
何言ってるんだよ。
死ぬほど怖えよ。
自然と内心に出たツッコミにようやく思考が回り始める。
「あ…あの……」
どうにか声を出す。
「ジローさん、立てますか?」
勧請院さんが俺の腕を取って立ち上がるよう促す。
「あ…ああ…はい」
震える膝をなんとか動かして立ち上がる。
「じゃあ、ジローさんの家で続きを聞かせてください」
深夜のコンビニの駐車場で、周りに誰もいないものの、そのままそこで話し続けるのは嫌なようだ。
かと言って周りには空いている飲食店もない。
立ち話でいいじゃないかと言おうと思ったが、また女の霊が出てきてはたまらないので、俺はその言葉に従う他なかった。

男の部屋に女性が一人で来るというのは抵抗あるだろうが、この場において弱いのは俺の方で、勧請院さんはなんの躊躇いもなく俺の部屋に入ってきた。
俺は自分の部屋番号がバレたことに今更気づいて後悔したものの、そもそもそんなこと勧請院さんにとってはなんの問題もないと思い直した。
俺に気づかせず一緒にタクシーに乗り込むような女だ。
同じように部屋に侵入するのは容易いだろう。
とりあえず冷蔵庫の中にあったペットボトルのお茶を出して、俺と勧請院さんはテーブルに向かい合わせに座った。
もうここまで来てしまっては覚悟する他ない。
洗いざらい話して一刻も早く出ていってもらうことだけ考える。
篠宮さん達には申し訳ないが、俺には女の霊をどうすることもできない。
「ちょっと…その…着替えてきてもいいですか?」
少女の亡骸を見せられた時に少量だがチビッてしまい、下着が冷えて気持ち悪かったのでそう聞いてみた。
「いえ、すぐに帰りますからこのまま話しちゃいましょう」
勧請院さんは俺の事情など知らずそう答えた。
「そう…ですね…はい」
俺は観念して座りなおした。
情けなさにため息が出る。

俺のため息を勘違いしたのか、勧請院さんが頭を下げた。
「さっきは本当にすいませんでした。私昔から、目の前の人が何かを隠してたり嘘をついたりすると、なんとなくわかっちゃうんです。それで…ジローさんが隠し事をしてるのがわかって、それであの子が怒っちゃって」
「ああ…いや…」
勧請院さんは霊能者だ。
そういう勘の良さというか直感力も人より高いのかもしれないが、見破られる方としてはたまったものではない。
しかもそれであの女が出てくるなんて冗談ではない。
「普段はこうして私の意思で動けるんですけど、あの子の怒りのエネルギーって本当に凄くて、ちょっとでも怒るとあの子の方が前面に出てきちゃうんです。私ではそれを止められなくて」
そう言うものの、目の前で淡々と語る勧請院さんに悲壮な雰囲気はない。

精神的にボコボコにされたあげく自室にまで乗り込まれたせいか、あるいは洗いざらい話すことを決めたせいか、俺はなかば自棄になっていた。
もうどうにでもなれという心持ちで、勧請院さんの話で疑問に思ったことを口にする。
「その割には、随分と落ち着いているんですね」
取り憑かれているにしては勧請院さんの物言いはあまりにも平坦だ。
他人事のようにすら聞こえる。

勧請院さんはハイと頷いて続ける。
「普段は私の意識の方が強いんです。当たり前ですけど、生きてるのは私ですから。それでもあの子の怒りに火がついちゃうと、どうしようもないんですけど」
「怒り、とは?」
殺された恨み。
そして箱の中に閉じ込められた恨み。
篠宮さん達に祓われて、手首を折られた恨み。
そんなところだろうか。

「とりあえずは天道に対する怒りですかね。あの子を箱の中に閉じ込めて苦しめた。それであの子は天道に復讐するって決めた」
「なるほど。それで協力的でない俺に腹を立てたと」
「はい。すいません」
いきなり現れて情報をよこせと言って、少し渋っただけで精神的に痛めつけるのか。
とんでもないヤツだ。
勧請院さんも勧請院さんだ。
あの女の霊が怒るたびに体を乗っ取られているわけで、どうしてそんなに平然としているのか。
俺の内心を察したのか、あるいは不思議な力で考えを読んだのか、勧請院さんが続ける。

「あの子の怒りに火がついちゃった時以外は私の力の方が強いんです。あの子が私を押し退けて出てくるのはすごく疲れるはずだから、滅多なことでは出て来ません。だから日常生活にはそれほど影響ないんです」
それに、と続ける。
「さっきも言いましたけど、私自身があの子の意識というか、感情と混ざっちゃっていて、特段苦しいとか、そういうわけではないんです。あの子もそうで、私の意識を追い出して体を完全に乗っ取るつもりはないみたいで、共存?しちゃってる感じなんです。今まで取り憑かれている人を除霊したりしてきましたけど、こんなふうになってることはなかったので、戸惑ってるというか、そんな感じなんです」
時折首を傾げながら、さも他人事のように客観的に自分の状態を語る。
どうやら本当に勧請院さんとあの女は体を共有しているようだ。

「お母様にはそのことを?」
向かい合って座ったことで会話する体勢になったからか、さっきから俺も落ち着いて発言できている。
今はこの秩序を保ちつつ、勧請院さん側の情報も出来る限り聞き出したい。
「母は…」
勧請院さんは少し俯いて逡巡するように言い淀んだ。
俺に話すかどうか考えているのだろう。
勧請院さんが取り憑かれて行方をくらました後、勧請院さんの母親は憔悴した様子で民明放送に連絡してきたという。
その後お母さんとはどうなったのだろう。

少しの黙考の後、勧請院さんは顔を上げた。
「母には霊媒の一種だと話してます。この状態になってからしばらくは不安定で、母にも悪い影響があるかもしれないと思って連絡を取らず隠れていたんですけど、この状態のことがわかってからは家にも帰っています」
なんと。
すでに家に帰っていたのか。
勧請院さんのお母さんも連絡くれれば良いのにと思ったが、立花さんのことを思うと俺達にはもう関わりたくないのかもしれない。

先ほどからヤケクソ気味の俺は、開き直って恐怖よりも好奇心に従うことにした。
女の霊を刺激しない程度に、聞ける話は全部聞き出してしまおう。
「あなたはそれで良いの?」
俺の言葉にはて?という顔で首を傾げる勧請院さん。
「その…取り憑かれてる状態が続くのは大丈夫なんですか?」
ああ、と言ってから勧請院さんは小さく頷いた。
「はい。少なくとも今はこの状態をどうにかしようとは考えてないです」
「あの女の霊はあなたのお父さんを…その…」
あの箱を車に乗せたせいで立花さんはおかしくなって事故死した。
いわばあの女の霊は勧請院さんにとって親の仇のはずだ。
そんな相手と共存するというのが理解できない。

「たしかにジローさんからしたらおかしいですよね。お父さんを殺した相手に取り憑かれてるのに平然としてるなんて、私自身でも変だと思います」
そう言ってから、少し考えるように一呼吸置いて続ける。
「でも私自身も、お父さんの仇を打つために天道に復讐をしたい気持ちがあって、あの子も私の気持ちと混ざり合ってお父さんのことを悔やんでいて、私とあの子の目標というか復讐の対象って同じ天道なんですよ」
そうか。
それで共感という言葉を使ったのか。
「だから天道への復讐が終わるまではとりあえずこのままでいいんです」
そう言って勧請院さんは言葉を切って俺を見た。

「なるほど。それで勧請院さんは今後どうするか、考えがあるんですか?その…復讐が終わった後は」
追い詰めたはずの俺からの質問に戸惑いも苛立ちもせず、勧請院さんは淡々と答える。
「あの子にあるのは怒りだけなんです。箱の中で食い殺してきた霊達の感情も全てあの子の中に溜まっちゃってて、箱の中にいた時は苦しさや憎しみが際限なくあの子を虐めるんです。だからもう何に対して怒っているのかわからないくらいにあの子は怒りで満ちている。強いて言うなら世界とか、神様でもいいです。とにかく周りの全てに対して恨みを感じている。それほどにあの子の怒りは強い」
でも、と言って机に目を落として続ける。
「あの子はその怒りを押し殺してでも私の中で人生を続けたがっている。あの子を見捨てた神様なんか信じられない。死後の裁きも導きもなかったからって」
死後の導き。
天道宗の呪術によって箱の中に囚われていたということは、死んだ後の展開がストップしていたということだ。
先祖の導きも、仏の救済も、神の裁きとやらも、何もなかった。
ただ箱の中で苦しみ続けていたと。

「あの子を殺した男達と天道に復讐さえできれば、あとの怒りはほとんどが他人の感情ですから、なんとか折り合いをつけてやっていけるんじゃないかって、そう思ってる。その思いがあの子の思いなのか私の思いなのか、わからなくなっちゃってるのが困りどころなんですけど、まあつまりそんな感じなんです。だから天道のことを教えてほしいんです」
凄まじい話だ。
天道宗のやっていることがどういうことか、箱の中の霊達がどうなっているのか、改めて聞かされると悪質さに吐き気がする。
あの時麦かぼちゃさん達に箱を開けられなければ、今もあの女の霊は怒りと苦しみを溜め続けていたんだ。
そして今も箱の中で苦しみ続けている霊達がいる。

「…………」
当然、なのかもしれないと、思ってしまった。
少なからず、あの女の霊の怒りは当然のものであると理解してしまった。
殺された少女や他のリスナーさん達、そして今まさに追い詰められている俺自身にとってはたまったものではない。
しかしその怒りの全てが根拠のない理不尽なものとは言い切れないくらいには、女の霊の立場を理解してしまった。
だから勧請院さんも共存を受け入れてしまったのだろうか。
それで良いわけがない。
そんなことわかってる。
だがどうしようもないことだ。

「教えてください。ジローさん。天道について知っていることを全部。そうしたら帰りますから」
俺の目を見てはっきりと言い切る勧請院さん。
これ以上は天道宗のこと以外に話すつもりはないということだろう。

俺はとっくに観念していたので、篠宮さん達に心の中で詫びつつ全てを洗いざらい話した。

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やこう

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