実話怪談

バ怪談・閣下ですか?

投稿日:2024年3月31日 更新日:

池袋の飲食店で働くジュンという男性から聞いたお話です。
まず最初に断っておくことがあります。
それは『ジュン君は愛すべきバカである』ということ。
それではどうぞ。

「俺たぶん前世でめちゃくちゃ恨まれてるんすよ!」
とある小さなバーのカウンターに立ってアハハと笑う彼は、子供の頃からそれはそれは恐ろしい目に遭ってきたという。

子供の頃、ジュン君は知らなかったが実家に住んでいる両親や祖父母が頭を抱えていた出来事があった。
ある時期から深夜に実家の電話が鳴るようになったという。
最初に電話に出たのは祖父だった。
受話器の向こうは無言、いわゆる無言電話だった。
「もしもし?どちら様?」と何度問いかけても反応なし。
イタズラと判断した祖父は受話器を置いた。
その後も毎日ではないものの深夜に電話が鳴るようになった。
父が出ても母が出ても祖母が出ても無言電話。
これはいよいよ悪質なイタズラだと判断したがかかってくるものは防ぎようがない。
もともと祖父母が建てた実家で番号通知の機能がない電話機だったため、相手の素性はわからない。
警察に相談しようかどうしようかと考えていたという。
小学生だったジュン君は何も知らされず、家族がストレスで参っていることにも気づいていなかった。

夏休みのある晩、彼と兄は2階の自室で深夜までテレビを見ていた。
本人だったかモノマネ芸人だったか覚えていないが、現在10万61歳のとある悪魔が番組に出演していたという。
そんな時に階下で電話が鳴った。
こんな時間に電話をかけてくるなんて非常識なやつだなと思ったがそのままテレビを見ていた。
両親と祖父母は夕食後に近所の飲み会へ出かけたので、さすがに帰ってきているだろうが泥酔して眠っているのか電話に出る様子はない。
「ジュン出て来てよ」
兄がそう言った。
彼は文句を言ったものの兄の言葉に従ってリビングに行き電話に出た。
「はいもしもし」
こんな時間になんだと少し不機嫌な口調で受話器に話しかける。
相手は何も言わない。
「もしもし?」
しばらく無言が続く。
これはイタズラに違いないとジュン君は腹が立ってきた。
「あのさあ」
文句を言ってやろうとしたその瞬間、電話の向こうの相手が笑った。
クククともウハハとも聞こえる意地悪そうな男の声。
祖父と同じくらいの年だと思い、この相手の用事は祖父母のどちらかだったのかと思った。
自分が出たから戸惑っているのだと。

その時ガチャとドアが開いて両親と祖父母がリビングに入ってきた。
たった今飲み会から帰ってきたのだと解る服装。
受話器を持ったまま固まるジュン君と、それを見て困惑する両親と祖父母。
「電話線外してって言ったよね?」
母親が父親にそう言うと、父親は壁際に行って床から何かを拾い上げた。
それは普段は壁に刺してあるはずの電話線の端だった。
つまり今、電話機は壁に繋がっていないことになる。
そう理解した途端に恐ろしくなった。

受話器の向こうで男が笑った。
電話の相手が尋常の存在ではないと知ってジュン君はパニックになった。
どうしようという言葉を頭の中で繰り返し、一瞬の内に様々な思考が映像となって頭をよぎる。
先ほどまで見ていたテレビの映像がピタリと止まった。
「……閣下ですか?」
完全にパニック中の彼は深く考えられず震える声でそう聞いた。
電話の相手は無言のままだ。
母親がものすごい形相で駆け寄ってきてジュン君から受話器を取り上げて電話機に叩きつけるようにして電話を切った。

「あんた今誰と喋ってた!?」
肩を掴んで母親に怒鳴られ、彼はわからないと答えるしかなかった。
父親と祖父が電話線を持ってしきりに首をひねっている。
祖母は心配そうにジュン君を見ていた。
「カッカって誰!」
母親にまた問われて彼は「デーモン」と言った。
はあ?と母親が変な声を出して、彼は先ほど見ていたテレビ番組の事を説明した。
その説明に両親も祖父母も、ジュン君がふざけて電話線の繋がっていない電話でテレビタレントと話しているフリをしたのだと勘違いをした。
そして「このバカ!」と叱られ、ジュン君は恐怖と共に理不尽な親の叱責に何と言ってよいのか分からなくなった。
結局その後は深夜に電話が掛かってくることはなくなったという。

余談だが「閣下ですか?」という間抜けな問いに怪異が呆れて電話を掛けてこなくなったわけではないと思われる。
電話こそ掛かってこないものの、その後ジュン君の周りで不可思議な出来事が起こり始めた。
怪異は彼を探していたのだ。
大人になってからそのことを話すと「(オバケに憑かれていたのは)あんただったのか」と両親は笑ったという。
「笑いごとじゃねーんすよマジで!」とジュン君も笑う。
そんなジュン君の面白エピソードはまだまだあるので、そのうち書こうと思います。

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やこう

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