実話怪談 怪談・洒落怖

怪談の体験者さんと執筆者さんが匂わせしてきてイライラする話

投稿日:2024年1月27日 更新日:

「この先の話もあるんだけど、それは言えないんだ」
こういう展開は怪談に限らず人に話を聞く仕事をしていれば出くわすことだろう。
何かクリティカルな出来事があるらしいのだが、『とある事情』とやらで話すことができないと。
「これ以上はマジで洒落にならないからごめん。〇〇さん、これ以上はまずいよね?」
「ああーうん、まずいね、まずい」
グループ通話のやり取りを聞いて内心でため息をつく。
うんざりしていた。
グループ通話の相手は当該の怪談の体験者とそれをまとめた怪談作家である。
彼らとツイキャス配信をするためのテストでグループ通話をしていた。
……ザー……
…………ザ……ザー…………ザーザーザー……
時折混じるノイズが耳につく。
スマホ全盛の昨今では珍しい、いかにもアナログ的な雑音。
配信をするのにノイズはまずいだろうと自分の機器をチェックする。
異常なし。
そうしている間にも作家と提供者の間でイチャイチャするような匂わせが続いている。
ちなみに両者とも男である。
『やれやれ。匂わせとかいいから。絶対に全部聞き出してやるからな』
そう思いつつ彼らの会話に合いの手を入れて話が盛り上がることを期待する。

……ザザー……

ノイズの周期は不規則で、ザーザーザーと連続することもあれば、ピタリと止まってしばらく聞こえなくなる。
ふと気づいてしまった。

これ、ラジオのチャンネルを合わせる動きに似ているな。

スマホ利用が当たり前の現在ではアナログラジオを扱ったことのない方もいることだろう。
アナログラジオというのは、周波数を動かすためのツマミをグリグリと回して目的のチャンネルに合わせる。
80.0とか79.5とか、ラジオ局によってチャンネルの周波数が変わる。
アナログラジオはそのメモリが大雑把なこともあって、『もっとも聞こえやすい場所を探してツマミをグリグリする』必要がある。
丁度良い周波数を探してツマミをグリグリしている時、目的の周波数に近づくと声が大きく鮮明になって、ツマミを回しすぎると行きすぎて声が聞こえなくなったりする。
そのツマミをグリグリしている時の音の強弱を、グループ通話の向こうから聞こえるザーという音に連想したのだ。

『チャンネルをこちらに合わせようとしている』

そのことに気づいた瞬間、不正アクセスを真っ先に疑った。
しかしイチ怪談作家とその提供者とのグループ通話に執拗に不正アクセスを試みる必要があるだろうか。
そしてこんなにもチャンネルが合わないことがあるだろうか。
まるでどうやっても我々のグループ通話にチャンネルを合わせることができないというように、先ほどから執拗にザーという音が大きくなっては行き過ぎる。

……ザー……
…………ザ……ザー…………ザーザーザー……

こちらにチャンネルを合わせようとしている何者かは執拗に熱心にツマミを回し続けている。
不正アクセスするほどの技術者ならばとっくに我々のグループ通話のチャンネルなど割り出すだろうに、一向にその何者かは我々の通話にチャンネルが合わない。

そして話題が逸れるとノイズも聞こえなくなることにも気がついた。
「本当に言えなくて申し訳ないんだけど、マジでやばいことが起きてたのよ」
……ザー……
「それはそうとさっきのツイキャスでさ」
………………
「どうしても言えないからキーワードだけ出すんだけど、日本軍なのよ」
…………ザ……ザー…………ザーザーザー……

話題がそのタブーに触れるたびに急激にノイズが大きくなる。
明らかに何者かがチャンネルを合わせに来ている。
その話題を歓迎しているのか、やめさせようとしているのかはわからない。
そして作家がこのタブーを執筆した作品はいわゆる『不完全燃焼系』の怪談だ。
「これ以上は筆者および提供者の身に危険があるため記さない」的な文言で終わるのだ。

「さっきからザーっていう音が鳴ってるけど、そっちに聞こえてる?」
私の呼びかけに作家は「聞こえてる」と答え、提供者は「聞こえない」と答えた。
ははあこれは提供者がイタズラしているな?と考える。
だがそれにしてはかれこれ2時間近くもこの現象は続いている。
一体どれほどの熱意でこのイタズラをしているというのか。

だんだん恐ろしくなってきた。
果たしてこのザーという音の向こうにいるのは何者なのか。
単なるイタズラなのか。
はたまた不正アクセスなのか。
それとも本当に未知のナニかがこちら側にチャンネルを合わせようとしているのか。

……ザー……
…………ザ……ザー…………ザーザーザー……

この試みが成功して、チャンネルが合ってしまった時に何が起きるのか。
作家や提供者の身に起きたような不可解で危険なことが起きるのではないか。
そのことを意識してから、『いいからさっさと真相を話せよ』という気持ちは無くなってしまった。
聞きたい欲求よりも聞きたくない欲求の方が勝ってしまったのだ。
チャンネルが会う前にやめておこう。
そう考えて私はそれ以上の追求をしなかった。

未知の何かが非常な熱意を持って接触しようとしてくる。
これまでに取材してきたどんな怪異とも違って、ソレは積極的で執拗だ。
話題がタブーに掠るたびにザーという音は聞こえてくる。
私も提供者もすっかりビビっており、我々が話題を逸らすとザーという音も聞こえなくなる。
しまいには提供者が作家に「あの作品を消してくれないか」とまで言い出した。
核心部分にこだわる作家とは対照的に、作品の削除を求める提供者。
違和感と好奇心に翻弄されつつも、未知の何者かの存在を感じて手を引こうとしている私。
チャンネルが合ってしまった時に不幸が起きるのではないか。
そしておそらくそれは致命的なレベルのことだろう。
作家と提供者に起きた不幸を鑑みて出した結論に従って、私はこの話題から撤退することを決めた。

こうして昨日の出来事を書いている間にも三度、スマートウォッチが心拍数の上昇を警告してきた。
非常にリラックスした状態で書いているにも関わらずだ。
ただの不摂生かもしれないが、このメモを書くだけでもアレの関心を買ってしまうのではないかという妄想が頭から離れない。

ツイキャス当日にもこの話題が出そうになったら、私は提供者と一緒になって話題を逸らそうと努力するだろう。
怪談作家の端くれとしてプライドが傷つくかと思ったが心は晴れやかだ。
『やばくなったら逃げろ』
敬愛する厭系怪談の開祖も言っていたじゃないか。
私はこの話題についてギブアップする。
どうしてもこの話の核心部分が知りたいなら執筆した作家さんにDMで問い合わせていただきたい。

  • この記事を書いた人

やこう

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