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怪談夜行列車

第六作 闇の鳴動

第一部 二話 霊能者インタビュー 嘉納康明 2

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―――まずは嘉納さんのお仕事についてお聞かせください。職種でも肩書きでもなんでもいいので。
「ふむ。職種は霊能者でいいでしょうな。肩書きだと当研究所の所長です。あとはいくつかの企業や団体の相談役という名刺もあります」
―――相談役ですか。
「ええ。多少は占いもできますから、企業や政治家の相談に乗ったり吉凶を占ったり、顧問弁護士みたいなもんです」
―――なるほど。
「あとは過去に解決した案件で恩義に思ってくれて、相談役ということでお給料を出してくれる会社さんもありますな」
―――それは心霊関係の?
「そうですな。会社の更衣室にオバケが出るだの、社長さんに憑いてる蟲を取ってくれだの、昔は案件を選ばずなんでもやってましたからな。伊賀野のお嬢さんも今は大層活躍されておるようですが、案件をこなした数だけは間違いなく私が日本一だと思いますぞ」
―――なるほど。ところでその過去の案件についてお聞かせください。社長さんに蟲が憑いていたっていうのは?
「ふむ、今から二十年ほど前でしたかなあ。とある企業の社長さんに憑いていた蟲を取ったことがあります。代々続いている貿易商の一族で、まだ代替わりしたばかりの若い経営者だった。台湾や香港と貿易をしとったわけなんですが、まあ祖父の代から引き継いだ利権で有利な商売をしているわけですから、競合する企業からしたら目障りだったんでしょう。台湾との貿易ルートを横取りしようと考えた企業が手を回して、台湾側の接待という口実で社長さんを台湾に招き、現地で手配した術士に呪いをかけさせた。その時に使われたのが蟲です」
———蟲。
中華圏で最もメジャーな呪術の一つですね。
知らぬ間に憑りつき運気や生気を吸い取るっていう。
「その通りです。訓練を積んでいなければ仕掛けられた方はまず気づかない。その社長さんの場合はまず健康に影響が出て、最初は病院を頼っていたんですが、次第に家族にも悪いことが起き始めた。それでようやく祟りや呪いの可能性に思い至って私のところに来たんですな」
———それでその蟲を祓ったと。
「そういうことです。それ以来すっかり懇意にしてくれてましてなあ、社屋の建て替えの時にも呼んでいただきました」
———なるほど。
そういった会社がたくさんあると。
「ふむ。下世話な言い方をすればスポンサーになってくれているわけですな。まあ、そういう肩書きもいくつか持っておるわけです」
———嘉納さんの活動の結果として支援者がいるわけですから素晴らしいことです。
それでは次に———

……………。

………。

…。

そんな感じで2時間ほどのインタビューを終え、嘉納心霊研究所を出ると空が夕焼けに染まっていた。
会社に戻る木下くんと別れて渋谷の街をぶらつく。
本日のインタビュー記事の構成やキャッチコピーなんかを考えながらブラブラと渋谷駅方面へ。
信号待ちでスマホを取り出す。
ツイッターを開くとタイムラインが動画で溢れかえっている。
数十件のツイートに全部動画がついている。
嘉納にインタビューする前にタイムラインを見た時には動画なんてなかったので、よほど話題の動画が拡散されているのだろう。
見ている間にもどんどん増えるツイートはほとんどが同じ内容で、スマホで一般ユーザー達が撮影した映像がリツイートされまくっているようだ。
映像は複数人が撮影しているらしく、縦撮りや横撮りの様々な動画が入り乱れている。

信号が変わりそうだったので少し移動して人とぶつからない位置で改めてスマホを見る。
大量に出回っている動画。
そのうちの一つをタップして再生する。
映像の場所は繁華街のようだ。
これは…池袋駅の東口だろうか。
激しく揺れる画面の中で男が叫んでいる。
『何してんの……何してんのマジで!!』
そう叫びながら男はビルの上に映像をズームしていく。
そこには男女数名がビル屋上の端に立っており、下を覗き込んでいる。
激しく揺れる画面だが、決定的な瞬間をしっかりと捉えていた。
1番左端に映っていた男性がゆっくりと飛び降りたのだ。
すぐに画面から切れて見えなくなる。
映像も落下する男性を追って下方に流れるが、遠くで動くものをズームで正確に追えるはずもなく、あっという間に男性を見失う。
映像が屋上に戻ると、そこには3人の男女。
さっきまでもっといたはずだ。
カメラの周囲で誰かが『やめろ……』と呟く。
数瞬の後、残る3人のうち2人が飛び降りた。
屋上に残る1人も下を伺うように覗き込んでいる。
カメラから遠くで喚き散らす誰かの声や『いやああああ!!!』という絶叫が小さく聞こえる。

屋上に1人残って下を覗き込んでいた最後の1人が、飛び降りを諦めたかのように屋上の端から遠ざかり、カメラの撮影位置からは見えない位置まで引っ込んだ。
撮影していた一般ユーザーと思しき男が泣きそうな声で映像に状況説明を入れようと試みる。
「えー……いま……飛び降りて…10人ぐらいいたんだけど……全員……ああ……1人は……思いとどまったみたいで……うう………とにかくヤバくて……池袋の駅前で……ああくそ………」
そこで映像が止まった。

「…………」
何が起きたのかはすぐに分かった。
ついさっき、池袋で、集団で飛び降り自殺をやった人達がいたんだ。
タイムラインにある他の映像を再生する。
先ほどの映像とは違う位置から飛び降りを撮影している。
白昼の駅前で、ビルの上から人がボトボトと落ちていく映像が、いくつもいくつもタイムラインに流れてくる。
ツイートには『池袋で飛び降り』のような短い書き込みが付いているものもある。
誰が飛び降りたのか、単なる集団自殺なのか過激な抗議行動なのか、普通なら立ち入れないようなビルの屋上にどうやって侵入したのか。
何もわからないしツイートの数々も混乱しきっている。
おそらくあの1人だけ躊躇して自殺をやめた女の人が、逮捕なり保護なりされて動機が明らかになるのだろうが、とにかく大変なことが起きた。
今日明日のニュースはこれで持ちきりになるだろう。

そう思っていたら、タイムラインにまた新たな映像つきツイートが流れてきた。
『渋谷で飛び降り衝撃映像』という文面を見て、はじめは池袋と勘違いしていると思った。
しかし動画のサムネイルに違和感を感じてタップする。
映像の最初の一コマが静止画で表示されているのだが、その景色に見覚えがあった。
流れ出した映像を見て確信する。
渋谷だ。
センター街の中ほどの、あの人が密集するエリアで撮影された映像が流れている。
その映像も先ほどの池袋同様、激しく揺れる画面の中で、ビルの上から次々に飛び降りていく集団を撮影している。
次々に流れてくる新たなツイート。
そのどれもが池袋と渋谷の飛び降り映像をリツイートしたものだった。

目の前の通りをけたたましいサイレンを響かせながらパトカーが通り過ぎていく。
緊急車両が通過するために周りの車や歩行者に停止を呼びかけるマイクの声は、怒鳴りつけるようで切迫した様子が伝わってくる。

「…………」
何が起こっているのか。
池袋に続いて渋谷でも集団で飛び降り自殺。
すぐに思いついたのは抗議行動としての自殺。
だが何の抗議だろう。
米軍?沖縄?
それでこんな過激なことをするだろうか。
香港の民主化運動やチベットの僧侶による焼身自殺が頭をよぎる。
だが日本でやる理由がないとすぐに考えを打ち消す。
テロ?
自爆テロならぬ自殺テロ?
そんなことがあるのか?

「…………」
いずれにせよ現場に急行せねばなるまい。
オカルト雑誌とはいえライターなのだ。
私はスマホをしまい、パトカーの通り過ぎた交差点で信号が青に変わるのを待つ。
遠くサイレンの音が聞こえる。
現場はすでに封鎖されているだろうが行けるところまで行ってみよう。
もはや嘉納のインタビューどころではない。

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やこう

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