やこうの記事

拝啓 タラチヒメ様 04

なんだこれは。 何が起こった? 「…………」 俺は事態が飲み込めず、周りの景色を見回す。 見渡す限りどこまでも木々が広がっている。 足場は悪く太い木の根が血管のようにうねっている。 薄暗く、湿気が強く、濃密な木と土の匂いが辺りに満ちている。 人の手の入っていない原生林。 かつて少年期に迷い込み、2年前にも不思議な力で呼び込まれた、故郷の山。 あの恐るべき神様がうろつく、神の庭だ。   「…………」 なんだこれ。 心臓が早鐘を打ち始める。 冷や汗が頬を伝う。 やばいぞ。   その言葉が頭 ...

拝啓 タラチヒメ様 03

前田さんと実家に到着して、ものの1時間ほどで遥拝の準備ができた。 ゆっくりする間もなく、前田さんは冷水で体を清めて、笑ってしまうほどにガタガタ震えながら、白い着物を着せられて戻ってきた。 神職見習いの橋本君が用意してくれたベンチコートを羽織り、境内に持ち出された屋外用の石油ストーブに手をかざして震えている前田さんに声をかける。 「前田さーん、大丈夫です?」 ギギギと音がするほどのぎこちなさで振り向いた前田さん、よく見ると鼻が垂れている。 「ま…まだ11月なのに…やたら寒いっすね…」 「冷水は効きますからね ...

拝啓 タラチヒメ様 02

秋の気配が強まり、吹きすさぶ風も冷たく、そろそろ紅葉も見頃かなという季節。 俺はいつものように会社のパソコンでネットゲームに勤しんでいた。 同じようにパソコンに向かって、今夜に迫った納期を前に鬼気迫る雰囲気でマウスとキーボードを乱舞させている同僚をチラ見して、俺はモニターに目を戻した。 「…………」 冷たいなんて思わないでほしい。 俺と同僚では抱えてる案件が違う。 今更手伝いを申し出たところで、案件の詳細やら残っている作業の説明を受けている間に夜になってしまうだろう。 俺だって昨日までは納期に追われて徹夜 ...

拝啓 タラチヒメ様 01

「みーちゃんあのね、お母さん、ちょっと困ってるのよ」 電話を取るなり母はそう言った。 怪談ナイトの件で素姓がバレたかと思い、もしや怒られるのではと身構えたが、続いた内容は全く予想外のものだった。 「前田さんに連絡取れる?」 というのだ。 「んー?連絡取ろうと思ったら取れると思うけど、どうかしたの?」 安心してそう問いかける。 「よかった。前田さんにウチまで来てくれるようにお願いしてくれないかな」 なんと。 「なんでいきなり前田さん?」 と聞くと、母は昨日起こった出来事を話し始めた。 昨日、朝のお務めを終え ...

駅のホームにいる霊がどう見てもウルトラマンにしか見えない件(朗読会用)

136さんこんにちは。 初めてDMいたします。 僕が見たモノがなんだったのか、136さんならわかるかもしれないと思って、ご連絡させて頂きました。 数年前、僕が学生だった頃のこと。 通学に使っていたJR立川駅での出来事です。 僕は昔から人には見えないモノが見えてきました。 オバケだと思うんですが、人の形をしているわけではなく、白っぽいモヤのような感じで見えるんです。 動き回らず、風が吹いても飛ばされるわけでもなく、ただそこに突っ立っている感じです。 子供の頃はそれが怖くて親に聞いたりしたんですが、親には見え ...

第四部 最終話 事態の収拾。そして。

その時のことは、正直言って今でも信じられない、と思う。 よくできたCGを見せられているのかと思ったし、それならば篠宮さんの仲間達まで巻き込んだ壮大なドッキリ作戦だったわけで、それならそれで笑って許せるし、そうであればどれほど良かったかと思う。 昨日、相楽氏を待ちながら俺達は騒動の被害がどれほどまで及んだのかを調査した。 ネット系メディアはくまなくチェックしたし、個人のTwitterやブログまで出来る限り目を通して、怪談ナイトに言及しているものを片っ端からピックアップした。 友人や家族が自殺した、あるいは自 ...

第三部 十三話 それぞれの除霊方法

「ううぅうぅ…………」 背中を丸めて呻く平野さん。 老婆の真似をしているような姿勢だ。 口は半開きで、虚ろな目は白く濁っている。 一見すると取り憑かれた状態だ。 「ちょっと!平野さん!……平野さん聞こえる?」 和美さんが平野さんに声をかける。 部屋の隅にいる女の霊は動かない。 「こっちは任せたましたぞ」 そう言って嘉納が輪から離れて女の霊の方へ歩いていく。 一人で相手をするつもりのようだ。 「…………」 止めようか迷ったが、悠然と歩いていく嘉納の背中に妙な頼もしさを感じて、声をかけるのをやめた。 視線を平 ...

第三部 十二話 霊能者達

麦かぼちゃさんが民明放送に来たのは夕方になった頃だった。 窓の外が夕焼けのオレンジに薄く色づき、少し暗くなってきた会議室の電灯をつける。 相楽さんの到着から3時間あまり。 その間、相楽さんに取り憑いた悪霊をなんとか剥がせないかと色々試したが、結局なんともできずに時間だけが過ぎてしまった。 私の知る限りの祝詞をあげ、様々な手法を試したが、悪霊の腕はピクリとも動かず相楽さんの体をガッチリ掴んで離さない。 「…………」 自信がなくなりそうだ。 昔から霊に対してはそれなりにやってきたはずだし、やれていたのに。 困 ...

第三部 十一話 怪異の正体

民明放送で起きた心霊現象は日本に戻ってからも続いていた。 南米数カ国を巡る取材旅行に行くことになったのは、雑誌創刊30周年を記念した大特集のテーマに、オーパーツという今更なコンテンツを特集したいと編集長が言い出したからだ。 オーパーツなんて私が子供の頃にはすでに研究本やオカルト本は出尽くしているわけで、何を今更と思いながらも、会社のお金で南米旅行に行かせてもらえるのは素直に嬉しく、雑誌社に勤めてよかったと思える出来事でもあった。 騒ぎになった怪談ナイトのライブ中継が放送されている頃、私のいたメキシコは朝だ ...

第二部 十話 暗闇の惨劇

京都から帰った翌日、仕事の合間にツイッターやLINEやメールで各種の問い合わせや苦情に対応しつつも、俺はすっかり油断しきっていた。 民明放送の会議室で番組を継続するかどうか揉めた時も、解決したのだからこのまま続けたいという意見を、阿部ちゃんと一緒になって思いきり主張した。 ありがたいことに訴訟を起こされなかったことも番組継続の後押しになった。 あの放送から一週間。 今夜のラジオでこちらが把握している全てをありのままに発表するつもりだった。 もちろん立花さんのことなどは言わない予定だが、勧請院さんが現在も目 ...

第二部 九話 専門機関・高頼寺

高頼寺には30分ほどで到着した。 境内は広く、駐車場も20台ほど停められるスペースがある大きな寺だった。 相楽氏達が乗る高頼寺のワンボックスに並んで車を停める。 僧侶達が慎重に箱を境内へと運んでいく。 相楽氏が俺達に向かってこちらへどうぞというジェスチャーをする。 「まずは本堂で皆さんのお祓いをしましょう。本格的なお祓いは元凶の箱をなんとかしてからになりますが、取り急ぎ皆さんの体についた障りを祓います」 そう言って建物の方へ歩き始めた。 否応無しに着いて行く。 建物の中に入ると線香の香りが強くなり、自然と ...

第二部 八話 それでも進まなければ

気がつくと車は停止していた。 後頭部の痛みで現実に引き戻される。 阿部ちゃんはハンドルにもたれかかって肩を震わせている。 「うぅ……」 「痛てて……すいません」 後部座席の皆も生きてるようだ。 まだ少しぼーっとしていた頭がだんだん冴えてきた。 目の前には崖側に大きくひしゃげたガードレールが見える。 …………クソ! 一気に覚醒して車から飛び出す。 壊れたガードレールから崖下を覗くと、100メートルほど下に立花さんの車が見えた。 爆発炎上ということはなさそうだが明らかに大破している。 「…………」 助けなけれ ...

第二部 七話 つきまとう怪異

快調に高速を飛ばして昼過ぎには名古屋を通過。 高速を降りて国道へ入り、しばらくして山の中へと進んでいく。 だんだんとカーブが多くなっていき、人里離れた山道をひた走る。 山に遮られて日の光が届かない山道は薄暗く、ヘッドライトをつけても充分に注意しなければならない。 のだが、後ろからついてくる立花さんの車間距離がやけに短い。 煽っているようにぴったりとついてくる。 カーブに差し掛かるたびにブレーキを踏む阿部ちゃん。 当然だ。 しかしその度に立花さんの車と接触するんじゃないかとヒヤヒヤする。 「くっ……」 阿部 ...

第二部 六話 ネット炎上。救いを求めて京都へ。

「現状わかっている範囲で、友達や家族が自殺あるいは自殺未遂という書き込みが数件。番組あてに報告してきてる数なんで実際にはそれ以上いると思われます。本当に死んじゃった人の数は不明ですが、まあ……ゼロってことはないと思います」 「…………」 阿部ちゃんが淡々と読み上げる報告書の内容に言葉が出ない。 「自殺や未遂の他にも、体調を崩した書き込みは山のようにあります。無言電話とかポルターガイストとか窓の外に人影なんていうのはもう数えきれないぐらいなんで、途中で数えるのやめました」 「…………」 「炎上…って言ってい ...

第二部 五話 この悪夢は現実です

一体何がどうなっているのか。 予定より少し遅れて開始した生放送は1時間も持たずに中止となった。 派手にぶっ倒れた勧請院さんの容体を確かめる。 机にぶつけた拍子だろうか、結構な量の鼻血が出ている。 倒れ込んだまま動かない勧請院さんの肩を揺する。 右京さんは何もせずに見ているだけだ。 こういう時はどうしたら……。 小林アナが勧請院さんを手早く抱き起こして上を向かせている。 反応早いね。 その対応であってると思うよ。 などとたわいもない考えが頭をよぎる。 突然の事態に思考停止しているのが自分でもわかる。 「救急 ...

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