『怖い』を楽しむオカルト総合ブログ

怪談夜行列車

第六作 闇の鳴動

第三部 一話 呪者の影 1

投稿日:

笠根さんからの久々の呼び出しを受けた俺は池袋の北口にある中華料理店に来ていた。
北口を出てすぐの、プチ中華街とも呼べるエリア。
なんの食材かわららない中国語表記の食材が所狭しと並んだ食材店の隣、地下へと降りる階段の先にある本場仕様の中華料理店。
およそ9割の客が中国人という異国情緒あふれる店内には、やはり中国語のBGMが流れ、ジャッキーチェンが振り回してそうな椅子が丸いテーブルを囲むように配置されている。

笠根さんの姿は見えない。
約束の18時まではまだ少しある。
忙しなく働く店員さんを捕まえて、席を予約した笠根さんの名前を伝え、案内されたテーブルにつく。
青島ビールを注文して瓶のままチビチビやっていたら、背の高いイケメンが店内に入ってくるのが見えた。
どうやら1人のようだ。
事前の話によるともう1人いるはずだが。

「やあ前田さん、どうも」
そう言って軽く手をあげる笠根さん。
「どうも笠根さん、ご無沙汰してます」
立ち上がって俺も挨拶をする。
笠根さんとは2年前の事件以来、久しぶりの再会だ。
どうも最近、篠宮さんや笠根さんといった、「あの時」の面子とよく会うな。
つい先日の恐怖体験を思い出して気分が重くなる。
篠宮さんから呼び出しを受けて九州に行ったと思ったら、いつのまにか故郷の山に連れて行かれて、目の前で死の恐怖を味わった。
そのことを軽く笠根さんに話しつつ瓶の青島ビールを飲み交わす。

「それはまた、随分と恐ろしい目にあいましたね」
そう言って笑う笠根さんに頷く。
「いつだったか、笠根さん言ってたじゃないですか。お地蔵さんに祟られたって話」
「ああ、ありましたね、そんなこと。多分前田さんがやられたのと同じだと思いますよ」
神様の機嫌を損ねるという大罪。
少し眉をひそめられただけでも、死ぬほどのプレッシャーを受けるということを、俺も笠根さんも身をもって体験した。
まあ笠根さんの場合は仏様だけども。

「それで篠宮さんいるじゃないですか、ライターの。どうしたと思います?俺がチビリながら戻ってきたの見て、ゲラゲラ笑ってんすよ。あの人」
実際にはニヤニヤしていた訳だが、若干話を誇張して笑い話にする。
「いやそれも篠宮さんらしいというか。あの人、歳の割に肝が据わってますからね」
おかしそうに笑う笠根さん。
「あれ?笠根さんと篠宮さんって付き合いありましたっけ?」
疑問を口にする。
笠根さんは2年前の事件で篠宮さんに取材を受けた訳だが、その後に関わりがあったのだろうか。

「つい先日ですがね。篠宮さんに呼ばれて、何人かの霊能者でまとまって除霊をやったんです。その時にご一緒させていただいて。私なんかでいいのかなと思いましたが、伊賀野さんのお供みたいな感じで呼ばれたんですな」
はっはっはと笑いながら話す。
伊賀野さんか、懐かしいな。
元気になったとは聞いていたが、伊賀野さんにもご無沙汰だった。
久しぶりに会ってみたい気もする。

「そういえば嘉納康明もいましたよ。私と前田さんで訪ねて行ったら2000万よこせといってきたあのオッサン。いや、あの人も大したもんですわ。私と違って口だけじゃないんですなあ」
相変わらず笠根さんは楽しそうによく喋る。
酒が入ってるから尚更だろうか。
そうして笠根さんから合同除霊の顛末を聞かされ、流れるように今日の本題へと話がシフトした。
「それでその訳のわからん天道宗なる団体なんですがね、どうも事情を知ってそうなご老人がいるんですが、なかなかコンタクトが取れない御仁でして、今日はそのお弟子さんに来ていただくことになってるんですよ。19時集合と伝えてありますので、そろそろ到着すると思います」
その言葉を待っていたように、店の扉が開いて1人のスーツ姿の男が店に入ってきた。
男は笠根さんを見つけて真っ直ぐに近寄ってくる。
俺の視線に気づいた笠根さんが後ろを振り返り立ち上がった。

「ハオさん。やあどうも」
そう言って俺の時と同じように片手をあげる。
ハオさんと呼ばれたスーツの男は俺達の目の前まで大股で歩み寄って止まった。
どこぞの営業マンみたいなスマイルを浮かべて大きくお辞儀をした。
「カサネさん。お久しぶりです!お元気そうで何よりです!ハッハハハハ!!」
そんなデカい声出さなくてもいいじゃねーかという声量で喋るその人は、どう見ても日本人ではない。
この人が件のお弟子さんだというなら、お師匠にあたる人物もやはり中国人なのだろうか。

「マエダさん!はじめまして。私の名前は皓(ハオ)・宇玄(ユーシュエン)です!」
笠根さんから俺を紹介されたスーツの男、ハオさんが俺にも大きくお辞儀をしたあと、手を差し出してくる。
「ど、どうも、前田です」
若干ハオさんの勢いに押されつつ握手をして軽く頭を下げる。
笠根さんの仕切りで席につき、ハオさんの為の青島ビールと追加のつまみをいくつか注文して、ハオさんの自己紹介が始まった。

「私は先生のお供で日本にやってきました。先生が日本に来た目的は、日本で弟子を作ること。中国では先生の活動は少し難しいです」
聞いてもないのにハオさんはひたすら喋りまくった。
俺も笠根さんも相槌を打ったり打たなかったり、ハオさんのテンションに押されつつ聞き役に徹する。
ハオさんの話を要約するとこうだ。
コウさん(笠根さんは老師と言っていた)というハオさんの師匠は中国では名の知れた道士?というやつで、中国国内に3000人ほどの弟子がいる。
もともと中国にあった宗教っぽい集まりで、その指導者がコウ老師ということらしい。
それでこれまでずっと中国国内で活動をしてきたのだが、ここ数年、政治家の偉いさんの意向によって活動が邪魔されるようになってきた。

中国では団体がでかくなると政治家に上納金?を納めなければならないらしく、宗教的な活動にもいちいち行政の許可をもらわなければやってはいけないと。
それに反発すると団体そのものが取り潰しになりかねないらしい。
コウ老師も最初はうまく逃げ回っていたらしいが、どうやらそろそろ逮捕される可能性が出てきたということで、日本に活動の拠点を移したということだった。
ハオさんの怒涛のトークに30分近く付き合わされたわけだが、ここまででようやくハオさん達の自己紹介が終わったに過ぎない。

「それで日本の皆さんにも先生の術(ジュツ)を学んで欲しいと思っている。それが私達の活動です」
ハオさんの日本語はほぼ完璧だ。
だからハオさんはコウ老師の通訳兼マネージャーとして老師と一緒に日本にやってきたらしい。

「なるほど」
ようやくハオさんの口が止まったので大きく相槌を打つ。
「それで俺は、なんの用で呼ばれたんです?」
笠根さんに聞いてみる。
「ああ、それが本題ですね。ハオさんの計画を聞いてもらえますか」
笠根さんはそう言ってハオさんを見る。
ハオさん大きく頷いてまた喋り始めた。
「先生の術を見てもらうためにYouTubeを始めたいと思っています。そのためにマエダさんのご協力が必要になります」
はあ、と適当に相槌を打つ。
「前田さんは映像の仕事をしているでしょう?それで笠根さんに紹介して下さいとお願いしました」
ふむ。
仕事の依頼的なやつか。
笠根さんが話を引き継ぐ。
「いやね、先ほど話した天道宗なる怪しい団体。それを知っているらしいコウ老師。私は老師に話を聞きたい。それで窓口のハオさんに連絡を入れたら、まさかの老師ユーチューバー計画を聞かされて、それなら前田さんがいるじゃないかという感じで、今日の打ち合わせに至ったわけです」
一気に話しきる笠根さん。
実にわかりやすい。
「さっきの話に出てきたテレビ局の人達は?」
とりあえず気になったことを聞いてみた。
「いやそれが……」

笠根さんの説明はこうだ。
ラジオ番組から始まった心霊騒動の件で、天道宗なる宗教団体が関わっているのがわかった。
笠根さんは以前に老師からテンドウなる人物のことを知っているかと尋ねられたことがあり、その天道宗のことを老師に聞きに行きたい。
ハオさんに連絡して世間話から始めたところ、ユーチューバー計画を聞かされ、協力して欲しいと頼まれた。
つい先日知り合ったテレビ局のディレクターに相談するも、テレビ局のスタッフが動くとなると予算的にもかなりのものになるだろうし、仕事が忙しくて個人的に手伝うことも厳しいと。
それで俺の会社に頼めないかと話をもってきたわけだ。
思ったよりもちゃんとしたビジネスの話だった。

「まあウチは零細企業ですからね、テレビ局に頼んで番組作るよりは確実に安いですよ。それこそちゃんとした番組クオリティから素人に毛が生えた程度まで、やろうと思えばなんとでもなりますね」
ハオさんの希望としては格好良くハイクオリティな映像を作って老師をプロモーションしていきたいのだが、当の老師本人がYouTubeに全く興味がなく、そんな訳わからんものに大金なんか出せるかと怒られたらしい。
「先生は地道に活動していくつもりですが、今の時代に合った宣伝もしていくべきでしょう?だからなんとか先生を説得したい。そのためにサンプルというか、まずは私が出せる金額で映像を作っていただきたい。そう思っています」
ハオさんは苦笑しながらそう言った。
「なるほど」
話はわかった。

そうなればあとはいつも通りの打ち合わせだ。
ざっくりと予算を聞いて、それでできる範囲の撮影方法と編集方針を決める。
ゴールがYouTube配信だから、ぶっちゃけ大した案件ではない。
学生がスマホで始められるYouTube動画に、プロの仕事を持ち込んでチョチョイとやればいいのだ。
映像の制作は手をかければキリがないが、予算の範囲で出来ることをやればいいだろう。
社長に確認するまでもなく、俺は仕事を受けることにした。

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やこう

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