868 :Teddy ◆38avq92H7U :2005/11/27(日) 00:59:53 ID:L2HU3A4n0
(7/10)
しーんと静まった部屋で一同はおれを見つめた。テープを手に取
った。頭が真っ白だった。何分たったのだろうか。おれは、うっ
かり、余計なことを言った。「違います。でも、見てみたい。」ごく
り、と、皆が息をのんだ。怖かった。でも、おれは知りたかった。
責任者とはどんな連中か。あれは何だったのか。おれは、自己の責
任において、ビデオを見ることを決めた。管理人も、夫婦も、真相
を知りたい気持ちは同じだった。きっとこのビデオには何か手掛り
となる事実が映っている、と、誰もが直感した。その時、突然、お
れのPHSが鳴った。引越屋だ。あと1時間位で到着するそうだ。
良いタイミングだった。十分な時間が与えられた。
869 :Teddy ◆38avq92H7U :2005/11/27(日) 01:00:28 ID:L2HU3A4n0
(8/10)
テープは、この部屋を撮ったものだった。そこには、一家三人。
きゃっきゃとハシャグ2歳くらいの赤子。優しそうな男性(父親)
と美人だが陰鬱な顔の女性(母親)が写っていた。映像が切り替わる。
うるさかった部屋には、今度は誰も写っていない。画面の左り端
には、黒い影が映っている。撮影者の指のようだ。ただ、何だか
ゴトゴトと音がしている。しばらくじぃっと画面を見つめていた。
まわりは、すっかり夕暮れになっていた。「イヤァ!!」急に、
かぼそい悲鳴が響いた。一緒に見ていた奥さんだ。目を閉じて、
すっかり脅えながら、画面を指差して言った。「せ、せ、洗濯機の
なか。。。」おれは息をとめた。ゴトゴトいう音は洗濯機だ。そして、
よく見ると、何か見え隠れしてる。小さな赤く染まった手だった。
870 :Teddy ◆38avq92H7U :2005/11/27(日) 01:01:02 ID:L2HU3A4n0
(9/10)
内部に入ってる物は容易に想像できた。あの子だ。楽しそうに遊
ぶ姿が印象的だった、あの赤子だ。誰もが固唾を呑んで見ている
と、急に画像が乱れた。ざぁーと、波が入った。しばらくすると、
うつろな部屋が再び写された。皆、動けない。話せない。おれは、
背筋が凍りついた。洗濯機から赤い血糊が部屋の中へ、べったりと
いっぽんの帯となって続いている。そしてその先には、ズ・ズズ
ッと這うようにうごめく赤い塊があった。ぐちゃぐちゃで、顔も
手も、足も分からない。だが、一つ、異様に目に付くものがあった。
871 :Teddy ◆38avq92H7U :2005/11/27(日) 01:01:41 ID:L2HU3A4n0
(10/10)
大きく、異様に歪んだ口だった。口の中には、ぎょろりと、こちらを
じっと睨む瞳。血の滲んだ目だ。誰も声を出せなかった。沈黙の後、
だまっていた管理人が泣崩れた。「こんなことが。」赤い塊は「・・
ね」とつぶやき、洗濯機の中へと這い戻った。次の瞬間、画像が
上下した。床に落ちたのだ。続いて、画面に飛び込んだのは、意
識を失って倒れた撮影者だった。陰鬱な顔をした美しい女性。た
だ、美しさはもはや損なわれてしまった。真っ赤に染まったうつ
ろな顔。その鮮血は、崩れた左の眼孔から絶え間なく流れでていた。
おれは、その夜、部屋を出た。ホテルにつくと喩え様のない悲しみ
がこみ上げた。翌朝○天宮様へいった。彼らの冥福を祈るために。