怪談・洒落怖

【新作洒落怖】田所君

投稿日:2020年12月18日 更新日:

665 :田所君6:2012/05/27(日) 01:40:16.71 ID:1HnKSW970

「僕の言いたいのはそこなんだよね。
もし『これは実際にあった話なんだけど』って言ったら、
みんなはどう思う?きっと、『うちの人形は大丈夫かな』とか
『うちに来たりしないよな』とか『捨てた人形が来たりして』とか、
不安になるんじゃないかな。だって、本当にあった話なんだもの。
みんなの人形がそうならないって、断言できないよね」
誰も何も言えなかった。俺たちの中に、一気に不安が噴出した。
え、あれ本当の話だったの?つーかグレートまじで言ってんの?
もしかしていままでの話全部実話なの?もう混乱のきわみだ。
「ああ、人形の群れは作り話だから安心してよ。
でもね、いまみんなが感じた不安な気持ち、
これが思いとなって僕の話に力を与えちゃうんだ。
一人とか二人とか、ソレくらいだったらきっとたいしたことない。
でも、何十人とか何百人とか、沢山の人が不安に思って
『本当に起こるかもしれない』って考えたら、
ソレが集まってすごく大きくて強い思いになるんだ。
その思いが、僕の怪談の『人形の群れ』に引っ付いたらどうなるか分かる?
それまでは僕の作り話だった『人形の群れ』が、本物になるんだ。
『本当におきるかも』っていう思いが強ければ強いほど、より本物になるんだ。
だから僕は、そうならないように作り話しかしないんだよ」

666 :田所君7:2012/05/27(日) 01:41:03.12 ID:1HnKSW970

田所君の「創作ではない話」を聞いた俺たちの心は一つだった。
「シャレにならない」。
つまり、怪談話を怖がれば怖がるほど、実際に起こるんだよ、と言われたようなものだ。
今考えれば言霊信仰とは全然関係ない気もするし、
これもある意味で創作だったのでは、とも思うが、
当時これを言われた俺たちは言霊信仰の真偽よりも
「怖がるとマジで起きる」というシャレにならない話に震え上がった。
この田所君の「創作ではない話」は、あっという間に全校に広まった。
そりゃそうだろう、今までなぜ田所君が作り話しかしなかったのか、
その理由が明らかになった上、怖がると嘘の話も本物になる、と言われたのだ。
これを機に、学校のホラーブームは完全に収束した。

これが、田所君の「創作ではない話」の一つ目だ。

667 :田所君8:2012/05/27(日) 01:42:51.56 ID:1HnKSW970

その後ホラーブームがぶり返すこともなく、俺たちは6年生になった。
ブームは収束したが全く怪談話をしなくなったわけではなく、
俺のクラスは時折田所君の怪談を楽しんでいた。
田所君の怪談を聞きに、他のクラスからもたまにやってきていた。
大きな問題もなく、せいぜい放課後に教室を占拠するくらいで
先生たちも大目に見てくれていた。

そして小学生最後の夏休み明け。
田所君は夏休みの終盤に体調を崩していたらしく、
2学期が始まって1週間ぐらい休んでいた。
「一人だけ夏休み延長してんじゃねーよ!」とみんなに言われ、
弱々しく笑っていたのを覚えている。
ともあれ、1週間お預けを食らっていた俺たちは、
今日の放課後楽しみにしてるぜ、と口々に言った。
いつものように放課後の教室に集まった俺たちは、
夏休みの思い出を交えながら田所君の怪談を聞いた。
その時の田所君の話は「蓋の話」。その内容は、以下のとおりだ。

668 :田所君9:2012/05/27(日) 01:43:45.34 ID:1HnKSW970

「ある小学生が、夏休みを利用して一人でおじいちゃんと
おばあちゃんが住んでいる田舎に遊びにいった。
田舎といっても寒村というわけではなく、それなりに栄えている町だ。
小学生は、自由研究で神社やお寺を調べるつもりだったので、
その町の神社などを回っていた」

「町外れの小山の上に建っている神社に行ったとき、
小学生はその裏手に何か妙なものがあるのを発見した。
木でできた蓋だった。直径150センチくらいの円盤で、
汚れ具合から見てずいぶん古いものだった。
手にとって見てみると意外なほど重く、かなりしっかりしたものだった。
厚さは10センチ近くあり、木の板を何枚も重ねて作ったもののようだった。
表は木目が分かるほどだったが、裏は何故か真っ黒に爛れていた」

669 :田所君10:2012/05/27(日) 01:44:33.81 ID:1HnKSW970

「小学生は、蓋があるならこの蓋をしていた穴か何かがあるのでは、と思い、
周辺を散策した。しかし何も見つからず、
諦めて帰ろうとしたときにふと思い立って神社の社の中を覗いてみた」

「その発想は正解だったようで、社の中には同じような蓋が置いてあった。
祭壇の上に飾られており、周囲を幾重にも注連縄が張られていた。
何に蓋をしているのかどうしても気になった小学生は社の中に入り、
祭られている蓋に近づいた」

「しかし不思議なことに、蓋は祭壇に立てかけられているだけで
『何かに蓋をしている』わけではなかった。
余計に好奇心をくすぐられた小学生は注連縄をくぐり、蓋の裏手に回った。
すると、薄暗い中分かりにくかったが、
蓋とほぼ同じ大きさの金属の円盤が貼り付けられているのが分かった。
この金属板もまたずいぶんと古いもののようで、酸化して真っ黒だった。
銅か青銅のようだった」

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